#147 ボマーとマイン

「おい! コレ、面白そうじゃないか!?」

「"実力認定試験"か。たしかに、これがあれば年齢で舐められる心配もなくなるな」


 盛大に遅れたが、なんとか10Fにある生活エリア(キャンプ地)に到着した俺たち。さっそく、見受け人となる人物を探すついでに冒険者ギルドに立ち寄って、その空気感を確認する。


「ふむ、どうやら景品も出るようだぞ!」

「ここのギルドマスターは冒険者の琴線を分かっているな。(最上位の)ミスリルクラスの景品には奴隷引換券もあるじゃないか」

「選べるのか? それなら給仕メイドがいいな。戦闘は我と汝で足りているからな!」

「いや、俺としても助かるけどさ……」

「ん?」

「いや、何でもない」


 メイドなら高確率で女性だと思うが…………マオはパーティーに他の女を入れてもいいのだろうか。一応、俺も男なのだが。


 それはさて置き、ユグドラシルの冒険者ギルドは冒険者を煽ててやる気を引き出させる方針のようだ。掲示板には実力試験以外にも多彩な催しが掲示されており、どれも興味が尽きない。


「君たち、見ない顔だね。ユグドラシルは初めてかな?」

「え? あぁ、まぁ」

「…………」


 そうこうしていると、白を基調とした装備の冒険者2人に絡まれた。別に悪人って印象は無いが、何と言うか…………笑顔が無駄にキラキラしていて、ちょっと気持ち悪い。


「僕たちは"聖光同盟"のメンバーなんだ。よかったら、話を聞いて……」

「いや! 俺たちコレから用事があるので」


 用事があるのは本当だが、それよりも話を遮って離れたい。このキラキラ感は宗教団のソレであり、悪人と同じで関わってもロクな事が無い。


「まぁ、そう言わず。そうだ、時間もいいし美味しいお店を紹介しよう。おご……」

「まってリーダー。この子たち、そう言うの逆に警戒するタイプよ」

「そうなのか?」

「えぇ、まぁ」


 瞳に星を輝かせる男に代わって、同じく星を輝かせる女が話を引き継ぐ。


「まぁ、任せて。私は"マイン"。そっちの暑苦しいのは"ボマー"。よろしくね」

「いや……」

「そう警戒するなって。俺たちは、むしろ治安を守る側なんだ」

「「…………」」


 むしろ悪人だったら問答無用で叩き伏せられるぶん楽なのだが。


 渋々応対する俺に対し、マオは完全に無視モード。嗅覚と言うか、勘はマオの方が上であり、この様子なら俺と同じ考えと受け取っていいだろう。つか、2人きりだと忘れてしまうが、一応、俺はマオの従者なのだ。


「ちなみに聖光同盟って言うのは、パーティーでも無ければ商会でも無い。マナーを守って安全に、協力し合えるところは協力していきましょうって、誓いをたてた者の集まりなの」

「そうですか。ですが俺たちは……」


 言っている事はもっともだが、そこがますます新興宗教臭い。


「別に無理に勧誘するつもりは無いわ。はい、コレ」

「え?」

「字は、読めるわね?」

「えぇ、まぁ」

「活動内容はソコに書いてあるから。それじゃあ」

「よい返事を、待っているぜ!」

「「…………」」


 冊子を手渡し、あっさり引き下がるマインとボマー。


 じゃっかん拍子抜けではあるが、引いてくれるなら願ったりだ。


「気に喰わんな。悪人ではないのだろうが…………気に喰わん!」

「そうだな。とくにお前とはソリが合わなさそうな感じだったな」

「うむ」


 冊子に書かれている事を要約すると『会費を集めて人員・技術・回復薬を融通し合う』というものらしい。前の2つはどうでもいいが、回復薬は魅力的に感じる。一応、回復魔法は使えるのだが、複雑な怪我や欠損までは治せない。それを治せる上位回復薬は非常に高価で希少。いざとなればエルドローサ家に泣きつく手もあるが、念のために身近な入手経路も確保しておきたい。


「おっと、いけない。それよりも見受け人だ!」


 その見受け人は名目上俺たちの"師匠"になるのだが、俺たちはその人の修行だか試練を合格しないと『一生、冒険者にはなれない』事になっている。ローゼンルシアさんの話では、その人は俺たちよりも強いそうだが…………まぁ、それも1年。成人する頃には追い越せるだろう。


「たしか、"ゼロ"だったか。聞けば誰でも分かるって話だが……」


 話ではそのゼロブレイカーって人が(修行だけでなく)諸々の面倒も見てくれるそうなのだが…………所在や人相を知っている人物を、マオが勝手に見送ってしまったので自力で探すしかない状況なのだ。


「すいません。ゼロって人は、何処に行ったら会えますか?」


 とりあえず、近くにいた冒険者に聞いてみる。


「ゼロ? 知らないな」

「あれ? 有名な人らしいんですけど。たしか、ゼロブレイカーって通り名で」

「あぁ~、ブレイカーか」


 危ない危ない。一定ランク以上の冒険者は基本的に(本名ではなく)通り名で呼ぶのだが、どうやら情報元の組織と差異があったようだ。


「たぶん、そのブレイカーさんです」

「それで、どのブレイカーだ?」

「はい?」

「知らないのか? ユグドラシルには3人のブレイカーが居るんだ。まぁ、実際紛らわしいもんな。トッププレイヤーが全員、同じ通り名を名乗っているのは」

「えぇ……」




 そんなこんなで俺たちは、ユグドラシルに着いたはいいものの、今度は人探しをしなくてはならないようだ。

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