#146 ユグドラシル第一階層

「よ、ようやく着いた」

「ハハッ! 散々な目にあったな!!」

「誰のせいだよ!?」


 盛大に回り道してしまったが、それでも何とか到着したユグドラシルダンジョン。ここはその名の通り世界樹がダンジョン化した神秘的な場所で、内部はなんと100階構成。まぁ、実際にはほとんどが封印されていて未確認なのだが…………むしろそこが良いというか、冒険者としてはやはり"未知の領域"に胸躍らせてしまう。


「お前たち、初めて見る顔だな。ここに入るにはまず向こうで手続き……。……」


 見張りの兵士の指示に従い受付を済ませる。本来なら成人していない俺たちは門前払いなのだが、そこはコネの力で強引に解決されている。


「しかし、なんでイチイチ登録なんぞ」

「ダンジョンは資源だからな。それになにより、魔物よりも冒険者の方が多かったら嫌だろ?」

「あぁ~、たしかに」

「おい、そこの2人!」

「「??」」


 受付を済ませてダンジョンに入ると、またしても兵士に止められた。


「拠点となるキャンプ地は第二階層にある。向こうの階段が近道だぞ」

「問題ない」

「記念じゃないけど、俺たちは1階から行きます」


 事前に話し合っていた訳では無いが、気づけば同じ方向に足が向いていた。俺たちは転生した今でも頻繁に言い争っているが…………それでもライバルとして認めており、何より根っこの部分では馬が合うのだ。


 ユグドラシルダンジョンの内部は巨大な螺旋階段になっており、便宜上1~9Fを第一階層、それ以降は0Fから数えて9Fまでを一階層として区切っている。1Fの上には次の階層の1Fがあるのだが、階層のボスが居る0Fを攻略するとショートカットが開通して1Fから次の階層の0Fへ行けるようになる。つまり階層ボスは次の階層に居ることになるのだが、そこは例外として同じ階層と扱うそうだ。(階層ボスの攻略有無で扱いが変化する)


「しかし、木の中とは思えんな」

「あぁ、空があって、風もある。壁の終わりはどうなっているのか」


 各階はそれぞれ環境が異なっており、木の中に居る印象は無い。その仕組みはもちろん気になるものの、本格的に調べる事は無いだろう。そんなものは既に学者や魔術師が調べているだろうし、多分それを知っても得はない。ロマンが半減するだけ損だ。


「よっし! まずは1体!!」

「本当に、ザコしかいないんだな」


 スライムを泥だらけのヒールで踏みつぶし、勝ち誇るマオ。


 第一階層の難易度は、ダンジョンの外と同じかそれ以下。当然ながら稼ぎは期待できないので、"基本的に"冒険者は利用していないようだ。


「「こんにちは~」」

「…………」

「あぁ、どうも」


 すれ違った見習いパーティーに、さわやかな挨拶を投げかけられた。


 第一・二階層はその難易度の低さから初心者講習の場として使われているそうだ。今のパーティーに引率は居なかったが、それに近い立場なのだろう。


「気に入らないな。アレで、魔物や…………同業者ライバルと渡り合えるのか?」

「一組では断言できないが、もしかしたらココの冒険者ギルドはマナーに厳しいのかもな」


 基本的に冒険者は荒くれ者揃いで、マナーはお世辞にも良いとは言えない。それが良くないのは分かるが、現実問題として荒くれ者や学の無い者を受け入れる場は必要で、それが冒険者なのだ。


「兵士じゃあるまいし、連携だの礼節だのを言われるのは"もう"御免だ」

「それは同感だが、挨拶ぐらい許してやれよ。盗賊よりはマシだろ?」

「ふん!」


 前世での俺は実質"兵士"で、世界平和よりも己の利益を優先する冒険者たちが嫌いだった。しかしながら転生して重責から開放されてみると、冒険者の事情や魅力が理解でき…………気がつけばマオと2人で冒険者の道を目指すようになっていた。


「まぁ、中にはマナー重視のヤツも居るだろうが…………あのローゼンルシアさんの勧めだ。落胆するのは早いんじゃないか?」

「ふっ、そうだったな」


 ローゼンルシアさんは、魔法使いギルドに所属する武闘派の職員であり、マオも認める実力者だ。もともとマオは、政略結婚か騎士団入りの2拓を迫られていたのだが、第3の選択肢を用意してくれた恩人でもある。


「おっ、次のエリアが見えてきたぞ」

「うむ。正直に言うと…………張り合いが無さ過ぎて引き返したい気分だ」

「俺もだ」

「「…………」」


 悩みはしたものの、それでも俺たちは進む。難易度は物足りなくとも……。


「おい、ユーキ!」

「なんだよ、突然」


 突然背後から、マオが抱きついてきた。


「せっかくだから合体技を考えよう! 汝が足で、我が腕だ!!」

「ぜったい、普通に戦った方が強いだろ、ソレ」




 まぁ、マオと2人なら、どこに行っても退屈はしないだろう。

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