#075 ゲートキーパー対策会議
「おい、横取り屋が来てるぞ!」
「チッ! また、エモノを横取りして、自分だけ儲けるつもりか?」
ガラの悪い冒険者が、あえて俺に聞こえる声で愚痴をこぼす。
ここは中層の冒険者ギルドであり、今からゲートキーパー戦へ向けての"有難いお話"が貴族様から頂ける。
「静粛に! ……それではこれより、リリーサ様"監修"のもと、第六階層ゲートキーパー戦へ向けての……。……」
エリートとは言え、若輩のリリーサ様に『指導など出来るものか?』と考えていたが、どうやら彼女は"立会人"的なポジションで、実際にはそれぞれ担当の古参兵のご高説が聞けるようだ。
何と言うか、そう言う所はイメージ通りの"貴族様"で、ちょっと安心した。
「……逆に俺ら…………ドサクサに紛れて、横取り屋をヤっちま…………?」
「いいね~。…………」
ひと際バカそうな冒険者が、陰口を止められずに小声で話す。その気になれば<念話>で会話できるところを、だ。
『なぁ、ボス~』
『どうしたルビー』
『父ちゃんと母ちゃんが言ってたんだ。バカにされても絶対に剣を抜くなって』
『そうだな、挑発されても剣を抜くのはよくないな』
『じゃあ、ボスがバカにされた時は、どうなんだ?』
『ん~、ダメだな。でも、相手が剣を抜いたら、ヤっちゃってもいいぞ」
『よし! 任せろ!!』
この世界で"剣を抜く"行為は、アメリカで言うところの"銃口を向ける"行為と同義になる。よって、正当防衛の適用範囲であり、その相手の手足を切り落とすくらいは許される。まぁ、だからって本当に行く先々で斬り合っていては、周囲から"同類"と見られてしまうので、出来る限り回避した方がイイのだが。
*
「ハンドレットマスター。キミもなかなか大変みたいだね」
「えぇ、まぁ、なんと言うか、色々ありまして……」
前振りも終わり、別室に移り、部隊ごとの話となる。
「余計なお世話かもしれないが…………気にする事は無いよ。私も、場所によっては厄災だの、悪魔だの言われているからね」
「陰口で終わってくれるなら、いくらでも言ってもらって構わないんですけどね」
この班のリーダー格は、なんとロゼさんだった。この人、一応魔法学園の講師のはずだが、やはりゲートキーパー戦となると、本業? が優先されるのだろう。
余談だが、ロゼさんは爵位持ちでありながら家名が無い。その理由は、もしかしたら今回のように『ダンジョン関係の作戦に参加する』ため、なのかもしれない。もちろん、上層開放作戦に軍や貴族を派遣しても、それはあくまで"戦力の貸し出し"であって、"直接的な干渉行為"では無い。ゆえに国際社会で制裁を受ける事は無いだろうが、それでも社交の場で嫌味を言われたり、交渉の場で付け込まれたりする可能性も、無いとは言い切れない。
「フフフ、ああ言った輩は、根は小心者で、徒党を組んで虚勢を張っていないと何も出来ないものさ」
「そうですね」
「フフフ。……それじゃあ! 知っている人も多いかと思うが、彼が我々の護衛についてくれる、ハンドレットマスターだ!!」
「えっと、よろしくお願いします。召喚勇者の恭弥です」
結晶亡霊戦でお世話になった顔もチラホラいるが、今回の配属も後衛部隊であり、その護衛となる。しかし、1つ大きな違いは『前回と違って攻撃魔法が主体となる』事だろう。ロゼさんがいるのもその為であり、ゲートキーパー戦では魔法使いの活躍が重要となる。
因みに、魔法使いギルド側が用意した護衛以外にも、ユグドラシルの冒険者も何人か参加している。しかし彼らは皆、光彦信者のように最前線で戦う"荒くれ者"ではなく、俺と同じで指名依頼をこなす冒険者であり、雰囲気からして全くの別物である。
大っぴらには言えないが、ここに集められた冒険者はどちらかと言えば『護衛が得意』と言うよりは『死なれると困る』冒険者であり、前衛部隊はその逆の人材が中心となる。
「ハンドレットマスター! また御一緒出来て光栄です」
「アナタがハンドレットマスター? なるほどね、こう言うのがタイプなんだ~」
「キョーヤさんって、年上にモテるタイプですよね!?」
何と言うか、思った以上に"好印象"で戸惑ってしまう。そのあたり、初級魔法を網羅していると言っても、魔法攻撃力は低く、中級以上の魔法が殆ど使えない俺は『自分の領分を犯される心配が無い』と言う安心感があるのだろう。
いや、地方と言う事もあって単純に『イイ人が多い』だけかもしれない。何と言うか、日本に居た頃から殺伐とした環境で過ごしていたせいで、基準が狂っているのは確かだ。
「フフフ、どうやら皆、消し炭になりたいみたいだね」
「……さぁ! 作戦会議ですね」
「ほら、"紅蓮"も、席についてください」
「フ、全く」
因みに、ロゼさんの二つ名は『紅蓮の薔薇』で、大抵は短く"紅蓮"と呼ぶことが多いそうだ。
「その……」
「ん? どうした、ハンドレットマスター」
「いや、そのハンドレットマスターって、シックリこないっていうか、第一、長くないですか?」
「なるほど、確かに改良の余地はあるのかもしれないね」
「いや、普通に名前で呼……」
「そうですね! やりましょう!!」
「え? えぇ??」
「よし! それではこれより、勇者・キョーヤの"二つ名会議"を開始する!!」
突然始まる"弁論バトル"。今回、作戦会議として別室に移ってはいるが、魔法使い組は最初からこの為にユグドラシルに来た特別編性チームであり、今更すり合わせる事項は殆どない。
そして後から知った話だが、どうも魔法使いギルドでは弁論大会が盛んで、特に人気の議題が『二つ名の命名』なんだとか……。
そんなこんなで、会議は白熱した議論(本題とは無関係)が飛び交い、予定時間を見事に超過した。
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