#076 フェリス①

「お前を連れて行くのは、あくまで奴隷商に顔がきくからだ! 勘違いするなよ!!」

「はいはい」


 ベタなツンデレ発言をスルーしながらも、やってきたのは奴隷商。奴隷解放計画、第一号となる奴隷を購入するため、俺は"仲介役"として特別に参加が認められた。


 因みに中層では現在、前衛組が連携訓練を受けているそうだ。まぁ、無法者の冒険者に対して、どこまで効果があるかは分からないが…………どの道、光彦の回復を待つ必要があるので…………それまでは、少しでも独断専行や、熱血バカに流されて無謀な作戦に肩入れする指揮官が減ってくれることを祈るばかりだ。


「それにしても、本当にエイコは来ぬのか? 別に、不安とか、寂しいなんてことはないが…………その……」

「大丈夫だよ、美玲や恭弥がついてるから。リサッチは、いつも通り、ドシっと構えていて」

「お、おう!」


 相変わらず凄い懐きようだが、それでも奴隷商にはルールがあり、それに従わなければ貴族であっても軽視され、"それなり"の奴隷しか紹介してもらえなくなってしまう。


 今回でいけば、人数の問題があげられる。奴隷商は大勢で訪れる場ではないので、基本は1人。紹介と言う形で+1人くらいまでが限界となる。それ以上だと、単純に椅子が無いのだ。椅子くらいと思うかもしれないが、奴隷商の客用の椅子は備え付けのソファーであり、席が無いからと言ってお貴族様を補助席に座らせることは許されない。


「これはこれは、お待ちしておりましたですハイ~」


 今回は、貴族であるリリーサ様を連れていくにあたって、正式に来店予約をしておいた。ここも同じで、もしVIP室が埋まっていた場合、お貴族様を下位の部屋に通すか、待たせてしまう事になる。


「予約しておりました、"お客様"をお連れしました」

「ハイ、承っております。お客様と"お付きの方々"ですね。どうぞ、コチラへ」


 俺とBを加えると3人になってしまう。しかし、ここで例外の条件が適応される。貴族よりも格下の俺たちは"基本的に"同じランクの席に座る事は許されない。つまり、俺たちは"付き人枠"で立ち見ならOKなのだ。ニラレバ丼も、その方法で護衛や売春奴隷を連れ込んでいる。





「お客様、女性の奴隷をご所望とのことですが、何か具体的な要望など、ございますでしょうか?」

「うむ。雑用を任せる故、冒険者や売春である必要はない。しかし、そうだな…………多少、"学"がある者がいいかのぉ」


 本心を言えば、『安い順でお願いします!』と言いたいところだが、今回は奴隷商に"貴族の後ろ盾"がある事を印象付けるため、多少高くなってもいいので"成功例"となりえる人材の購入を目指す。




 ほどなくして担当は、4人の女奴隷をつれてきた。価格帯は…………処女かどうかで大きく変わるが、300~500万ってところだろうか? 貴族に仕えるとなると、やはりこのくらいのグレードとなるようだ。


 そのまま流れで、簡単な自己紹介を受ける。


「……。以上になります。お眼鏡にかなう奴隷は、居ましたでしょうか?」


 基本的にユグドラシルでは、ニラレバ丼が優良な女奴隷を買い占めてしまうので、話しぶりからしても紹介できるのは、この4人が限界の様だ。もちろん、"目玉商品"と言えるような売春・冒険者奴隷を含めれば選択肢は広がるが、流石に事業として"黒字化"を目指している以上、そんな高額奴隷は買えない。


 そもそも、そういう"高嶺の花"は奴隷の中では勝ち組であり、わざわざ助ける必要が無い。極力『家族の為に"仕方なく"体を売る決意をした』とか、『問題を抱えており、好待遇は望めない』者たちを救う事を目標にしている。


『私はこの娘、イイと思うよ?』

『私も、ミレイの意見に同意だな。なかなか良い目をしている』

『いや、まぁ、リリーサ様がいいなら、いいんですけど……』

『うむ、それでは任せた』


 念話会議で選ばれたのは…………容姿には優れているものの、眼光は鋭く反抗的な、元商人の娘だった。


「それでは、その"フェリス"って娘を残してください」

「お言葉ですが…………この者は、あまりオススメは……」

「構いません」


 渋りつつも奴隷商は、他の奴隷を退室させ、個人面談の形を作る。


「……なんなりと、お聞きください」


 貴族相手でも不愛想を貫くフェリス。女奴隷としては、同性の貴族に買われるのは可成り美味しい展開なのだが、それでも気に入らないのは、個人的な事情が起因している。


「そう警戒する必要はない。楽をさせてやれるかは保証できんが、なに、悪いようには……。……」


 フェリスは、15歳で家を出て、2年間冒険者として修行を積み"錬金術師アルケミスト"の称号を得た。錬金術師には色々と種類があるが、彼女の専門は"回復薬生成"で、商人として、素材買い付け・生成・販売を生業としていた。


 彼女の作る回復薬は飛ぶように売れ、半年で自分の店を持つところまで駆け上がった。しかし、順風満帆に思えた彼女の成り上がり人生は、そこから一気に急降下する。


 なんと、店を持つ際につくった借金が、突然返せなくなったのだ。彼女が貴族に対してイイ顔が出来ないのはソレが原因。もともと、薄利多売で成功した彼女は同業他社に良く思われていなかったのだが…………店を持ったタイミングで他商会が"街長まちおさ"と結託して彼女を潰しに来たのだ。それでも彼女なりに半年頑張ったが、力及ばず。その後、自己破産する形で奴隷落ちした。


「その、私を陥れたヤツラと、リリーサ様が無関係なのは分かっていますが、それでも……」

「構わん」

「??」

「私を恨みたければ、好きなだけ恨め。なんなら、陰口をたたいてもいいぞ?」

「いや、それは……」

「私は、お前のような不幸な女子を、1人でも多く救いたいのだ。だから! どうか私に、力を貸してくれんか」

「「!!?」」


 奴隷に頭を下げるリリーサ様。俺や奴隷商は、この事を言いふらすような真似はしないが…………この様な行いは『貴族の品格を貶める行為』として処罰の対象になる。


 そう、貴族とは、平民に頭を下げる事も許されない、不自由な生き物なのだ。




 そんなこんなで、リリーサ様は錬金術師の奴隷・フェリスを購入し、AとBに託した。


 まぁ、なし崩し的に俺も面倒を見る流れになるかもしれないが…………一応、リリーサ様は俺の許嫁いいなずけみたいなものだし、黒字化すれば俺にも恩恵がある。だから、まぁ、手伝うのに、嫌な気持ちは無い。

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