#050 交
「そんな! お前らが俺をハメたんだろ!!?」
「はぁ? ハメるもなにも、ヤったのはお前だろ!?」
「俺たちは"お前に"頼まれて記憶を消しただけ。そもそも"レイプ"したのは、お前の意志じゃん」
警備隊の基地の地下室で鉄格子越しに醜い言い争いを繰り広げる男たちがいた。
しきりに『自分はハメられた! 真犯人はアイツラだ!!』と主張する太った男の名前は、田中
そしてそんな彼の人生を大きく変える事件が起こった。そう、異世界転移だ。これにより、彼は"一時的"に顔や身体能力を改善・向上させる術を得た。
「れ、レイプじゃ!? (一応)合意はあったんだ……」
「ホント、言いがかりはよしてほしいよマジで。むしろ俺たちは、お前が無茶した女を助けてやったんだぜ? 壊れた女なんて体を売るしか生きる道ねぇだろ? たく、酷いことするよな~、女を薬付けにするなんて」
「だから俺は薬なんて使ってねぇ!!」
冷静に切り返すのは信二と大悟。信二のギフトは<
2人は日本に居た頃、顔や学歴を武器にナンパをして『知り合った女性を他の男に紹介する』商売をしていた。当然ながら商売なので、紹介する相手の素性は知らず、なにより女性に"合意"をとらない無責任なものであった。
「確かに俺は、記憶を消す能力を持っている。だがそれは、犯罪の証拠を消すためにお前に"脅されてしかたなく"やっただけだ。あとはお前の意志と、上で買ったヤバい薬のせいだろ?」
「何が脅された、だ! 女は全部、お前たちが稼ぐために仕組んだんだろ!!」
「だから、証拠はあんのかよ?」
「だよな。俺たちは尻拭いをしてやったんだ。むしろ感謝してほしいくらいだぜ」
交は、時間制限こそあるものの戦闘向きのギフトであったため、この世界の女性冒険者と2人で寮を出て、本格的にダンジョンを攻略していた。相手の女性は交の素顔を知っていたが、それでも彼を受け入れ、良い関係を築いていた。それこそ『2人が結ばれるのは時間の問題』だと思えるくらいに。
「くそ! お前等が絶対に足がつかないから、平気だって言ったんじゃないか! なのにアッサリ見つかりやがって! 糞! クソ! くそくそくそくそくそくそくそーー!!」
「糞がクソクソうるせーんだよ。このレイプ魔が」
「これだから、拗らせ童貞はダメなんだよ。童貞捨てても、拗らせた性格は治りませんってか?」
「黙れ、クソ! クソクソクソ、なんでいつも思い通りにならねぇんだ! なんで俺ばっかり、俺ばっかり……」
そして時は流れ、彼女は結婚を前提に交に体を許した。ここまでは何の問題もない、良い話であった。問題が起こったのはその後。
日本基準では未成年にあたる交にとって、"結婚"の2文字は重く、悩み、苦しむようになった。
そこに助けに入ったのが信二と大悟だ。信二は『永続的な記憶の消去』が可能であり、大悟は相手の『理性を低下させる』能力を持っていた。これにより、結婚の話を一時的に無かった事にして、代わりに彼女や、他の女性数名の理性を一時的に低下させ、"その場だけ"の行為を繰り返した。それは、完全な快楽目的であり、現実逃避でもあった。
「しっかし、なんか拍子抜けだよな? もっとこぉ…………個室で取り調べを受けたり、最悪、拷問チックな事も、想像していたんだけどな」
「だな。結局、"変な椅子"に座らされて、事情聴取されただけだったし。これはもう、犯人は確定したって事だよな?」
自分の無罪を信じ、笑みをこぼす2人。
そう、交に『ギフトを悪用したナンパ』をさせていた真犯人は2人だ。2人は直接手を下す事はせず、交の理性を低下させる事で、この結果に行きつく状況を作り出した。そして2人は、その尻拭いを引き受ける形で交から金銭を受け取っていたのだ。
「だろうな」
「だったら、サッサと出してほしいんですけど~」
「まったく、なんか不気味なんだよな」
2人は、見張りの表情に一抹の不安を抱いていた。しかし、その理由が分からない。2人の犯行は、ギフトを利用した『証拠の残らない犯罪』だ。つまり"完全犯罪"であり、裁かれるのは交のみとなる。
問題だったのは、栄子や美玲との勝負に焦って派手に動いてしまった事。これにより、記憶を消した女性が詰所に保護される事態に陥り、折角"金ヅル"として育ててきた交を切り捨てなければならない状況になってしまった。
「くそ、なんでこんな事に、せっかく彼女も出来て…………この世界なら、幸せに、なれるはず、だったのに……」
そして翌日、彼らは拘留所から出され、観衆が待つ裁判会場へ、向かう事となった。
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