#150 実力認定試験・剣士
「いいのですか? 彼女たちをこのまま放置しても」
「無理強いしたところでな……。冒険者を辞めさせるにしても、後押しするにしても、まずは連中の人となりを見てみたいところだが」
クッコロから報告を受け、行方不明だったエルドローサ家の問題児の動向を確認する。
本来なら即座に保護して、御家の要望に従った指導を施さなければならないのだが…………気乗りしなかったのでしばらく放置することにした。
「ミネルバさん、彼女たちの様子はどうでした? 資料では、とても優秀な方とあるのですが」
「私も直接会って話したわけではないから何とも言えないが…………奔放な性格なのは間違いないようだ」
「そうですか」
ともあれ、ボンボンにありがちなワガママ放題の無能ではないらしい。恵まれた環境を手放して冒険者になりたいなんて言うストイックさに加え、腕っぷしも一線級ときている。御家は(貴族の面子もあるが)さすがに手放すのが惜しくて様々な手で引きとめようとしたものの…………結局止めきれずに俺のところまで話が回ってきた。
「今のユグドラシルなら大丈夫だと思うが、念のため、認定試験はおさえておいてくれ」
「はぁ~。そういうの、あまり気が進まないのですが」
昔は好きな時に好きな階に挑戦でき、生きるも死ぬも本人の自由だったユグドラシル。しかし今はランク制度や挑戦記録など、決まりごとが増えて自由とは程遠い状況だ。もちろん、そこに意味や合理性があるのは理解しているが…………それは俺の求めている"冒険者"では無いし、何より聖光同盟が関与しているってのが生理的に受け付けない。
「別に、不正に結果を操作しろ、とは言わない。ようは、相応しい実力があれば良いんだ」
「結局、どうしたいんですか? 2人を」
「どうとも。落ち着くところに落ち着いて欲しい。それだけだ」
「そもそも、興味が無いんですよね」
「そうかもな」
問題は何方を立てるかだ。立場的にはエルドローサ家(当主)を立てた方が良いのだが、個人的には娘を応援したいし、娘だって貴族の末席なので恨まれるのも困る。そしてもう1つ気がかりなのが、俺の悪い癖の部分だ。
もしそのお嬢様が俺好みの美
「わかりました。試験は私が…………厳正に審査します」
「あぁ、任せた。でも……」
「「??」」
「いや、天才だかなんだか知らないが、今まで挫折らしい挫折は無かったんだろ?」
「そうらしいですね」
「どこかで苦労や挫折は、与えてやりたいんだよな。成人する前に」
ゲームでは勝てば経験値、負ければ"無"。しかし現実は、敗北からも得るものはある。いや、違うな。勝利は単なる証明。つまり、勝ったから成長するのではなく、『成長したから勝てた』なのだ。
「それでしたら! この様な作戦はどうでしょう?」
「「??」」
なにか嫌な予感がする。クッコロは基本的に真面目で優秀なのだが、時おり妙な暴走を見せるので油断ならない。
*
「それで、どのクラスに挑戦しますか? 剣士クラスでしたら、すぐに結果がだせますけど……」
「それならソレで!」
「あぁ~。まぁ、いいんじゃないか。俺もソレで」
即答するマオ。最終的には一通りの(取得可能な)クラスを取得しておきたいが、まずは一番シンプルそうなものから始めるのがいいだろう。とくにマオは、既に騎士の資格を保有しているので確実だろう。
「それでは、そこの木剣の中から好きなものを選んでください。試験は裏手の訓練場で行います」
「おい。そんな棒きれでは、我の真価ははかれんぞ」
使える木剣の中には斧や鈍器も含まれている。名目は"剣士"となっているが、あくまで対象は前衛の戦士全般なのだろう。
とはいえ、あるのは全て木製なので、耐久性や魔力伝導率の問題はある。加えてマオは、剣は使うものの"剣士"ではない。あくまで勝つための道具として使っているだけなので、技術や礼節に比重を置かれると厳しいかもしれない。
「かまいません。見るのはあくまで剣士としての技量なので…………他の部分は審査対象外。見せる必要はありません」
「ハハッ! 言うではないか。気に入った。それでは実力の3割をもって…………お前を倒して見せよう!!」
「はい。それでは移動を」
年下に挑発されて苛立つ気持ちはあるはずだが、ミネルバさんの表情は揺るがない。
まぁ、慣れているのだとは思うが、正直なところミネルバさんから特別な何かは感じない。俺の見立てでは、実力はマオの方が上。純粋な剣の勝負でいけば"良い勝負"ってところだろうか。
そんなこんなで俺たちは、剣士クラスの試験を受ける事となった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます