#074 奴隷解放計画

「恭弥! おっはよ~」

「よっ」

「……ふん!」

「いや、もう昼前なんだが…………まぁいいか」


 午前の狩りを終え、ウチに戻ると、AとB、そして2人にベッタリなツインテールがあった。


「昼はもう食べた? 奢るからさ、ちょっと話さない??」

「……イリーナ、ルビー、例の"肉"は任せた」

「はい、お気をつけて」

「はははっ、そんなに警戒しなくても」


 断ってもよかったが、どちらかと言えばリリーサ様の話っぽいので、今回は付き合う事にする。一応、危ない事はルリエスさんが止めてくれるはずだが……。





「…………。…………!」

「なるほどな。概要は大体理解した」


 ウチの応接室に移り、リリーサ様の計画について相談を受ける。その相談とは、なんと『奴隷解放計画』だった。


「ふん! 私はお前を計画に加える気は無いのだが、エイコやミレイが、どうしてもと言うからな!!」

「まぁまぁ。それで、どうかな? 恭弥の目から見て」


 とりあえず、どこぞのバカと違って国の制度自体に反発するものでは無かった事に安堵する。


 そのあたり、やはり兄妹なのか…………女性奴隷を買い付け、ダンジョンで見習い冒険者として働かせ、その収入をもとに"早期解放"を目指すと言うものだった。これなら完全に合法なので問題は無い。


 しかし、それゆえ新たな問題が浮上する。


「何と言うか…………計画がガバガバすぎますね」

「なんだと!!」

「まぁまぁ。リサッチ、オッパイ揉んで落ち着いて」

「お、おぉ」


 Aの胸を揉んで平常心を取り戻すリリーサ様。いや、貴族令嬢として、それでいいのか? 


「それで、どこがダメなの?」

「えっと、まず、施設の維持費や人件費がごっそりヌケています。その規模の施設だと職員も含めて、かなりの出費になります。こう言うのは孤児院も同じで……。……」



 リリーサ様の計画をザックリまとめると、

①、ダンジョンで奴隷に1日1万稼がせる。1人なら100日で100万。100人居れば1日で100万が集まる計算になる。


②、その稼いだお金を3等分して生活費・解放資金・奴隷の購入資金に割り振る。


③、リリーサ様は"オーナー"として施設を監督するが、基本的には非営利。むしろリリーサ様が稼いだ資金を積極的に施設に投資する方針であり、立場もあって直接運営には関われるか怪しいとのこと。


 何と言うか、考えだけ見れば"崇高"だ。しかしどうにも、細部の詰めが甘い。その辺、貴族であっても発想は年齢相応と言うか、内容が内容だけに相談できる相手が居なかったのだろう。



「ぐぬっ、だが! 奴隷自身に管理をある程度任せれば!」

「確かにダンジョンなら1日1万は稼げます。しかし1万では、食費や装備で大半が消えます。そもそも、ダンジョン内の資源には限りがあるので、100人居れば稼ぎも100倍って訳にはいきません」


 口には出せないが、実現性を見ると、ニラレバ丼は本当によくやっていると思う。(詐欺まがいな部分もあるが)違法性は無く、収支も黒字、変な義務感も無いので楽しんでいる。一言で言えば『趣味と実益を兼ねている』って感じだ。


「まぁ、そうだよね」

「それに、私たちもそうだけど、1日1万稼ぐのって、大変だし、危険な事なんだよね」


 AとBからも援護が飛ぶ。この2人、言動はバカそうに見えるが、進学校に通っていただけあって頭は良いのだ。多分、最初から実現不可能である事を察したからこそ、俺に相談を持ちかけたのだろう。


「そ、それは……」

「まぁ、何人かは死ぬだろうな。女性だけなら、なおの事」


 基本的に、魔物は人よりも強い。そこには『勇者として召喚されてなお、戦えない者が出てしまう』程の差があるのだ。


 これは当然の話で、例えば『ナイフ1つで野犬と戦え』と言われて、日本人女性の何人がまともに戦える? まぁ、野良犬相手なら訓練を受ければ戦えるようになるだろう。しかし、じゃあ今度は調教を受けた軍用犬に勝てるのか? って話になる。


 冒険者の報酬が高額なのは『そこまで危険な仕事』だからであり、大半の冒険者は現役引退前に死んでしまう。それゆえ、奴隷なんて使ったら購入資金を回収する前に死なせて終わりだ。まぁ、そんなに簡単に黒字化できるのなら、どっかの商会がとっくに商業化させているって話だ。


「ひぐっ、だって、でも……」

「ちょ、恭弥、言い方……」

「あ~ぁ、泣かせちゃった~」

「な、泣いておらん! ぐず……」


 まさかの"ちょっと男子ィ~"状態。これをやられると男はどんなに正論を主張しても意味をなさない。


「よしよし、リサッチは悪くないよ~。悪いのは、デリカシーのない恭弥だからね」

「うぅ、エイコ~」

「恭弥、謝って。取り敢えず謝って」

「あ、あぁ……。その、言い過ぎました。リリーサ様の考え方自体は、良かったと思いますよ」

「…………」

「ただ、ちょっと焦りすぎていますね。まずは出来る"規模"で試していって、データを集めるところからやって行けばいいかと」

「それでは! 不幸な女性は、いつまでたっても……」

「言っては何ですが、人一人の力で世界中の奴隷を救うのは、どの道不可能です。それよりも、まずは"成功例"を作りましょう。あとはそれをマニュアル化して公開すれば、同じ考えを持つ人が、何とかしてくれるんじゃないでしょうか?」

「…………」

「リサリサ。ワタシはね、人が死ぬのはあんまり見たくないから、無理しないで"少人数"でやるほうが、良いと思うな」

「うぅ……」

「アタシも、手伝えることがあったら頑張るからさ。自分の手の届く範囲で、がんばろ?」

「2人とも……」

「「はいはい」」


 2人に抱かれて、リリーサ様が年相応の姿を見せる。


 (どうせ形だけだろうけど)冒険者の指導の話とか、勇者弁当はイイのか? っと思いはするが…………まぁ、今は良いものを見せて貰ったので、良い事にしておく。




 結局この場は、安い奴隷(女性限定)を数名買って、その人たちと"解放マニュアル"を作る話で纏まった。

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