#099 冒険者の将来

「くそっ! やっぱりアイツラ、ワタシの事を……」


 巨漢の女性のような誰かが、息を荒げながら林を進む。


「キャンプ地に戻った方が…………でも、居場所を把握されるのは……」


 命を狙われている巨漢が葛藤する。このままダンジョン内に隠れた場合、もし見つかればもっとも危険なのは目に見えている。だからと言ってキャンプ地に戻れば、刺客に自分の行動を完全に把握されてしまう。


 巨漢には、仲間と言える者は、もう居なかった。


「でも、諦めない! ワタシは、愛の為に生き! 愛の為に死ぬの!!」






「キョーヤさんは、様々な皮革ひかくを採取してきたんですよね? オススメとかって、ありますか??」

「用途次第だが…………単純な日常使用なら柔らかくて薄いオーク、防御力は意外にゴートが高い。でも質感重視なら、魔力抜けが起こらない動物製がイイみたいだな」

「なるほど……」


 実習はひとまず引率の講師陣に任せ、午前中の開いた時間を利用してレザー協会の依頼『各種スネークの皮の収拾』をこなす。


 そんな中で、熱心に質問してくるのは弓子。鞭やレザースーツに興味があるらしく、最近色々調べているようだ。


「そう言えば…………こっちの世界で"エナメル革"はまだ見たことが無いな」

「そのエナメル革とは、なんですか?」

「革の表面に油とか樹脂を塗りこんで、テッカテカにした革の事だな。通気性は死ぬけど、防水性が高いから、鞄や靴によく使われていたな」


 この世界だと、魔法素材で耐性を持たせることも可能なので、あまりそう言った加工は流行らないのだろう。実際、エナメルでもシリコンでも、傷ついたら終わりの表面加工に対して、耐性素材は素材全体に耐性があり、部分補修も可能となる。


 何と言うか、化学的な加工は、付け焼刃と言うか『グレードの低い製品』に見られる固定観念があるようだ。


「それは、興味深いですね」

「艶があるから金具とも質感が合うし、通気性を確保するために、あえて大胆にパーツを分けて露出やスリットを調整するのがお洒落なんだ」


 意外なものがツボに入ってしまうのはよくある事。実際、レザースーツは制服と同じく、着ると気合が入るようだ。


 個人的にレザースーツやボンテージは、もっと高低差の激しい大人の女性にこそ似合うと思うのだが…………ロリBBAやロリ女王様なんて概念もあるので、アリなのかもしれない。


「こんなところでしょうか?」

「お疲れ。畜産家には、やはりオーバーオールか?」

「はい??」


 スタイルで言えば畜産家の方が"女王様"だけど、やはり牧歌的な雰囲気漂う畜産家にはオーバーオールに牛乳タンクが似合いそうだ。流石にダンジョンには不向きだが、ウチ用の作業着として支給するのもイイかもしれない。


「ボス~。次の~~!!」


 魔物を連れ、軽快に走るルビー。実際に狩りをする際、ゲームと違ってドロップを回収する"手間"はバカにできないものがある。そんな中で重要になるのが、魔物を生かしたままキープする技術だ。


「よぉ~し、そのままコッチに!」

「おう!」


 人を丸のみに出来そうなほど巨大な蛇を引き連れたルビーが、満面の笑みでコチラに駆けてくる。このまま抱きしめてやりたいほど可愛いが……。


 軽くしゃがみ、俺の上をルビーが飛び越えていく。代わりにやってきた可愛くない蛇が俺に牙をむく。


「まずは顎! 次は、喉!!」


 開いた口を、左手ですくい上げる形で強制的に閉じさせる。そして右手に持った忍者刀を喉に突き立て、更に出来た切り口に<サンダーバースト>を低出力で叩き込む。内蔵と神経を破壊され…………蛇は数秒後の訪れる死を、まどろみの中で実感する。


「お見事です。流石はご主人様ですね」

「お帰り。やはり、運搬役がいると、効率がいいな」

「それでは、続けて解体します」

「任せた」

「うぅ……」


 入手した素材をギルドに運んでいたイリーナとクッコロが戻ってきた。何やらクッコロは最近、様々な事で悩んでいる姿を見かける。今回は、エモノの扱いについてだろうが、対人戦や冒険者としての心構え、あるいは単純に装備構成など…………剣一筋だったクッコロにとって、現場での体験は得るものが多いのだろう。


「やっぱり、弓や両手剣だと、エモノを傷だらけにしちゃうから"商品価値"が下がっちゃいますよね」

「はぁ~、短剣の使い方も、覚えようかな」

「冒険者の仕事は、素材採取だけじゃないけどな」


 当たり前だが、討伐系クエストなら殺傷力が高い方が有利であり、命あっての物種なので、俺のように素材へのダメージに気を使う冒険者は少数派だ。それで買取価格が多少変動したところで、生活ができるのなら『自分の都合を優先する』のも、それはそれで1つの"答え"だと思う。


「冒険者と言っても、色々種類があるので…………将来の事も含めて、確り考えていく必要がありますね」

「まぁ、1年あるんだ。ジックリ考えてくれ」

「「はい……」」


 畜産家なら、1年後に冒険者を辞めてまた牧場で働く選択肢もあるだろうし、弓子なら引退後に革製品を取り扱う店を開いてもいい。もちろん冒険者として戦場に骨を埋めてもいい。そこに後悔が無ければ、それでいいのだ。




 こうして俺たちは、午前中は冒険者業に専念し…………午後からは魔法学園の実習に加わる流れになっている。

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