#051 勇者裁判①
「それではまず、大まかな事件の……。……」
司会の声をかき消す勢いで、集まった観衆が思い思いの意見を交換する。場所は広場に設けられた特設の裁判会場。
「や~、キョーヤ君、やっぱりキミも来ていたんだね。よかったら、一緒に特等席で見物しない? ボクはホモじゃないから、本来は男を連れ歩いたりはしないんだけど、ちょうど事情に詳しい人物が欲しかったんだよね~」
「……よろこんで、御供させていただきます」
何も知らないバカ貴族が『気まぐれで壇上に解説役を上げる』ってテイで、俺は傍聴席から立会人席に移動する。もちろん、これは"偶然"ではない。最初から仕組んでいた事だ。
「皆さん、ご静粛に。…………これより、審議にうつります。容疑者の3人はコチラへ……」
両手両足が拘束された3人のバカが姿をあらわす。
「交! 信二! 大悟! 俺は信じているから! 絶対に諦めるなよ!!」
「そうよ、私たちがついてるから!」
「「…………!」」
3人に声援が送られる。一応、美穂からこの世界の"裁判"の流れは聞いているはずだが…………どうやら光彦たちは、いまだに3人の"無実"を信じているようだ。
うん、頭大丈夫?
「それでは、スキルなどを使われないように、3人には薬を飲んでもらいます」
「「えっ!?」」
驚く3人。飲まされるのは『意識が朦朧となる薬』で、同時に意思を読み取るマジックアイテムの効果を高める意味もある。まぁ、一言で言えば"自白剤"だ。地球ならありえない話だが、相手はギフト持ちであり、いざとなればギフトで自分の記憶を消したり、周囲の人を攻撃・洗脳したりする危険がある。
非人道的な裁判に抵抗する3人だが、そもそもココは異世界であり、従う以外に選択肢はない。
「それでは、被告人に幾つか質問をしていきます。まずは……」
裁判官が3人に、事件の事実確認をしていく。その際、裁判官や立会人は、言葉だけでなく、マジックアイテムを通して証言を深い部分まで読み取る。これにより、情景を映像として認識できるほか、表現から生まれる齟齬も起きなくなる。
ここまですれば偽証は不可能に思えるが、単純な誤認や記憶操作などの弱点もある。よって、被害者や証人なども続けて質問し、その信憑性を高めていくのだ。
「よって被告の3名が犯罪を犯したのは明らかであり、然るべき制裁を課す必要があると考えられます。以上」
大まかな事件の経緯が語られ、会場に集まった観衆が思い思いの感想を口にする。だがそこに、会場の騒めきを静寂に変える、力強い声が響き渡る。
「そんな! 交たちがそんな事をするはずがない! 何かの間違いだ!!」
「そうよ、信二君たちがそんな事をするはずが無いわ! 証拠はあるの!!?」
「「そうだ、そうだ!」」
俺からすれば、非常に納得のいく理由であり、先ほどの証言や一連の流れに不審な点は見受けられない。
ってことで、3人は死刑でお願いします!
っとは言えないのがクラスメイト、とりわけ問題なのが完全無欠の主人公である"光彦"だ。彼はどんな局面でも…………諦めず、仲間を信じ、奇跡を起こす。しかしそういうのは、今は求めていない。
「静粛に! ここは君たちの意見を聞く場では無い! 静粛に!!」
「なにが聞く場では無いだ! 好き勝手言いやがって!!」
荒れる会場。最悪の場合、ヒートアップしたバカが剣を抜く可能性すらある。当然ながら、この場で剣を抜けば、現行犯。裁かれるバカを悪戯に増やす結果になる。
「いや~、まいったね~。キョーヤ君、どうしよう?」
「別に、簡単ですよ。クラスを先導しているのが光彦なら、アイツにバカ3人と"記憶を共有"してもらえばいい」
「ふふふ、キョーヤ君は残酷だね~、信じている仲間の本性を、あんな精神の未成熟なガキに体験させるなんて」
「興味ないです。信じると言ったのは、光彦本人、なのですから」
光彦のギフトは3つあり、その1つが<統率者>だ。効果は、周囲の仲間全員に意識を伝達する、いわば<念話>の強化版スキルだ。そこにパーティーの制約は無く、光彦に賛同する者なら誰でも恩恵が受けられる。ただし、この能力は"発信型"に特化しており、受信には対応していないそうだ。
「それじゃあ…………ボクたちが審議している間、彼には3人と記憶を共有してもらいましょう。それでも意見があれば、一応、聞いてあげるから」
「そ、それなら……」
渋々光彦が壇上に上がる。今の状態で3人と繋がれば、言葉としてだけでなく、『その言葉を発する際に思い出した光景』も見る事が出来る。頭が万年お花畑状態の光彦でも、映像証拠を見せられては、納得せざるを得ないだろう。
そして何より、いくら
こうして、光彦は代表して
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