#098 腐ったミカンと実習訓練
「おい、見つかったか!?」
「いや、ダメだ。やはり、危険を察知して逃げたようだな」
物々しい雰囲気を放つ冒険者が、裏路地で誰かを追う。
「その調子だと、そっちも空振り?」
「いくら"変身能力"を持っていると言っても、ココまで見つからないとなると…………誰かが
「匿うって、誰が何のためにアイツを助けるって言うのよ?」
「そんなの知るかよ。問題は、"どうやってヤツを事故死させるか?"だ」
「このまま引き籠られて、タイミングを逃すのだけは避けたいわ」
彼らの目的は、現在、リハビリと義足の調整中の光彦が復帰する前に、問題児である『交を暗殺する』こと。
交には、光彦の命を救ってもらった恩こそあるものの、光彦の精神を追い込んだのも彼であり、彼の存在は今後『大きな障害になる』と判断した。
「とにかく! 今のブタは危険だ。最悪、自ら光彦を襲って再度"合体"を試みる可能性だってある」
「いや、その合体って表現、止めない? それに光彦が説得して、交の目を覚ましてくれる可能性だってあるわけだし」
「確かに可能性で言えば、どちらも"ある"んでしょうけど、私たちは、より! 確実に光彦様が助かる選択を選ばなきゃいけないの。それこそ、ブタを犠牲にしてでも……」
彼らの中でも、クラスメイトを手に掛ける選択は流石に意見が分かれるようだ。しかし、光彦が最優先なのは一貫しており、尚且つ、彼らにとって"交"は『居ない方がいい』存在であった。
「そう言えば…………その」
「なによ、ハッキリしないわね」
「いや、その、信二たちからチラッと聞いた話なんだけど……」
「「…………」」
その名を聞いて、場が一瞬で静まり返る。その名は、誰もが忌み嫌うものであり…………勝手に死んでくれた、ある意味『ありがたいパターン』であった。
「なんでも、汚れ仕事を請け負ってくれる冒険者がいるらしい」
「汚れ仕事って…………つまり
「ほんと、死んでくれて正解だったよな。むしろ、もっと早く始末しておかなかったから、裁判や、1億の借金を背負う事になっちまった」
「そうね、だからこそ! 私たちはこれ以上大きな問題が起こる前に、"腐ったミカン"を処分しなくちゃいけないのよ」
「それじゃあ、交の捜索に加えて、その冒険者ともコンタクトを取る方針でいいか?」
「「異議無し!」」
確かに問題を起こす者を処罰するのは"正義"かもしれない。しかし、英雄なき正義の集団は、所詮エゴイストの集まりでしかない。
*
「ゼロ、再会できて嬉しいよ」
「ロゼさんも、お元気そうで何よりです」
ついにやってきた、魔法学園の実習訓練。ロゼさんに引率される形で、数名の学生と、護衛の兵士と思われる一団がやってきた。
「すまないね。この日の為に、施設を改装してくれたんだって?」
「こっちの都合もあって、大部屋をちゃんとした相部屋に改装しただけですから。それより、彼女たちですか?」
三ツ星や冒険者組の活動も軌道に乗り、追加の人員を受け入れる体制を整えていた。(まだ受け入れてはいない)このタイミングでの実習訓練は、正に丁度いいタイミングであった。
「紹介しよう。ウチの……。……」
・実習生
セレナ:器用貧乏タイプで、レイピアを用いたエルフスタイル。家があまり裕福では無いので冒険者志望。専攻属性は風。
メェル:支援魔法が得意だが、攻撃魔法や運動は苦手。受け身な性格で志望などは決まっていない。専攻属性は水。
サーラ:魔法攻撃力はそれなりに高いが魔力量は低い。貴族では無いものの家柄が良く、研究員か文官を志望している。専攻属性は火。
ウチで受け入れるのは女性3人だが、冒険者ギルドの寮を借りる形で更に男性3人が加わり、実習生は計6人となる。期間中、冒険者の生活や魔物との戦闘を体験してもらい、最後は実習試験に挑んでもらう。
「しかし、なんですの? この臭い……」
「この香りは…………燻製ですね」
「やはり冒険者だと、保存食を口にする事も多いんでしょうね」
三者三様。育ちのいいサーラは何でも手掛けるウチを『訝しんだ目で見ている』が、庶民的なセレナは『抵抗は無く』、中間のメェルは『詳しくは無いが理解はできる』、くらいの感覚のようだ。
「それじゃあ、施設を案内します。生徒の皆さんが寝泊まりするのは、奥の2階で……。……」
試し屋の脇を抜けて、生徒が利用するエリアを案内する。
今日はもう俺の出番は無いが、明日以降、サバイバル体験や魔物との戦闘。そして実習試験と目白押しの内容が控えている。
こうして、魔法学園の実習訓練が始まった。
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