#020 召喚勇者育成計画

「凄いです皆さん。どんどん上達していって、流石は勇者様です!」

「ま、任せてください! 直ぐに強くなって、こんどは俺が皆を引っ張っていきますから!!」

「おいおい、鼻の下が伸びてるぜ。そんな調子じゃ、先にランクアップするのは俺の方だな」

「な、負けねえぞ!」


 場所は11Fの草原。視線の先には、見覚えのある男4人が、大勢の女性冒険者に囲まれて剣を振るう光景があった。


「最初はあの調子で、集団で基礎を学びながらブロンズランクを目指してもらいます。そこからは、それぞれが指導員を2~3人引き抜く形でパーティーを作って巣立ってもらいます」


 俺たちはノルンさんに連れられて、クラスメイトが訓練する様子を観察していた。まぁ、特訓と言っても教わるのは基礎や常識のみであり、真の目的は『揃いすぎている足並みを乱す為』なのだが…………ギルドマスターのグスタフさんの考えた作戦は、俺の想像を遥かに超えるエグいものだった。


召喚勇者育成計画:"早期引退"を希望する女性冒険者に、男性召喚勇者を盛大におだてさせ、まずはランクアップしてもらう。その後はちょっとしたハーレム状態のパーティーを組んで巣立たせ、その姿を他の勇者に見せつけ発破をかける。この世界は重婚が可能であり、パーティーメンバーとの結婚も可能。頑張りしだいでは本物のハーレムが作れる訳だ。


「よくそんなに沢山の女性冒険者を集められましたね。人件費だってバカにならないでしょうに」

「いえ、彼女たちに給金は発生していません。伝心の指輪の代金も、本人が負担していますし」

「つまり、彼女たちには連中を指導する"メリット"があるんですね?」

「はい。彼女たち早期引退希望者は、殆どが行き場のない農家の末娘なんです。冒険者として目立った才能があるわけでは無いものの、とりあえず冒険者になって…………引退間近のベテラン冒険者や有望な若手冒険者と"結婚"して、そのまま引退する。それが目的なんです」


 集まった女性冒険者は、俺の目から見ても『指導できるほどの技術』を持ち合わせていない。しかし、煽てるだけならソレで充分。むしろ、ハーレム要因として抱え込むのなら自分より優れた部分があってはならない。グスタフさんは、完全に連中を"豚"と割り切り、煽てて木に登らせているのだ。


 因みに、容姿に関してはこの世界基準で『並み以下』しかいないらしいのだが、そこは異世界人の俺たちの知る所ではないので、問題無いわけだ。


「ご主人様、如何わしい事を考えていませんか?」

「考えてません。変な勘繰りはやめろ。ただ…………ここまでストレートだと、反発する連中も出てきそうですが」


 連中もいい加減この世界になれてきたのか、問題を起こす頻度は減ってきている。このままこの世界で『やりたい事』を見つけてくれれば、納まる所に納まってくれるだろう。それでも馴染めない者が出てくれば…………その時は然るべき対処をする。国も、そのあたりは割り切って考えている。


 つまり、召喚勇者を"間引く"事も込みで、集団召喚しているのだ。


「でしょうね。しかし、今の状況よりは"マシ"と判断されました」

「でしょうね」


 因みにドッグジャンキーは、イリーナとの一件がトラウマになったのか引き籠っているそうだ。まぁ俺としては、興味のない話だ。


「さて、見るものも見たし、それじゃあ俺は狩りに出かけます」

「あぁ、そうでしたキョーヤさん」

「はい?」

「ギルドマスターが…………そろそろ活動域を第三階層に移すよう"それとなく"誘導しろと煩いのですが、何とかなりませんか?」


 打ち解けてきたおかげか、ノルンさんは時より捻った言い回しをみせる。


「全然それとなく伝えられてないのですが? そうですね…………まだやりたいことが多すぎて、しばらくは今の"鍛錬重視"を続けていくつもりです」


 自慢じゃないが、俺はRPGで新しい街についたらソコで買える装備をコンプするまで旅立てなくなるタイプだ。


「そうですか。因みに、初心者用のクエストは"初心者用"なので、注意しておいてくださいね」

「ぐっ。はい、善処します」


 第一・二階層のクエストは基本的にアイアンランクの冒険者向けであり、俺は現在ブロンズ。今のところは競争相手もいないので黙認されているが…………いつまでも『今のやり方を続けられる』とは考えない方がいいだろう。





「恭弥君! 丁度いいところに!!」

「「…………」」


 一旦キャンプに戻ると、険しい表情の先生に遭遇した。すかさず俺は、イリーナに視線を送る。


「いえ、人違いです」

「はい、人違…………ご主人様、流石にソレは無理があるかと」

「もう! それより、"立花りっか"ちゃんがまた居なくなっちゃったの!!」

「りっか…………りか、理科。あぁ~、"博士"か」


 博士は変人タイプの天才で、俺と同様にクラスでは浮いた存在だ。まぁ、だからと言って特に意気投合する事も無く、『2人1組で~』みたいな状況以外で絡んだ記憶が無い。


「博士ならたまに第一階層を徘徊していますけど…………今日は見ていませんね。まぁ、アイツなら上手くやっていると思いますよ?」


 博士は、何かに興味を示すと周囲を完全に無視する。一見すると危なっかしく思えるが、あれでも本人は周囲の状況を認識しており、その上で無視しているので本当に危険ならば回避する。まぁそれが出来なければ日本でも、とっくに交通事故で死んでいるって話だ。


「でもでも! 立花ちゃん危なっかしいし、心配だよ。恭弥君、お願いね!」


 『探す』とは一言も言っていないが…………まぁ心にとめておこう。




 そんなこんなで、俺たちは今日も今日とて狩りに出かける。

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