#038 ルビー②

「うん、なかなかイイな」

「肯定。これはこれでアリ」


 あれからルビーの動きを確認して、後日、シルキーさんにも協力してもらいルビー用の装備を新調した。


・追加装備(ルビー)

武器:ナックルナイフ×2

防具:軽量ハンタースーツ・甲羅の胸当て・甲羅の篭手・甲羅のブーツ

付属:バックパック(小)


 ナックルナイフ:ナックルガード付きのナイフ。状況に合わせて斬撃と打撃攻撃を使い分けられる。


 軽量ハンタースーツ:動きやすさを重視するハンター用の服。通常の物よりも布面積を省き、動きやすさと通気性を向上させている。ただし、ヘソ出しと脇出し、ホットパンツと防御力は皆無。


 甲羅の防具シリーズ:タートルの甲羅で出来た防具。防御力はそれほど高くないが、軽量でしなやか。動きを阻害しない。


「あの、私もハンタースーツこういった服装がいいのですが……」

「何言ってんだ? イリーナには似合わないだろ??」

「そう、イリーナは全然わかっていない」

「うぅ、体格は同じなのに……」


 イリーナの最大の武器は"恥じらい"であり、それを1番引き立てるのがメイド服なのだ。ルビーはそのあたり全く関心が無いようで、可愛い服もエッチな服もノーリアクション。素直にボーイッシュな少女の魅力を引き立てる方向でコーディネートした。


「あ、あと、ベルト部分のボタンは"飾り"だから、外すように」

「お、そうだったのか。わかった!」

「ご主人様、これではショーツが見えてしまうのでは?」

「そういうデザインだ」

「そう、ですか……」


 イリーナの視線が痛いものの、実はそれほど奇抜でも無い。日本人の感覚からすると女性のパンツは欲情の対象だが、この世界の感覚では"インナー"であり、シャツや靴下と同じ感覚で扱われている。


 まぁ、流石に『全くエッチな印象が無い』っとまではいかないが、それでもこの世界の基準からすると、パンツよりも"生足"の方がエロいらしい。





「とりゃーー!!」


 とりあえずルビーを連れて第二階層を一周する。ルビーの戦法を一言で言えば"猪突猛進"だ。


「やっている事はゴブリンと同じだな」

「何と言うか、ルビーさんは本能で戦うタイプですね」


 ルビーは一応、親と一緒に中層で活動していたはずなのだが、正直に言って『なぜ生きているのか不思議』なくらいに突撃一辺倒だ。


「ボス! この装備、何かいいぞ!!」

「何かって何だよ?」

「ん~、涼しい!!」

「お、おう」


 正直に言ってルビーのおつむは弱い。しかしそれでも英才教育を受けたおかげか、なかなかどうして、単純な戦闘力は大したものだ。


 獣人である母親も同じスタイルだったそうだが、たしかに魔物相手なら"先手必勝"は有効な戦術なのだ。もちろん、搦め手が無いので『勝てない相手』にはどう足掻いても勝てないが、そこは親の2人が判断して指示を出す形だったそうだ。


「ルビー。ちょっと、俺に攻撃してみろ」

「ん? いいのか??」

「いいから、本気で来い」


 目を輝かせるルビー。イリーナは訓練でも、俺への攻撃は躊躇するので、この感覚は少し新鮮だ。


「とりゃーー!!」

「甘い!」

「ぴぎゃ!?」


 勢いをつけて斬りかかるルビーを、そのまま投げ飛ばす。躊躇なく刃を向けてきたのには少しだけビビったが、それでもその攻撃は馬鹿正直であり、見えていれば対処は容易だ。


「ん~、なかなか悩ましいな」

「ニハハハハ、ボス、今のもっかいやって!!」

「遊びじゃねえ!」


 俺は回避重視のカウンター型であり、素直な攻撃と相性がいい。しかし魔物は、カウンターも何もあったものでは無いヤツも多い。ルビーの戦術を矯正するべきか、それともそのまま伸ばすべきか、悩ましいところだ。


「…………」


 ルビーとのやり取りを、恨めしそうに眺めるイリーナ。


「せっかくだ、イリーナも打ち込んで来るか?」

「えっと…………そういうつもりでは……」


 イリーナは防御重視のカウンター型であり、暴走状態でも無ければ自分から積極的に攻めてはいけない。そう言う部分もあって、イリーナの指導はシルキーさんに任せている。


 そしてそれと同じように、ルビーもまた異なる戦闘スタイルを"すでに"持っている。まだ若いので矯正は可能だろうが…………結局のところ、俺が下手に手を加えても良くなる保証は無い。


「ご主人様」

「ん?」

「いえ、何でもありません」


 イリーナの顔から笑みがこぼれる。


 気がつけば、完全にルビーを『パーティーメンバーとして調整していく』方針で考えていた。ルビーは確かにバカだ。しかし何と言うか、素直で言いつけは確り守る。何と言うか、嫌いになれないタイプなのだ。


「そう言えば、ルビー」

「ん? なんだボス」

「お前は、"俺"でよかったのか? 父親の言いつけとは別に、個人的な感想として」


 ルビーの父親の言いつけは、ハッキリ言ってしまうと『愛娘を他所よそにやりたくなかった親バカ』の我儘だ。そこに縛られる必要は無いし、もしかしたらルビーには…………そう言う相手が居たのかもしれない。


「ん~、よく分からねぇけど、ボスと一緒に居ると"何か"楽しいから、好きだぞ!!」

「ぷっ、なんだそれ」

「オレも、わっかんね!」

「はぁ…………どう判断したものか」


 複雑な表情を浮かべるイリーナだが、イリーナもルビーを嫌っている訳ではない。境遇や立場もあって、まだ距離感が掴めていないだけなのだ。




 そんなこんなで、俺のパーティーは3人構成(ソロ×3)になった。

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