#100 セレナと下ネタ勇者
「そ、それでは、その、よろしくお願いします」
「あぁ。よろしく」
ぎこちない挨拶。年相応と言えばその通りだが、冒険者志望としては心もとなさを感じてしまう。
「にしし、恭弥。相手が子供だからって、手を出しちゃ、ダメだよ~」
「え?」
「お前、そういう冗談は相手を選べ」
「冗談って言うか…………まぁいいや。この落とし前は、お尻ペンペンでお願いします」
不本意ではあるが、今回のパーティー構成は……。
前衛:A子。タンク役であり、積極的に攻撃には参加しない。
中衛:俺。索敵がメインで、攻撃はあくまで補助に止める。
後衛:セレナ。ポジションは後衛だが、レイピア装備と言う事もあって場合によっては前にも出る中衛よりの後衛。
実習でのパーティーは、生徒の希望を反映する形で指名リストから第三希望まで聞き、それに応じて3回ほどお試しパーティーでダンジョンを散策する。そして最後に、本試験として課題に挑戦する事になる。
また、当たり前だが指名要因の中には何人か『低い階層なら1人で余裕』と言えるほどの実力者や器用貧乏が混じっている。その場合、生徒の指示した
間違っても、イキって学生相手にマウントを取りにいってはいけない。これはあくまで生徒の為の実習であり、パーティーリーダーも生徒となる。
「あっそ(無視)それで、どこに行けばいい?」
「あ、はい。得意属性は"風"なので、とりあえず14Fか15Fに……。……」
セレナの第一印象は"陰キャ"だ。そのあたり、(家が貧乏)学園でのヒエラルキーも影響していると思われるが、俺もどちらかと言えば陰キャ組なのでそこまで嫌な印象は無い。まぁ、リーダーとしては主体性が無いのは問題だが、だからと言って主張の強い者ばかりでパーティーを組んでも回らないのも事実。よって、今のところは"及第点"と言った評価だ。
「それじゃあ、パパっと行って、パパっと片しちゃおう!」
「あまり出過ぎるなよ。主役はあくまで、生徒なんだから」
「はぁ~ぃ」
なぜか上機嫌のA子。実力はさて置き、ムードメーカーとしてA子が優秀なのは事実で、そう言った意味で『前衛にA子を選んだ』判断はアタリだったように思える。
*
「すいません。ちょっと、休憩を……」
「よし! リーダーの許しが出たので休憩にしても、イイよね?」
「いや、いいけど。休憩は"必要な事"だ。負い目を感じる必要はない」
「あ、はい」
道中の魔物と戦いながら14Fまでやってきた。ここは砂地エリアであり、足を取られるので地味に体力を消耗する。
「非難する訳じゃないが、あまり体力は無いんだな」
「すいません。体力にはそれなりに自信があったんですけど…………使う筋肉が違うって言うか」
「分かる! アタシも、ここに来たときは全身筋肉痛の日々だったよ」
A子が俺に腰を打ち付けようとしてくるが、それは無言で回避する。
それはさて置き、話によればセレナはアルバイトをしており、体を使う機会は多いようだ。しかし、だからこそ本格的な"運動"に割く時間が無く…………何より、貧乏故に栄養補給が追い付かず、(遺伝もあるだろうが)低身長のツルペタ体系になってしまった。
(未成年である学生が、バイト代わりに冒険者をする事は出来ない。それで稼げる実力があるなら学園に通う意味もない)
「とりあえず、確り食べて、基礎体力をつける事だな。すぐには無理だし、お金のかかる事だが…………それでも、冒険者は体力勝負の世界だからな」
「はい。頑張ります」
とは言え、未成年の学生なら"こんなもの"なのかもしれない。そのあたり、アニメの見過ぎなのだろう。『大人顔負けの働きが出来て当たり前』みたいなイメージがどうしても先行してしまう。
「うんうん。女の子としてはダイエットも重要だけど、案外、男って肉付きのイイ娘の方がイイって、意見もあるし。何より、男女のコミュニケーションは体力勝負だからね!」
「そうなんですか?」
「おい、なんの話をしている」
「あ、ゴメン。恭弥は、違ったよね」
「??」
キョトンとするセレナ。ほんと、A子の大らかさは教育に悪すぎる。
「Aの言う事は適当に聞き流しておけ。あと、休憩中だからって気を抜くなよ」
「そうそう、抜くならベッドで……」
「やめんか!」
思わずA子の頭を張り倒す。ツッコミを入れること自体、なんだか負けな気もするが…………それでも未成年を前に止めない訳にもいかない。
「うぅ、ツッコミなら、"こっち"に入れてよね」
「言い方!!」
流石に今度は本気で、突き出された尻に張り手をお見舞いする。突き抜ける衝撃に、体をのけぞらせて悶絶するA子。
「な、なるほど…………こ、これは、ちょっと、やばいかも……」
「えっと…………仲が、良いんですね」
「はい」「違います!」
ダメだ。このパーティー、教育に悪すぎる。
そんなこんなで、終始グダグダではあったものの、セレナは『良くもなければ悪くもない』という平々凡々な能力であった。
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