#052 勇者裁判②
「挨拶が遅れた。自分が警備隊の総指揮を務めている、"ゴルドフ・ル・ハルミンド"だ」
「え?」
「あぁ、彼は貴族だけど、一応極秘事項だから、ただのゴルドフでお願い」
「あ、はい。よろしくお願いします、ゴルドフ…………さん」
さり気なく出た爆弾発言に面食らう。裁判官をやっている人に何となく見覚えがあったのだが…………なんと警備隊の隊長さんだった。しかも貴族。状況から察するに"軍閥貴族"というやつだ。
「ダンジョンの経営は、国際法で国が直接関与できない事になっている。自分の事は、あくまで緊急時の指揮権を持つ、一般指揮官だと思ってくれ」
「それなら、わざわざバラさなくても……」
「ハハハッ、いや、ごめんね。キョーヤ君の驚く顔が見たくて」
そんな、テヘペロ、みたいなノリで言われても……。
「まぁ、そう言う事だ。自分の事は特別視する必要は無いが、もし何かあれば訪ねてくれ」
「その、お心遣い感謝します」
考えてみれば当然だ。表向きは『ダンジョンは冒険者ギルドに任せる』と言っても、内部状況の監視は必要不可欠であり、それが『ニラレバ丼1人』って事はあり得ない。
「彼は堅物そうに見えるけど、意外と話の分かるヤツだから、安心していいよ」
「少なくとも、ニラレバ様の悪ふざけにノッてくれる程度には、砕けた人だと分かりました」
「ハハッ! そう言う事」
ポンポンとゴルドフさんの肩をたたくニラレバ丼。その雰囲気は"旧友"といった趣で、何となくニラレバ丼の正体も透けて見える。
「つもる話もあるだろうが、あまり悠長に構えていると外の連中が騒ぎだす。先に決める話を決めてしまおう」
「あぁ、そうだね。それで、キョーヤ君は…………本来なら彼らにどんな刑が下されるか、分かるかい?」
「そうですね、"
磔は、社会的に影響力のある事件を起こした場合に課せられる刑で、生きたまま柱に釘で打ち付けられ、丸1日公開される。性器切断は、性犯罪を犯した者の性器を切除して2度と性行為を行えなくする。そして最後に、重犯罪を犯した者は死刑となる。大抵は絞首だが、磔があるのでそのまま火炙りになる可能性もある。
まず間違いなく、3人に重犯罪を犯した意識は無いだろうが、精神・記憶操作を対人で使うのは国際法レベルの禁忌。地球で言えば"ロボトミー手術"を現代でやるようなもの。まぁ加減はしていたようだが、それでも複数人に行使したなら、数え役満で死刑となるだろう。
「よく勉強しているね。因みに、死刑までいかなかった場合は、鼻や耳も落とすよ~」
「だが今回は、酌量の余地はない。殺すしかないだろう」
「そうですか……」
デブに関しては、精神操作を受けていたので審議の余地があるが、CとDに関しては完全にアウト。アニメだと精神操作は敵がよく使ってくる戦法だが、実際にコレを受けると脳が損傷して、重度の後遺症が残りやすくなる。実際、被害女性やデブにはその兆候が見られる。
「因みにキョーヤ君の住んでいた世界では違うの?」
「そうですね、そもそもギフトが存在しない世界ですけど…………死刑にはならないはずです。成人は20歳からですし、前科や精神状態でかなり減刑されます。デブは精神操作を受けていましたし、2人も直接犯行には関与していません。大体、懲役20年くらいでしょうか?」
「なにそれ? 軽すぎない? それで被害者や民衆は、納得できるの??」
「いや、ごもっともです」
返す言葉が無い。日本では人を殺しても、悪意が無ければかなり減刑される。それは前提が"更生"であり、高い人権意識が根底にあるからだ。しかしこの世界は、あくまで"償い"を目的としており、多少の減刑や司法取引はあるようだが、それでも犯した罪はキッチリ償う事が求められる。
昔見たドラマの裁判で、『彼は初犯であり、反省している事から減刑を……』なんて話を聞いて『反省しているなら、何で進んで刑罰を受けないの?』と疑問に思ってしまった。弁護士の仕事がそう言うものなのは分かるが、それでも『加害者なんてどうでもいいから、被害者が救われるべきだろ』と思ってしまう。
「話がそれていないか? 早く刑を決めないと」
「そうだね。それで、キョーヤ君は今回の判決、どうしたらいいと思う? 参考までに聞かせてよ」
「それは…………」
その時、テントの外が慌ただしくなった。
「おい、ここは立ち入り禁止だ! 勇者であっても……。…………!!」
「頼む、ここを通して……! 俺は……」
間違いない、光彦だ。この期に及んで無実を訴える事はしないだろうが、それでも仲間が死刑になろうとしているのだ。それを止めるのは『主人公の務め』であり、俺には出来ない芸当だ。
「フフフ、面白い事になって来たね。いいじゃない。彼も中に入れてあげようよ」
こうして、神聖なる審議の場に、招かれざる客が加わる。
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