#099 冒険者の将来
「くそっ! やっぱりアイツラ、ワタシの事を……」
巨漢の女性のような誰かが、息を荒げながら林を進む。
「キャンプ地に戻った方が…………でも、居場所を把握されるのは……」
命を狙われている巨漢が葛藤する。このままダンジョン内に隠れた場合、もし見つかればもっとも危険なのは目に見えている。だからと言ってキャンプ地に戻れば、刺客に自分の行動を完全に把握されてしまう。
巨漢には、仲間と言える者は、もう居なかった。
「でも、諦めない! ワタシは、愛の為に生き! 愛の為に死ぬの!!」
*
「キョーヤさんは、様々な
「用途次第だが…………単純な日常使用なら柔らかくて薄いオーク、防御力は意外にゴートが高い。でも質感重視なら、魔力抜けが起こらない動物製がイイみたいだな」
「なるほど……」
実習はひとまず引率の講師陣に任せ、午前中の開いた時間を利用してレザー協会の依頼『各種スネークの皮の収拾』をこなす。
そんな中で、熱心に質問してくるのは弓子。鞭やレザースーツに興味があるらしく、最近色々調べているようだ。
「そう言えば…………こっちの世界で"エナメル革"はまだ見たことが無いな」
「そのエナメル革とは、なんですか?」
「革の表面に油とか樹脂を塗りこんで、テッカテカにした革の事だな。通気性は死ぬけど、防水性が高いから、鞄や靴によく使われていたな」
この世界だと、魔法素材で耐性を持たせることも可能なので、あまりそう言った加工は流行らないのだろう。実際、エナメルでもシリコンでも、傷ついたら終わりの表面加工に対して、耐性素材は素材全体に耐性があり、部分補修も可能となる。
何と言うか、化学的な加工は、付け焼刃と言うか『グレードの低い製品』に見られる固定観念があるようだ。
「それは、興味深いですね」
「艶があるから金具とも質感が合うし、通気性を確保するために、あえて大胆にパーツを分けて露出やスリットを調整するのがお洒落なんだ」
意外なものがツボに入ってしまうのはよくある事。実際、レザースーツは制服と同じく、着ると気合が入るようだ。
個人的にレザースーツやボンテージは、もっと高低差の激しい大人の女性にこそ似合うと思うのだが…………ロリBBAやロリ女王様なんて概念もあるので、アリなのかもしれない。
「こんなところでしょうか?」
「お疲れ。畜産家には、やはりオーバーオールか?」
「はい??」
スタイルで言えば畜産家の方が"女王様"だけど、やはり牧歌的な雰囲気漂う畜産家にはオーバーオールに牛乳タンクが似合いそうだ。流石にダンジョンには不向きだが、ウチ用の作業着として支給するのもイイかもしれない。
「ボス~。次の~~!!」
魔物を連れ、軽快に走るルビー。実際に狩りをする際、ゲームと違ってドロップを回収する"手間"はバカにできないものがある。そんな中で重要になるのが、魔物を生かしたままキープする技術だ。
「よぉ~し、そのままコッチに!」
「おう!」
人を丸のみに出来そうなほど巨大な蛇を引き連れたルビーが、満面の笑みでコチラに駆けてくる。このまま抱きしめてやりたいほど可愛いが……。
軽くしゃがみ、俺の上をルビーが飛び越えていく。代わりにやってきた可愛くない蛇が俺に牙をむく。
「まずは顎! 次は、喉!!」
開いた口を、左手ですくい上げる形で強制的に閉じさせる。そして右手に持った忍者刀を喉に突き立て、更に出来た切り口に<サンダーバースト>を低出力で叩き込む。内蔵と神経を破壊され…………蛇は数秒後の訪れる死を、まどろみの中で実感する。
「お見事です。流石はご主人様ですね」
「お帰り。やはり、運搬役がいると、効率がいいな」
「それでは、続けて解体します」
「任せた」
「うぅ……」
入手した素材をギルドに運んでいたイリーナとクッコロが戻ってきた。何やらクッコロは最近、様々な事で悩んでいる姿を見かける。今回は、エモノの扱いについてだろうが、対人戦や冒険者としての心構え、あるいは単純に装備構成など…………剣一筋だったクッコロにとって、現場での体験は得るものが多いのだろう。
「やっぱり、弓や両手剣だと、エモノを傷だらけにしちゃうから"商品価値"が下がっちゃいますよね」
「はぁ~、短剣の使い方も、覚えようかな」
「冒険者の仕事は、素材採取だけじゃないけどな」
当たり前だが、討伐系クエストなら殺傷力が高い方が有利であり、命あっての物種なので、俺のように素材へのダメージに気を使う冒険者は少数派だ。それで買取価格が多少変動したところで、生活ができるのなら『自分の都合を優先する』のも、それはそれで1つの"答え"だと思う。
「冒険者と言っても、色々種類があるので…………将来の事も含めて、確り考えていく必要がありますね」
「まぁ、1年あるんだ。ジックリ考えてくれ」
「「はい……」」
畜産家なら、1年後に冒険者を辞めてまた牧場で働く選択肢もあるだろうし、弓子なら引退後に革製品を取り扱う店を開いてもいい。もちろん冒険者として戦場に骨を埋めてもいい。そこに後悔が無ければ、それでいいのだ。
こうして俺たちは、午前中は冒険者業に専念し…………午後からは魔法学園の実習に加わる流れになっている。
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