#119 受け入れ難い提案
「ねぇキミ、イリーナってキミの事かな?」
「えっと…………はい」
狩りを終え、酒場を中心にバロットについて聞き込みをしていると、渋めの冒険者に声をかけられた。
「バロットについて聞き込みをしているって聞いてね」
「あぁ、もしかしてバロットについて何か!?」
「ソレなんだけど、僕は良くないと思うんだよね」
「はい?」
「いや、疑惑があって聞き込みをするのは仕方ないと思うんだけど、やり方っていうかさ。ほら、冒険者って、信用が大事だろ? それなのに……。……」
どうやら、私の聞き込みの仕方に文句があるようだ。確かに、相手を犯人と決めつけて聞き込みをしているので、もし『バロットが犯人で無かった場合』は風評被害に繋がってしまう。
しかしそれとは別に、この男、どうにもノラリクラリとしていて気に入らない。先ほどから、上手く話をそらして、名乗りもしない、バロットとの関係も話さない。かと言って全く言わない雰囲気でも無いという。
「その、御忠告は感謝しますが、特に情報が無いのなら……」
「いや、だからね、僕がアドバイスというか、手伝って……」
自分で言うのもなんだが、この人が"ナンパ"である可能性は無いだろう。見たところこの人は、少しエルフの血が混じった人族。そうなると、種族的にドワーフやハーフリングなどの小型種(二次成長期に合わせて身長が伸びない種族)に恋愛感情を抱く事に対して異常性を感じる傾向が強い。
雰囲気からしてもバロットの仲間、あるいはお金を貰って擁護している協力者って感じだ。念のため、あとで身元を調べてもらおう。
「不要です。すでに証拠はある程度揃っています。聞き込みをしているのは、個人的な"事情"があるからですので」
「だからね! ……。……」
半分は憶測だが、それは特に問題ではない。確かにバロットが偶然『事件現場に居合わせただけ』の可能性も残っているが、それなら正規の方法で無実を証明すればイイ話。それが出来ないって事は…………事が大きくなって『記憶の照合』に発展されると困るからだ。
この事件、実はバロットを裁くだけなら簡単に出来てしまう。何せ"状況証拠"は揃っているのだ。あとはギルドに根回しをして強制的に事情聴取をしてもらい、そこで(お金はかかるが)上位の魔道具で記憶と証言の照合を取って貰えば済んでしまう。
それが出来ないのは、それを使ってしまうと『正規の手順で裁かれてしまう』からだ。余罪次第では、強制労働刑どまりで、死刑にならない可能性もあるし…………何よりカースマルツが関わってくる事なので、貴族が手を回して裁判そのものが『無かった事』にされる可能性が高い。
それでは復讐は完了したとは言い難い。何と言うか、ご主人様の言う所の…………『寝覚めの悪い終わり方』になってしまう。
「それでは、失礼します」
「ちょっと!?」
私は制止を無視して、その場を立ち去る。
*
「やぁ恭弥、探したよ」
「 ……人違いです」
「ははっ、相変わらず、冗談が好きだな」
「…………」
夕方、狩りを終えてギルドに顔を出すと、そこには"二足歩行"の光彦が待ち構えていた。
「今日は、頼みがあってね。少し、時間をくれないか?」
「俺はこれでも忙しいんだ。それじゃあ……」
相変わらず馴れ馴れしい光彦だが、足の事やデブの事、そこに加えて大勢の死を日常的に目にして…………ウザさが和らいでいると言うか、覇気が無くなっている。まぁ、当たり前だが、最前線では人が死ぬ。そこに少年漫画のノリで『仲間は死なせない』理論を挟む余地は無い。いや、第七階層に挑戦する者を厳選し、パーティー構成や戦略などを確り練り込めば、死者を減らす事自体は可能だ。
しかし、安全第一なんて保守的な考えで冒険者になったヤツが、わざわざユグドラシルに来る訳が無い。大抵は、第七階層に一攫千金の夢を見た命知らずであり、そんな彼らには(聖光同盟よりも)華々しく活躍して、欲望を満たしていくデブたちのパーティーが魅力的に映ってしまう。
「待ってくれ! 俺の! 俺のパーティーに加わってくれないか!!?」
「寝言は寝て言え」
もちろん、安全第一も間違った考え方ではない。実際俺も、無茶な狩りはしない主義であり、新入りにもそう指導している。しかし、過剰な仲間意識や、詐欺まがいの保険業で身内から搾取するのは理解できない。
結局、聖光同盟の正体は…………信者から資金を集め、貴重な回復薬を組織内で独占する"利権組織"なのだ。
「いや! パーティーは別でもイイ。一緒に、第七階層を攻略しないか? 恭弥だって、前線で華々しく活躍したい気持ちはあるんだろ??」
痛いところをついてくる。確かに俺は(ギルドが推奨する)第七階層の挑戦基準を満たしており、幾つか依頼も受けている。しかし、三ツ星や義足の開発など、前線に立たなくともそれに見合う収入や社会貢献は果たしており…………逆に『前線には行くな』と止める声もあがっている。
俺個人としては、もちろん興味はあるが…………しかし、人が集まり過ぎてMMOの人気狩場みたく、ポジション取りでモメる空気感は好きにはなれない。正直な感想としては『落ち着いてからノンビリ攻略させてください』って感じだ。
「お前には、デブが居るだろ? 受け入れてや……」
「止めてくれ!!」
「…………」
突然叫ぶ光彦。その声を聞き、ギルドも一瞬静まりかえる。
因みに上の様子は、ユグドラシルに戻ってきたスプラッター(メェル)経由で仕入れる体制を作った。彼女は、新興宗教の様相を見せる聖光同盟に入り、毎日、魔力の許す限り怪我人の治療にあたっている。ここだけ聞くと良い話に思えるが…………彼女に正義感や、光彦の思想に賛同する意思は無く、単純に血や傷を見るのが好きなだけで、内心では『安全第一だと怪我人が減るので嫌だ』と思っている。つまり、信者化する可能性は極めて低いのだ。
「いや、違うんだ。もちろん、交とは連携していき……。……」
歯切れの悪い返答をする光彦。
デブの面倒なところは、敵対関係ではなく、(歪んでいるだけで)友好関係にあるところだ。だから光彦としては無下にできないし、なにより、最前線で活躍するトップの派閥から完全に切り離されては、聖光同盟のネームバリューは維持できない。
「大人しく、第六階層で活動すればイイんじゃないのか? アソコなら、安全第一も通用するんだろ??」
あまりに哀れ過ぎて、俺としたことがマトモに返してしまった。
「いや、そうなんだが…………交には、世話になり過ぎていて、これ以上は……」
借金がある中で(足の治療費の)2千万と、貴重な上位回復薬が用意できたのは、ほとんどデブのおかげらしい。そのあたり、レア運もあるので一概には言えないが…………すでにデブの年収入は"億越え"に到達しており、トッププレイヤーに群がる商会や権力者も少なくないそうだ。
冒険者の収入は、地球で言えば"スポーツ選手"くらいだろうか? 年齢制限や怪我のリスクはあるもののトッププレイヤーになれば億越えは珍しくない。俺も、収入だけ見ればそのくらいは余裕だが…………趣味と事業に投資する額が多すぎて、手元に残る現金は殆どないのが現状だ。
「とりあえず、今は俺も指名や事業があって自由に動けない身の上だ。悪いが他を当たってくれ」
「そうか。それじゃ俺は、また……」
尻をサスりながら去っていく光彦の背中は…………あまりにも惨めであった。
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