#151 実力認定試験・剣士②
「試合は相手か、その後ろの目標に有効打を入れた方が勝ちになります」
ギルドの裏手に行くと、そこには重厚な塀に囲まれた決闘場のような場所があった。けっして広くは無いが、ここなら剣でも魔法でも、気兼ねなく放てるだろう。
「うむ、分かりやすいのはいいな」
剣士の試験は『護衛対象を守りながら相手を倒す』と言うもの。立ち回りは採点に含まれるだろうが、その程度ならマオも理解しているはずだ。
「それと、私を倒しても合格にはなりません」
「「??」」
「もちろん、倒すのは構わないのですが…………あくまで採点されるのは、剣士として、前衛としての立ち回りになります」
つまり『不意打ちで素早く倒してしまう』などの勝ち方は減点対象となる。もちろん、剣士にも様々なスタイルがあるので一概には語れないのだが…………あくまで『クエストで剣士ポジションに求められるもの』が基準になっているのだろう。
「失礼する」
「お待ちしておりました。"我が君"」
「「!??」」
試験が始まろうと言うところで、突然やってきた謎の男。その顔は仮面に隠されており…………何と言うか、痛い人って感じだ。
「なんだお前は? 試験官か??」
「そんなところだ。剣士クラス以外の試験官も必要になると思ってな」
「あぁ、それもそうだな」
しかし、気になるのはミネルバさんの態度だ。へりくだり方からしてギルドマスターっぽいのだが、ミネルバさん同様、ギルド職員って風貌でもない。そこから導き出される答えは…………三ツ星商会。ユグドラシルに来る際に貴族の縁者だと言う事は証明しているので、同じ貴族として様子を見に来たのだろう。
「それでは……」
「待て! 気が変わった。我はその男と戦う」
「「…………」」
男の脚運びに隙は無く、強者特有のオーラを感じる。それも、本気を出さなければいけないほどの。
「そうか。それならば試験は後にしよう」
「なんだ? 先では都合が悪いのか??」
「本気の勝負を受けてやる。そうなると、ココでは手狭だろう?」
「ハハッ! よく言った。ユーキ、先方は譲ってやる!!」
「はぁ~~。まぁ、いいけどさ」
上機嫌で後ろに下がるマオ。俺もあの男と戦ってみたい気持ちはあるのだが…………残念ながら『じゃあ俺も!』と言える雰囲気ではない。
「それでは、お願いいたします」
「えっと、お願いします!」
互いに出方をうかがう穏やかな立ち上がり。これが護衛を想定した試験なら、重要になるのは"立ち位置"。前世で散々やった…………誰かを守る立ち回りだ。
「「…………」」
「そこッ!」
「おっと。良い踏み込みですね」
様子見で放った一閃を、冷静に受け流すミネルバさん。その動きに特別なものは感じないが…………冷静というか、練度はかなり高いようだ。
少しずつ踏み込みや手数に変化をつけ、ミネルバさんの限界を探っていく。まぁ、あくまで前衛としての立ち回りを見せるついでだが。
「貰った!!」
立ち回りを見せたところで、絞めに入らせてもらう。今まで突きは見せていなかったので、ここで最速の突きを入れれば反応できないだろう。
「フンッ!! 今のは、危なかったです」
しかし持ち手を放して、篭手で切っ先を受け流されてしまった。有効打扱いになるかは微妙なところだが…………やはり経験の差か、ベタな作戦は通じないと思った方がよさそうだ。
「それなら、コレは! どうだ!!」
怒涛の連撃で畳み掛ける。剣が軽いので防御の上からダメージを入れる事は出来ないが、その分スタミナ消費は抑えられる。俺はリズムよく呼吸を刻み、相手の剣を封殺する。
「これは……。ですが!!」
「ッう~。 そんなのありかよ?」
「足技を禁止した覚えはありませんが?」
肉薄したところで脛に蹴りを入れられてしまった。ダメージは大した事無いが…………この人、見た目に反して、不意打ちも織り交ぜてくるタイプのようだ。
「そういう事なら、こっちも本気を出させてもらいます」
封印していた<身体強化>を発動して、魔力的に肉体を強化する。
「ツッ! グッ! ……クッ!?」
ステータスに明確な差が生まれた現状でも、ミネルバさんは必死についてくる。しかしながらその差は歴然。俺は受けに回る剣を力任せに跳ね除け、トドメの一撃を打ち込む隙をこじ開けていく。
「貰った!!」
「ッ!!? ……参りました」
俺の攻撃を受けつづけた木剣が、とつぜん粉砕した。そこで俺は剣を止め、ミネルバさんも敗北を認めた。
「うむ。勝負あったな。ミネルバと言ったか。なかなかヤルではないか」
「なんで上から目線なんだよ」
「いや、見事でした。完敗です」
俺以上に勝ち誇るマオ。
しかしながらミネルバさんも実際強かった。最終的にステータス差で押し切る形になってしまったが(専門は剣士ではないので仕方のないことだが)純粋な技術面では負けていた。
そんなこんなで俺は勝利し、次はマオの試合となる。
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