#097 冒険者組・始動

「くそ! だから俺は移籍なんて反対だったんだ!」

「反対って、途中からノリノリだったじゃねぇか!」


 酒場の片隅に、言い争う2人の姿があった。


「終わりだ。仲間も装備も失って、おまけに右腕も……」

「最近は高性能の義手もあるそうじゃないか。それじゃあ、俺はここで……」

「ちょ、待てよ! テメー、どこ行くつもりだ!?」

「どこって、パーティーはもう解散だろ? せめてもの餞別だ。ここの代金は払っておいてやるよ」

「おい待てよ! 言い過ぎた、謝るから! だから見捨てないでくれ!!」


 冒険者の世界は無情である。どれだけ信頼を謳った仲でも、戦えなければパーティーにおく価値は無い。


 誰もが見て見ぬふりをするやり取りに、1人の女が穏やかな口調で声をかける。


「大変な状況なのは察するに余りありますが…………良ければ、私にお話を聞かせて貰えないでしょうか?」

「はぁ? なんだお前」

「その顔つき、勇者だよな?」

「今、このユグドラシルダンジョンには、冒険者同士で助け合う、"新たな冒険者の在り方"が定着しつつあります」

「「はぁ……」」


 2人は、最近ユグドラシルに移籍したばかりの冒険者であり、第七階層に挑戦して早々に壊滅した。


「それってアレか? みんなで儲けを分け合って、素人を育てたり、怪我をしたやつの生活を保障しましょうってヤツ」

「ハッ! 何が悲しくて素人に儲けをくれてやらなければいけないんだ!!?」

「くだらない。他所から来たから分からないだろうが…………冒険者の世界は……」

「我々の組織、"聖光同盟"に加入していただければ、今からでも貴方方のケガや新たなパーティーメンバーのマッチングなど、全てコチラで支援させてもらいます。聖光同盟のリーダーである光彦様は…………決して、貴方方を見捨てません」

「「…………」」





「なかなか、動きやすくてイイですね」

「むしろ、なんでこんなにピッタリなのよ!?」

「うん。手に馴染む……」


 冒険者組の初期指導も終わり、本日、新調した装備と共に本格的な活動を許可する。


「分かっていると思うが、調子に乗ってアッサリ死ぬなよ」

「そういえば、第七階層では毎日のように死傷者が出ているんですよね……」

「流石の私も、上の人たちの命知らずっぷりには、ちょっと付いていけないかな?」

「アレは、ただの蛮行。行かなくていいから」


 新人冒険者がイキって早死にするのは『よく聞く話』だが、魔物の怖さをよく知る3人には、無用の忠告だったかもしれない。



 それはさて置き、3人の為に用意した追加装備は……。

・畜産家(レア)

武器:メイス・牛刀・ボーンナイフ

防具:カイトシールド・ハンタースーツ・グリーブ


 畜産家のポジションは、防御寄りの解体担当であり、上半身は動きやすく、それでいていざとなればタンク役として前に出られる変則的な構成にした。


・クッコロ(ミネルバ)

武器:ツヴァイハンダー

防具:ストーンアーマーセット・ビキニスーツ


 前衛火力として積極的に前に出るクッコロは、スタンダードな両手剣スタイルにした。そんな中で特筆すべきは、アーマーをストーンシリーズにした点。名前からして石製に思えるが、実際にはストーンタートルの甲羅(布や革パーツもある)で出来ており、金属製と木製の中間の強度と重量になる。特徴は、強い衝撃を受けると『綺麗に砕ける』ところで、変形しての圧迫や破片が刺さる心配がない。


 ビキニスーツは、本来はダンサー向けの超軽量防具で、インナーや水着とは別物。カバーできる面積は極端に狭く(後ろから見たら紐しか見えないほど)本来はこの上から半透明のローブを纏う。


・弓子(ティアナ)

武器:ハンターボウ・バトルウィップ・ナインテール

防具:ハンタースーツ・狙撃手のグローブ・ブーツ


 弓子は、そのまま弓使いの装備にしたが、近距離用の装備として鞭を選んだ。なんでも最近ハマっているらしく、本人の希望で中・近で2種類の鞭を用意した。



「うぅ、ちょっと、胸元が苦しいですね」

「!!?」

「あぁ、ハンタースーツは、(靴紐みたいな)胸元の紐を緩めてサイズ調整をするらしい」

「あぁ、妙に紐が余るので変だと思っていたんです」

「…………」


 胸元を緩める畜産家の姿を、同じハンタースーツを装備する弓子が険しい表情で見守る。今更謝っても藪蛇だが…………格差を強調する形になってしまった。


「これ、本当にキレイに砕けるのよね?」

「そうらしいけど、どうなんだろうな?」

「ちょっと、ハッキリしてよね!」

「いや、俺は鍛冶師じゃないし……」


 クッコロの防具は壊れる事も考えた造りであり、パージ後は防御力皆無のビキニ姿となる。当然ながらこの状態で動き回れば簡単にポロってしまうのだが…………どうにも戦士として過度に女性扱いされるのが嫌らしく、当初はビキニスーツの着用すら嫌がったほどだ。


 そのあたり、日本とは価値観や気候が違うので難しいところだが…………この世界では、胸元を見せるのは抵抗が無いらしく、逆に生足はNG。当然ながら股間はNGだが、どうもクッコロ的には尻くらいなら気にしないようで、何度かウチで裸のクッコロに鉢合わせした経験がある。


「ミネルバ、あまり我儘を言ってキョーヤさんを困らせてはダメよ。あんまり度が過ぎるようなら…………"また"お仕置きしなくちゃね」

「うっ、それは……」


 鞭を手に、サディスティックな表情を見せる弓子に対し、クッコロは複雑な表情を見せる。


 俺としては、日に日に"Sっ気"を増していく弓子が心配でならないが…………クッコロに絡む分には俺得でしかないので止められずにいる。


「あぁ、そうだ」

「「??」」

「ハンタースーツが気に入らなかったら、レザースーツもあるから」

「それは…………ちょっと、あとで試着させてください」


 3人の中で1番胸部の主張が控えめな弓子には、ボディーラインが出てしまうレザースーツは似合わないと思ったが、結局ハンタースーツでも胸囲の格差は出てしまう。それなら、今の弓に合わせた装備を諦め、鞭にビジュアルを合わせていくのも"あり"なのかもしれない。




 そんなこんなで、3人は着実に仕上がりつつあった。

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