#054 光彦
「くそ! 攻撃が全然通じないぞ」
「そんなの、見た目で最初から分かっていたことだろ!」
「それはそうだが、じゃあどうしろって言うんだよ!」
若い男女のパーティーが、ゴーレムの対処に苦戦する。
「みんな落ち着け。相手の足は遅い。落ち着いて関節を攻撃するんだ!」
「わかった、光彦、お前を信じるぜ!!」
ゴーレムの足は鈍く、攻撃も大振りだ。落ち着いて対処すれば回避は可能だが、道は狭く、何より固い。土とも石ともとれない無機物の体に、剣がはじかれ、徐々に距離は縮められていく。
「すまない、俺が儲け話につられたばかりに、やはり、俺は……」
「自分を責めるな! 俺だって最後は提案に賛同したんだ。お前に罪があるなら、俺だって同罪だ!!」
危機的状況下でも、敵の攻撃はなかなか当たらず、話をする余裕も無くならない。
「そんな! 光彦君は悪くないわ! 私がもっと、魔法を上手く使えたら」
「いや、もう充分助けられているさ。それに、はっ!! 分かりにくいけど、剣の攻撃もちゃんと通っているから」
パーティーメンバーは"ほどほど"の実力であり、機転や油断で戦闘力が乱高下する。そして、トラブルメーカーがパーティーから外される事は無く、どこに行くにもメンバーを変える事はしない。
「よし! やっと倒せた。やはり、分かりにくいだけで、ちゃんとダメージは入っていたんだ」
「最初は焦ったけど、落ち着いて考えれば、結構いけそうな気がするな」
「だな。対処法さえわかれば楽勝だ!」
初戦の相手は毎回苦戦するが、2度目からは苦戦しない。
「チッ! 次が来たぜ。それも、今度は2体同時だ」
「いや、まだ来る! 3体だ!!」
「「そ、そんなぁ……」」
しかし、定期的に窮地に追い込まれる。
「みんな、絶対攻撃を受けるなよ! 確実に1体ずつ、潰していくぞ!!」
「「応っ!!」」
「フン! 俺の防御力を、舐めるなよ!!」
「残念でした。それは幻さ!」
申し訳程度に、仲間の見せ場も用意される。
「しま!? …………あれ?」
「油断しすぎだ」
「すまない光彦、助かったぜ!」
味方を助ける時は、瞬間移動でもしているかのような速度で間に割って入る。
「光彦君! 危ない!!」
「しまっ!!」
岩の壁を突き破る勢いで盛大に吹き飛ばされる。通常なら確実に即死する衝撃だが、仲間も含めて打撃攻撃で死ぬ事はない。
「今、回復するから!」
「大丈夫だ、これくらい」
取り分け彼の打撃耐性は異常で、味方の声援や回想を挟むことで何度でも立ち上がる。
「少し前の俺では敵わなかっただろうが、今は違う! 俺は自分の実力不足を理解し、血のにじむ様な特訓をした!!」
決して、最初から本気は出さない。
「まさか! 3日間姿を消していたのは、特訓をしていたからだったのか!!?」
パーティー内で1番強いのに、仲間を差し置いて秘密特訓をする。そして、驚くほど短期間でパワーアップする。そして差をつけられた仲間は、知らないうちにまた同じくらいの実力差に成長する。
「後ろだ。そんな速度じゃ、俺は捉えられないぜ」
そして背後に回り込んで語る。強くなっても、決して相手を瞬殺はしない。
「だが、相手は剣がほとんど通じないんだぞ!?」
「問題ない。これが俺の、新たな力、だ!!」
斬撃は飛ばせる。
「凄ッ! 固い体が、簡単に斬れていくわ!!」
「嘘だろ? どうなってんだ!??」
なぜか剣本体の攻撃よりも、飛ばした斬撃の方が強い。
「1つ! 2つ! ……お前が、最後だ!!」
覚醒後は、今までの苦戦が嘘のようにワンショットキルにかわる。
「くそっ、光彦に、また差をつけられちまったな」
仲間もヨイショを欠かさない。
「俺が居る限り、仲間は死なせない! 絶対に、皆で地球に、帰るんだ!!」
因みに、既に1人死んでいる。
「やはり、光彦は俺たちのヒーローだぜ!」
「光彦、いっけ!!」
「うぉぉぉぉ!!」
最終局面になると、仲間は手をださず声援に回る。とうぜん、1人で戦う事になる。
「「光彦!!?」」
「はは、ギリギリだったけど、何とかなったぜ」
最後の相手には、とりあえず先に膝をついて負たっぽい演技をする。
「「おぉぉぉぉ!!」」
「おい、見ろよ、コレ!」
そして最後に、都合よくレアドロップを拾って終わる。
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