#115 2人目

「 ……は、未だ発見されていない様です」

「完全に、裏をかかれてしまったな」


 その日、とある勇者が失踪した。まだ死亡は確認されていないものの…………失踪したのは交の暗殺を企てていたバカであり、既に殺されている可能性が極めて高い状況だ。


「誰かが匿っている可能性は無いんですか? 敵を騙すなら、まず味方からって言葉もありますし」

「そうなのですか? 確かに可能性はゼロではないですが…………この状況で下手に身を隠しても、動きやすくなるのは犯人側です。まぁ、それが理解できないほど精神的に追い込まれた可能性もありますが、やはり低いかと」

「そうだな。勇者寮は部外者の立ち入りが制限されており、警備兵も周囲を監視しておる。そこよりも安全な場所となると、そうそう無いぞ」


 推理を続けるリリーサ様とルリエスさん。俺的には、(推理アニメの様に)迂闊に単独行動をして殺されたパターンに1票入れたい。


 それはさて置き、今回の事件は何とも謎の多い展開になった。

①、被害者はキャンプ地から出ていない。この時点で、犯行を調教師に絞っていた俺たちは裏をかかれてしまった。(ダンジョンの出入りは、警備兵が臭いも含めて厳重に管理している)


②、死体も含めて、バカが見つからない。臭いを洗い流せば逃走経路を部分的に隠すのは可能だ。しかし、だからと言ってキャンプ地全てを洗浄するわけにもいかないので発見は時間の問題だと思われたが…………いまだに見つからない。まだ捜索は続いているものの、警備隊の獣人が苦戦するほどの状況なのは確かだ。


③、死体の処理方法の謎。ダンジョン内なら魔物が短時間に処理してくれるが、キャンプ地内では確実に処理する方法は限られる。そうなるとまたしても死体が発見されてしまう訳で、それが証拠に繋がってしまう。そんなリスクを、犯罪組織であるカースマルツが背負うだろうか? 何か、確実に死体を処理する"秘策"があったと見るべきだろう。



「報告します! 失踪者の足取りが、一部判明しました!!」

「残念ながら、一部だけだったけどね」


 そこにやってきたのはニラレバ様に仕えるメイドの1人と…………B子であった。


「おぉ、ミレイ! 疲れただろう、まずは茶でもどうだ」


 相変わらず(今は居ないが)AとBに甘いリリーサ様。まぁ、その光景は横目で見ながら尊ぶとして…………報告によると、どうやら被害者は自ら寮を出て、逢引き用の宿、つまりラブホに入ったそうだ。


「 ……ですので、同じ部屋に入った者が"誰だったのか"は、記録に残っておりません。しかし、支払いは済んでおり、争った形跡も無い事から…………犯人は親密な相手か娼婦を装った者であり、犯行は宿内の湯あみ場であった可能性が高いかと」

「なるほど。それなら、魔法による清掃と、水による物理的な洗浄が同時に出来ますね」

「「…………」」

「??」


 場に立ち込める微妙な雰囲気を感じ取り、B子が疑問を覚える。


 バカなのは分かっていたが、美人局につかまり、のこのこと自ら安全な寮を出ていたのは救いが無さすぎる。


「えっと…………手口が完璧すぎます。"組織犯"である事は、揺らぎ無いかと」

「そうだな。最低でも2人、更にいる可能性も考慮すべきだろう」

「ですね。そう言えば…………(生き残っている)最後の1人は、どうなったんだ?」


 2人も殺されたとなれば、『喋らないので見逃してください』が通じない事は理解できたはずだ。そうなれば、逆に警備隊に協力した方が安全。流石に今度は、美人局にノコノコ釣られる事は無いだろう。


 無いよね?


「あぁ、イノっちね。そっちは栄子たちが当たっているけど…………かなりビビってて、協力的らしいよ」

「みんな~、お待たせ! 犯人が分かったよ!!」

「「!!?」」


 絶妙なタイミングで現れたのはA子。


 バカ共が犯人に直接会ってやり取りをしている以上、証言があれば犯人を特定するのは容易だ。まぁ、そのせいでカースマルツと勇者寮の連中がやり合う事になるかもしれないが…………そこは自己責任でどうにかしてもらいたい。


 まぁ流石にカースマルツも、国の息がかかっている勇者と本気で潰し合う事はしないだろう。3人以外にどれだけターゲットが残っているかは知らないが…………どう転ぶにしろ、最終的には『カースマルツがユグドラシルを撤退して終わる』事は確定している。なにせ召喚勇者は、ユグドラシルの外に出られないのだから。


「それでね、犯人は…………………………………………何と! かなり前に、死んでいました!!」

「ちょっと、尻出せ」

「はぁ~ぃ」


 A子が手慣れた動作で、スカートに手を差し込みパンツを下ろす。それからスカートをたくし上げて尻を突き出す。


「生で出すんじゃ…………ねぇ!!」

「ひぐぅぅ~~~!!!!」


 しまった。ナチュラルにツッコんでしまった。調子づかせないよう、出来るだけABのボケはスルーする事にしていたのに。


「おまえ! エイコになにを!!」

「いいの、リリちゃん。これはご褒美だから……」

「「…………」」

「えっとそれで……」

「ってことは、祈里に会っていた犯人は、偽名と変装で接触していたってところかな?」

「そうですね。偽名を使うのは基本。そしてダンジョンだと、どうしても変装先が早々に死んでしまう事は、あって当然かと」


 『変装を見破れなかったのか?』と思うかもしれないが、俺たちからしてみれば、この世界の人は外国人であり、顔を見分ける能力は低い。それが無くとも、マジックアイテムで変装している可能性もあるので…………犯人からしたら、依頼者を殺すのは(ギフトで看破されている可能性を考慮して)『念のため』程度なのだろう。


「ねぇ、恭弥」

「なんだよ」

「今度は私のお尻も、もてあそんでね」

「言い方!!」




 そんなこんなで俺たちは、カースマルツに完全に出し抜かれてしまった。

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