#148 アイオラ
「まいったな。まさか同名の冒険者が3人もいたなんて」
「何を悩んでおる。そんなもの相手に聞くなり、すこし調べれば分かる事だろ?」
「いや、そうだけど」
まったくもってその通りなのだが、そもそもの原因を作ったヤツに言われるのは釈然としない。
それはさて置き、俺たちは時間も遅いので20Fに移動して宿付きの食堂で夕食を済ませていた。ここに限った話ではないが、夕方になると次々と店が閉まってしまうので『すぐに見つかるだろう』で人探しをしてしまうと飯や宿を逃してしまうからだ。
「それよりだ! 夜はどうする? 上の階には遊郭などもあるのだろ!??」
「言い出すと思ったよ」
ユグドラシルダンジョンの最前線は第六階層(50F~)となっており、トッププレイヤーは50F、中堅は30~40F、初心者は20Fを活動の拠点としている。よって飲食店や宿泊施設のグレードもソレに合わせて変化する。
宿をとるのに20Fに移動したのもそのためで…………当初10Fで宿を探そうとしたのだが、各種ギルドや商人向けの施設ばかりで、手ごろな宿が無かったのだ。
「ふっ! せっかく屋敷を出たのだ。酸いも甘いも噛み分けなければ!!」
相変わらず、アグレッシブすぎるお嬢様。しかし勘違いしてはならないのだが、マオは別に酒好きでも無ければ散財が好きな訳でも無い。純粋な好奇心で動いているので、ある程度理解したところで大抵は飽きてあっさり手放してしまう。
「そうか。まぁ、無理なんだけど」
「なぜじゃ!」
「未成年は立入禁止、なんだと」
「なぜじゃぁぁあ!!」
理由は依存症や犯罪対策なのだが、この叫びは"嘆き"の叫びなので理由を語る必要は無い。
「まぁまぁ。代わりと言っては何だが
「おぉ!!」
「その人に情報を聞こう」
「おぉ……」
あいかわらずマオの、テンションの乱高下は見ていて面白い。普段、散々振り回されているので、こう言ったところで仕返ししていく。
それはさて置き、冒険者向けの宿には提携している娼館があり、頼めば娼婦を派遣してもらえる。質はあまり期待できないらしいのだが、今回は情報目的なので問題無い。
「おい、そこの若いの。アタイを買ったのはアンタラで間違いないかい?」
「えっと、多分。娼婦の方…………ですよね?」
ハズレが多いと聞いていたが、予想の斜め上を突き抜ける娼婦が現れた。いや、本当に娼婦なのか? 軽装ではあるが、褐色の肌に盛り上がった筋肉。どう見ても女戦士って風貌だ。
「そうさね! アタイは"アイオラ"。昼間は冒険者をやってんだ。よろしくな!!」
「あぁ、えっと、よろしくお願いします」
どう見ても冒険者一本で食って行けそうに見えるのだが…………娼婦は趣味か、あるいは亜人の血が混じっていて、特殊な習慣でももっているのだろうか。
「おい、アイオラとやら。ソイツは私の従者だ。金を出しているのも我だから…………奉仕するのは我だけにしろ!」
「おぉ、そうだったのか! 改めてヨロシクなっ!!」
「おう」
「…………」
いや、いいけどさ。ホント、いいんだけどさ……。
「それで、酒は頼んでいいのか? 夜はまだまだ長いんだ。パッといこうぜ!」
「気に入った! 好きなものを頼め!!」
「よっしきた!」
酒や料理を次々に注文していく豪胆な女性陣。一応、軍資金はそれなりにあるが、まだ生活基盤が固まっていない現状で散財するのは控えて欲しい。
「おいおい、明日も早いんだ。ほどほどにしてくれよ」
「分かっておる。いちど、酔い潰れる、と言うのをやってみたかったのだ」
「分かった。何も分かっていないって事が」
「ハハハ! オマエら面白いな!!」
早くも意気投合している2人。やはりマオは、貴族だの平和だのを象った連中よりも、コッチ系のノリがあっているようだ。
「それはそうと! ブレイカーについて知りたいんだ。潰れる前に教えてくれ」
「ブレイカーって、もしかしてオマエ、ホモなのか?」
「はい??」
意味が分からない。俺は健全な男で、聞いたのも冒険者だったはずだ。
「悪いことは言わない。そっちの趣味が無いなら、アイツラに関わるな」
「え? どういう……」
「連中は確かに腕はたつ。だがその代わり、素行に問題があってな。嫌がる相手でも気に入った男は無理やり関係を迫って喰い散らかしているんだ」
「「…………」」
地獄だ。それと同時に、女のマオは間違いなく安全。当主様が娘を預けるのに了承したのも頷ける。
「えっと、そのブレイカーって、全員、男なんですよね?」
「そうだ。全員男だ」
「ふ~ん。まぁ、そういうことなら仕方ない。ブレイカーの事は任せたぞ。ユーキ」
「よし! とりあえず呑もう! どうやらコレは夢らしい」
「ハハハッ! やっぱり面白いね、アンタたち」
そのあとは俺もブレイカーについて詳しく調べる気にはなれず…………気づけば宿の便器を抱えていた。
そんなこんなで俺たちは…………いや、俺は涙で便器を濡らし、マオは娼婦とベッドを濡らして1日目の夜が終わった。
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