#021 それぞれの気質
「ホワタタタタタタタタタタタ、ホワッター!!」
「何をしているんですか? ご主人様」
「え? オラオラの方がよかった??」
「すいません、指輪の調子が悪いのか、翻訳できていないようです」
「なるほど。やはり(伝心の指輪では)"共通する概念"が無いと翻訳出来ないようだな」
それはさておき、今来ているのは21F。俺たちはココで、木の魔物トレントに"無駄"な攻撃を繰り返していた。
トレントの体は"木"であり、打撃や軽い攻撃に高い耐性を持っている。そんな相手に打撃攻撃を繰り返しても、当然ながら倒せない。しかし"鍛練"目的ならこれほど都合のいい相手はいない。あえて打撃や軽い木剣を使えば、好きなだけ技の試しうちが出来るのだ。もちろん相手も反撃してくるが、ソレもまた鍛練になるので2度美味しい。
「倒せたようですね。お疲れ様です」
「折角ノッてきた所だったのに…………木のくせにウドかっての」
砕けて木片と化すトレント。純粋な丸太相手なら、打撃で破壊するのは不可能だろう。しかしトレントは魔物であり、100%木で出来てはいない。まぁ100%木で出来ていたらそもそも動けない訳で、動くために木の細胞間を魔力で繋いでいる。その繋ぎ目にダメージが蓄積したため、トレントは崩壊したのだ。
「しかし、ご主人様を見ていると、自分の"覚悟の甘さ"を痛感します」
「そうか? 俺的にはイリーナの方がストイックだと思うけど??」
「私は、ただ視界が狭くなっているだけですから。対してご主人様は、誰よりもヒタ向きに冒険者としての高みを目指しています」
「いや、俺のは半分"お遊び"だからな」
「そうかもしれませんが、冒険者という職業は元来、風来坊な一面もありますから、そう言った意味でも冒険者に"適している"と思いますよ」
褒められて悪い気はしないが、俺的には『フルダイブVRゲームをプレイしている』感覚なので、"申し訳ない"って気持ちが先行してしまう。
「あぁそうだ。全然関係ないけど、イリーナは"セカンドジョブ"はどうするんだ?」
「ぐっ、それは…………出来ればご主人様に決めていただきたいのですが」
イリーナは意外に優柔不断なところがある。冒険者など1度決めたことは曲げないのだが、装備などは"俺任せ"であり、主体性が無い。
因みにセカンドジョブとは、冒険者のスタイルとして他のギルドに同時加入する兼任職種をさす。分かりやすいのは、商人や調教師だろう。別に所属する必要は無いが、加入料などを支払う事で各ギルドのサービスを受けられる。
「まぁ、無所属の俺が言えた義理は無いが…………やりたい事があれば気にしないで言えよ」
考えすぎかもしれないが、イリーナの優柔不断は境遇が生み出した"後天的な性格"なのかもしれない。イリーナの目的は"復讐"であり、他の所に"楽しみ"を見出してしまうと、復讐心が薄れてしまう。だから自身を過剰に奴隷と割り切り、自己を殺す事で復讐心の純度を保っているのだ。
「はい。その、考えておきます」
まぁ俺としては、あえて復讐を応援する意味も無いので、イリーナが納得して"幸せ"になってくれるなら、
*
「ご主人様、あの方々は……」
「目を合わせるな。気づかれる前に立ち去るぞ」
狩りを終え、第三階層キャンプ地の屋台通りに寄ると、そこには酒盛りをする勇者の姿があった。
「その、悪酔いをしているようですが……」
この世界の成人は15歳からであり、酒やタバコを嗜んでも何ら問題は無い。もちろん、モラルや責任が付きまとうが…………そこは粛々と法律に則って対処してほしい。
「分かっている。しかし、それでも気にするな」
「はぁ……」
ドッグジャンキーとの一件もありイリーナは、俺とクラスメイトの微妙な関係を理解している。よって、本来ならば無暗に声をかけたりはしないのだが、この状況はソレとは別。
つまり、イリーナが心配しているのは『問題を起こした場合に俺に及ぶ"トバッチリ"』の方だ。しかし、俺としては関わるくらいなら3万を払う方を選ぶ。アイツラは、それほどの相手なのだ。
「イリーナ」
「はい」
「アイツラには絶対に関わるな。もし何かあったら、その時は走って逃げろ」
「それほどですか?」
「それほどです」
アイツラとは、俺が"プレイヤーズ"と呼んでいる男2人女2人のグループだ。俺が通っていた学園は、オタクに排他的な一般人が通う、普通の進学校だ。しかしそんな場所にも、俺のようにオタクが入学してしまう事はあるし、チャラい連中が入学してしまう事もある。学園内では上手く取り繕っていたが、アイツラの本性は紛れもなく後者であり…………
なにより、あの羽振りの良さは怪しすぎる。別に『チャラ男=悪』と決めつけるつもりは無いが、『犯罪行為に及ぶ者が出るとすれば、間違いなくアイツラ絡み』だと思える程には、アイツラの言動は怪しい臭いを放っている。
そんなこんなで俺は今日も今日とて、クラスメイトを避けて行動していた。
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