#149 三大派閥

「それで、ブレイカー探しはいいのか?」

「あぁ、まぁ……」


 よくは無いのだが、俺たちは現実逃避がてら冒険者ギルドに来ていた。


「まぁ、それならそれでいい。我もその"試験"は気になっておったからな」

「だろうな。一応、良いところまでは行けると思うんだが」


 実力認定試験は、剣士や魔法使いなどのポジションでわかれており、5段階(ストーン・ブロンズ・シルバー・ゴールド・ミスリル)で評価される。合格すると受注できるクエストが増えたり、危険なエリアの侵入許可が得られたりする。しかしながらデメリットもあって、ランクを上げる事で初級クエストや低階層での活動が制限されてしまう。


「誰かが挑戦するのを待つか? 個人的には……」

「ノーヒントで挑戦したいって言うんだろ?」

「ハハッ! 分かっているじゃないか」

「その気持ちは分かるが、俺としては失敗もしたくないんだよな」


 詳しい試験内容は(種類が多い事もあり)書かれていない。まぁ、前衛系のポジションなら実技試験がメインだろうが…………よそ者には分からないユグドラシルの事情に関する問題が含まれていると初見クリアは不可能だ。


「やぁ! また会ったね」

「実力認定試験を受けるの? よければアドバイス、しましょうか??」

「「…………」」


 現れたのはボマーとマイン。出来れば関わりたくない相手だが…………同じダンジョンで活動する者として適度な距離感を保っておきたい気持ちもある。


「えっと、その前に1つ」

「「??」」

「俺たちは、えっと、ブレイカーさんの縁者なんですけど……」

「ヒェ!?」


 尻を覆い、青い顔で後退るボマー。その姿は滑稽と言えばその通りだが、他人事では無いのでまったくもって笑えない。


「えっと、それで、ブレイカーさんって、聖光同盟でしたっけ? 所属しているんですか??」

「い、いや! まったくの別組織だ!」

「むしろ、敵対組織って感じね。性別で事情は変わるけど」


 これは好都合。雰囲気からなんとなく察していたが、これは同盟加入を明確に断る言い訳になる。しかしそうなると、断るために邪険にする必要もないわけで……。


「ですよね。俺たちは家庭の事情でブレイカーさんの傘下に入る事になってしまって。でも、正直なところ、ブレイカーさんとか、そもそもユグドラシルの事情を……。……」


 アイオラさんに聞くつもりだったユグドラシルの情報を、聖光同盟の2人に聞いてみる。彼らの情報を鵜呑みにするつもりはないが、こういうのは一方の組織の意見だけを聞いていても真実を見誤る。


「……そんなわけで、ユグドラシルは現在、3つの勢力に分かれてしまっているんだ」

「表立って争ってはいないと言っても…………喧嘩を売っちゃ、ダメだからね」

「え?」

「フフフ。顔に、書いてあるわよ」


 ブレイカーに挑むプランを考えていたら、マインにソレを見透かされてしまった。まぁ、イキった新人が考えそうなことではあるが…………それはともかく、やはり基本的にこの人たちは善人なのだろう。


 ユグドラシルにおいて冒険者の派閥。

①、茶色ノ薔薇ブラウンローズ(茶薔薇)。上層階攻略のためにギルドが特別待遇で呼び込んだ凄腕冒険者とその仲間。素行や趣味に問題があり、定期的に被害者(男性限定)を出しているものの制裁がくだる事はない。


②、三ツ星商会。貴族が仕切る商会で、絶対的な権力と資金力をもっている。基本的には食材や武具を取り扱っているものの、奴隷商ともかかわりが深く黒い噂が絶えない。


③、聖光同盟。新人からベテランまで冒険者を幅広く支援する組織で、トッププレイヤーこそ居ないものの加盟者は多く(特に人員を必要とする大規模作戦では)軽視できない影響力をもっている。



「……つまり、武力の茶色ノ薔薇、権力の三ツ星、団結力の聖光同盟って感じだ」

「聖光同盟も、弱いわけじゃないけどね。謳うものが違うだけで」


 俺たちは上を目指しているので、実力主義の茶薔薇に惹かれるものはある。しかしながら残念なのは、やはりブレイカーの趣味嗜好だ。それさえなければ喜んで…………踏み台として活用してやるのに。


「なるほど。参考になりました」

「どういたしまして」

「あっ、そういえば」

「「??」」

「実力認定試験はよかったのか?」

「あぁ……」


 すっかり忘れていた。試験は別に急いでいないのだが、せっかくだし受けていきたい。それに何より、肩書があれば舐められにくくなる。それはブレイカーに対しても言える事で、実力はともかく、まずは物理的に舐められる事態を回避したい。


「試験を受けるのでしたらお相手しますよ」

「「!??」」


 話に割って入ってきたのは騎士風の女性。しかし鎧に紋章などは刻まれていないので、実技担当の試験官ってところだろう。


「失礼いたしました。私の名は"ミネルバ"。試験官資格を保有している者です」




 こうして俺たちは、成り行きもあって実力認定試験に挑戦する事となった。

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