#053 勇者裁判③

「アイツラは、確かに取り返しのつかない事をした! だが、根は良いヤツなんだ! 3人の事は俺が責任をもって更生させる! だから! 命だけは見逃してやってくれ!!」

「なるほどね、彼らが"死刑相当"の罪を犯した事は理解しているんだね」


 青白い顔の光彦が、予想通り3人の減刑を訴える。


 個人的に2人は死んで当然だと思うし、デブは…………やはりアウトだろう。デブを信じ、婚約を誓った女性があまりにも不憫だし、他の女性に関しては『何の罪もないのに身勝手な理由で脳を破壊された』のだ。彼女らの被害を考えれば、『死刑が妥当』以外の考えが思い浮かばない。


 罪を憎んで人を憎まず、なんて言葉はあるが、それは被害者のみに許される言葉であって、他人の俺や、ましてや加害者の味方の光彦が口にしていいセリフではない。


「コチラとしても、国の威信がかかっている召喚勇者を、犯罪者として処刑するのは本意ではない」

「え!?」


 意外と言ってはなんだが、ニラレバ丼は国の面目を優先した。やはり、ニラレバ丼の正体は、そういった立場にある重要人物、なのだろう。


「それでは是非! アイツラは俺が責任をもって"更生"させます!!」

「そういう議論は、してねぇんだよ!!」

「「!!?」」

「あ、いや、失礼しました」


 ついキレて大声を出してしまった。その光景を見て、丼物がニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべる。


 仲間を救う事が最優先の光彦には"更生"は重要なのだろうが、今の議題は『"罰"をどうするか』であり、3人の将来性はどうでもいい事。ぶっちゃけて言えば『生かしておくメリットとデメリットを天秤にかけている状況』なのだ。


「ハハハ、まぁ3人が役に立ってくれる様になるのは、ボクとしても嬉しいけど…………確かに"更生"は、ちょっとズレているね」


 とは言え、実のところCとDに"悪意"と呼べるものが殆ど無いのは事実だと思う。悪さがしたくてヤッたわけでもなく、誰かが堕ちる姿が見たかったわけでもない。そこだけ見れば、確かに更生は可能に思える。


 しかし2人の度し難い部分はソコではない。それは、他人に迷惑をかける事への抵抗の無さと、楽観的思考だ。『アニメのように記憶は都合よく消え、後遺症も残らない』と、ろくに確認もせずに結論付けた。力加減を誤れば、相手が廃人になってしまう事くらい容易に予測できるスキルを、私欲のために乱用したのだ。


「分かりました。確かに、アイツラは取り返しのつかない事をしました。その罪も、償わなくてはいけません。しかし、それでもアイツラは、俺の掛け替えのない"仲間"なんです! 俺に出来ることなら何でもしますから、どうか、寛大なご判断を……」


 正直、これでもまだあのバカ共を"仲間"と言える光彦に、言いようのない狂気を感じてしまう。ここまで言えるからこそ、クラスの連中は光彦を信じられるのだろうが…………何と言うか、もはや"宗教"の領域だ。


「さて! それで、質問の途中だったね。キョーヤ君、3人には、どんな刑が、相応しいと思うかい?」

「こ、ココまで来て、俺に投げるんですか!??」

「ハハッ!」


 ハハッ! じゃ、ねぇえええ!!





「おいおい、見ろよアレ。みっともねーな、漏らしてやがるぜ」

「まぁ、半日も磔にされてりゃ当然だけどな。しかし、意外だったよな」

「なにがだ?」

「いやさ、アイツラ、好き勝手言っていたから、もっと身勝手なヤツラなんだと思っていたら…………連帯責任で、自ら磔を志願したんだろ? 結構根性あるじゃなぇか」

「そうは思わないけど、まぁ、アイツラも勝手に召喚されて、俺たちを恨む気持ちがあったんだろうな」


 数日後、勇者寮の面々が広場で磔になった。


 3人は性犯罪を犯したため、衆人環視の中、性器が切り落とされた。そして、監督責任を問う形で光彦に賛同する勇者寮の面々が"自発的に"、3人と共に磔になる道を選んだ。


「そういや、被害者の女性はどうなったんだ?」

「なんでも、アイツラが稼いだ金で慰謝料を払って、和解したそうだ。今は国が用意してくれた施設で療養してるってよ」

「そっか、それはよかった。国も、たまには粋な事をするじゃねぇか」


 加えて、3人の死刑は無くなった。被害者も、精力増強剤を飲まされていたとは言え、合意した事は事実であり、慰謝料と、国からの支援を持って"和解"とした。


「しかし、てっきり俺は死刑だと思っていたんだが…………これで終わりなのか?」

「釈然としない顔だな」

「それは、まぁ……」


 裁判を傍聴した者は、あくまで事件の概要を"言葉"で聞いただけに過ぎない。多くの者は『最低でも2人は死刑になる』と考えたが、実際にどんな刑が相応しいかまで、正しく判断するのは難しい。


「安心しろって。実は、この話には続きがある」

「え? まだ何かあるのか??」


 3人の死刑が免除されるにあたって、勇者と貴族の間で取引がなされた。その内容は……。


「なんでも、ゲートキーパー戦に強制参加だってよ」

「おいおい、死ぬわアイツラ」

「だよな。いくらギフト持ちの勇者と言っても、まだブロンズだからな」

「まぁあれだ、勇者を処刑するなんて体裁が悪いから、3人には"名誉の戦死"って死刑が選ばれたって事だ」


 光彦は、3人の死刑を取り下げる条件として、自身や戦闘に適した能力を持つ者数名が『上層開放クエストに強制参加する』事を誓った。結果的に光彦は戦闘に適さない者たちと共に冒険が出来なくなり、勇者寮全体に大きな方針転換が求められる。


 加えて、死刑になるはずだった3人は『直接ボスと対峙する』事が義務付けられた。生きて帰れる保証のない戦場の、それも最前"列"に強制投入されるのだ。能力的には『まず間違いなく死ぬ』事が予想される。


 ただし、59Fの門番ゲートキーパー戦で充分な戦果をあげた場合、3人は強制参加の義務から解放され、光彦たちと同様に一般参加枠に加えられる。国の目的は、あくまで『多くの上層エリアの解放』であり、実力者には"相応の待遇"が与えられる。




 こうして召喚勇者たちは、前線へと、その舞台を移す事となった。


 第一章、完。

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