#039 シルバーランク

「……の功績をもって冒険者キョーヤを"シルバー"ランク、並びに"魔法使い"、そして"商人"の称号を与える。今後とも励むように」

「謹んでお受けします」


 冒険者ギルドに居合わせた冒険者たちがザワめく。


 その日、俺はランクアップに合わせて、魔法使いと商人の称号も得た。シルバーランクは"ベテラン"を意味する称号であり、本来は3年、最速でも1年は必要だと言われている。


 これは俺の才能のなせる業…………と言いたいところだが、召喚勇者はその辺、審査基準が緩いそうだ。そこは勇者と言っても営利目的で召喚された"お高い捨て駒"であり、様々な思惑が交差している。


「おめでとうございますキョーヤさん。早速ですけど3件ほど、"指名依頼"登録の要請が来ています」

「あの、俺、今さっきシルバーになったばかりなんですけど?」


 基本的にクエストは、フリークエストと指名クエストに分かれる。意味はそのままで、フリーは手の空いた冒険者が自由に参加できるクエストで…………指名は、契約した冒険者しか受けられない。つまり、信頼が求められる依頼となる。


 そしてシルバーランクに昇格すると、各種ギルドや商会との指名契約や指名依頼が解禁される。まぁ、俺はすでに鍛冶師ギルトと契約しているようなものなのだが、本来は昇格したてのペーペーに指名が来る事は無い。


「それはホラ、キョーヤさんですから」

「いや、全然説明になってないんですけど」


 指名依頼は、指名料や安定した仕事が見込めるので基本的に"得"なのだが、当然ながら失敗すると信用に傷がついてしまう。冒険者は自由をたっとぶので、昇格しても指名は受けない者もそれなりにいるそうだ。


「それで、依頼が来ているのは……。……」



 俺のツッコミを華麗にスルーするノルンさん。それはさて置き、依頼主は……。

①、鍛冶師ギルド。わざわざギルドを通さなくてもっと思うが、通してもらえれば"実績"としてギルドからクエストポイントなどが随時貰える。いざとなればシルキーさん経由で融通もきくので、断る理由は無い。


②、ミズガルズレザー協会。普段冒険者ギルドが、魔物の皮や甲羅などを卸している小規模ギルド。中層に行くと属性や種族特性(追加効果)が宿った素材が入手できるのだが、毛並みや傷の有無で価値が大きく変動する。よって上位素材は、フリーとは別に指名枠を設けているそうだ。普段狩っているエモノ的に、1番お世話になる頻度が高い組織だと思われる。


③、魔法使いギルド。ユグドラシル内にギルドの支店が無いので予想外だったが、どうやらタートルや錬金術の事などでそれなりに注目されていたようだ。一応、魔法使い系は冒険者よりも、国や貴族方面の繋がりが強いらしく、もしかしたら国の役人が何らかの形で関与している可能性もある。



「魔法使いギルドですか……。何と言うか、面倒だけど断るな、っと俺の"勘"が囁いていますね」

「返事は後日でイイのでゆっくり考えてみてください。ただ…………魔法使いギルドは秘密主義で、謎が多い部分もあります。昇格のタイミングも伝えていなかったんですけど……」

「ほかの2件は、伝えていたんですね?」


 後日知った話だが、指名依頼は担当ギルド員にも幾らか追加報酬が発生するそうだ。


「あっ、そうだ! 実は、キョーヤさんにお客さんが来ていたのでした」

「依頼主って事ですか?」


 ていよく話を逸らすノルンさん。何処かの誰かと違って、俺にも利益のある厄介ごとなので責めるつもりは毛頭ないが、出来ればもう少し事前に説明などが欲しいところ。


「いえ、中層で活動するベテラン冒険者の方なんですけど…………まぁ、ルビーさんと言うか、子連れ獅子に縁のある方ですね」

「そうですか、まぁ、それなら断る理由は無いですね」


 不安な気持ちが無いと言えば嘘になるが、新工房ウチではなくギルドに口利きを頼むのだ、何か"理由"があるのだろう。今は(試験は立ち合い不可なので)2人を連れていないので、タイミングとしては丁度いい。





「……姐さんには返しきれない恩義がある。出来る事なら俺だって……。……」


 紹介された冒険者は、どうやら『ルビーの母親の舎弟』だった人のようだ。そしてその姐さんは別の男と結婚したので、今更でる幕は無いのだが、それでもルビーの生まれる前や裏事情を知る貴重な人物だ。


「それだけ気になるなら、会いに来たら良いんじゃないですか?」

「いや、それは……」


 先ほどから薄々感じていたのだが、この人、何か後ろめたい気持ちがあるようだ。まぁ、子連れ獅子は大怪我が原因で突然引退する事になった。何かあるとしたら、まず間違いなくその辺りだろう。


「同じダンジョン内で活動しているんです。避けたところで……」

「あぁ、もう! 俺の事はいいんだよ! とにかく、ルビーを泣かせるな! 俺が言いたいのは、それだけだ!!」


 流石にこの人は、ルビーの性別を知っているはず。本当は会うつもりは無かったが、それでも恩人の娘が心配で、こっそり俺にクギをさしに来たのだ。


「そんな"玉"では無いと思いますが…………ちょうど歳の近い女性もいるので、仲良くやっていますよ」

「そうなのか!? それなら良いんだ」


 我ながら姑息な発想だが、この場で"男"の俺がドウコウ言っても無駄。それよりも、"女"友達をアピールした方が安心しやすい。少なくとも俺が逆の立場なら、将来的には『女性としての幸せを掴んでほしい。でも! それは今では無いし、お前とでもない!!』と考えるだろう。




 そんなこんなで結局、核心部分は聞けなかったものの、ルビーと縁のあるベテラン冒険者と知り合った。


 ……いけね。また名前、忘れてしまった。

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