#116 落としどころ
「そこ! ペースが落ちてるぞ! そんな体力で冒険者が務まると思うな!!」
「「ひぃ~~ぃ」」
「それで…………結局犯人の足取りは、つかめていないんですよね?」
新入りの冒険者組の特訓風景を眺めながら、クッコロと一連の事件について語りあう。
「そうなるな。それこそ、本当に犯罪なんて起こっていないみたいに」
「でも、生きているなら見つかっているはずですよね? やはり、死体を完全にすり潰して…………浄化槽に流してしまったのでは……」
「怖い事言うな。因みに、そういう所は真っ先に捜査されているから、ハズレだな」
「あぁ、そうですよね」
事件の事をクッコロたちに話すかは、俺も悩んだが…………イリーナも含めて、早々に話すことにした。日本基準だと『復讐は空しいだけ。何も生まない』なんて言うが、俺に言わせれば余計なお世話。『当人が決める事』だと思っている。
まぁ、そのせいで暴走して大事になったとしても…………受け止めてやるくらいの覚悟は、あるつもりだ。
「予想では、箱詰めにされて、ユグドラシル外に持ち出されたんじゃないかって話だ」
「そんな事、出来るんですか?」
「ダンジョンの出入りならともかく、ユグドラシルの出入り口は、毎日大勢の業者が出入りしているからな。綺麗に箱詰めされると、平時はいくらでも隙がある」
「まぁ、そうですよね。いちいち箱の中身まで、見ていられませんし。それじゃあ、取引業者を調べれば……」
「それも無理だな」
「え?」
「俺たち召喚勇者は、ユグドラシルの外には出られない。出ると…………灰になる、らしい」
「えっ……」
驚きを隠せいないクッコロ。しかし、コレは事実で、過去に召喚された勇者の中には、逃走を試みた者もいたそうだ。しかし記録によると、『死んだ魔物のように、瞬く間に体が崩壊して消えた』とされている。
最初は、ただの"脅し"だと思っていたが、今では"事実"であると確信している。その辺りは博士とも話したが…………予想では、俺たちの肉体は『魔物に極めて近いもの』であり、それが地球の俺たちを模す形で顕現している、と見ている。
「まぁ、ユグドラシルから出なければいいだけの話だ。普通に天寿を全うした勇者も、何人かいたらしいしな」
「…………」
「お、おい! なんで泣いてるんだよ!?」
「え? あれ、ホントだ。すいません。何だか勝手に……」
表情を崩さず、ポロポロと涙を零すクッコロ。普段は平気な顔をしているので忘れていたが…………これでも彼女は15歳の女の子で、家族も失ったばかりだった。
「その、すまん。俺はデリカシーとか、そう言うのは苦手で」
「謝らないで、ください。何も、悪い事はしていない、じゃ、ないですか」
「そうか」
「「…………」」
何ができるでもなく、ただただ黙って落ち着くのを待っていると…………イリーナがやってきた。
「お疲れ様です…………って、もしかして、お邪魔でしたでしょうか?」
「いや、そう言うのじゃないから」
「…………」
「本当ですか?」
「本当です!」
泣き顔を見られたくないのか、黙って背を向けるクッコロを見て、ジト目で睨んでくるイリーナ。とりあえず、こういう時は…………話をすり替えるのが1番だ。
「そうだ! 前に話していただろ? 今回の一件、2人はどうしたいんだ??」
薄情ではあるが、俺に『クラスメイトの仇討ち』を望む気持ちは無い。もちろん、金の為に平気で人殺しをする犯罪者を容認するつもりは無いし、寝覚め悪いので如何にかしたい気持ちはあるが…………名前も思い出せない同郷の死は、俺にとってその程度のものだった。
「私は…………正直に言って、復讐に人生を捧ぐ覚悟で奴隷になりました」
「「…………」」
「しかし今は、失うものが多すぎて、とても人生までは、捧げられません」
「そうか」
「でも! それとは別に、やはり犯人は…………死んでほしいです!!」
全くもって同意だ。アニメなんかだと、『殺す価値もありません、貴方は残りの人生を費やして罪を償ってください』みたいな落し所に納まるパターンが多い気がするが…………俺的には全く納得がいかない。仇がノウノウと生きているのは苦痛だし、性根の腐ったヤツが完全に更生できるかは怪しいところ。そもそも、そんなクズが心を入れ替えたところで、償えるものが失った命に見合うとは到底思えない。
「私も、村をあんなにした犯人が、自由に生きているのは…………納得できません!」
「そうだな。じゃあ、どこまでがいい?」
「「??」」
「魔物を扇動した調教師を殺すか、それともその仲間も殺すか、あるいは…………背後に控えている組織も含めて、完全に潰してしまうか」
カースマルツは、奴隷商や貴族の後ろ盾をもつ大きな犯罪組織だ。しかし、その活動は直轄と言うよりはギブアンドテイク。それこそ、冒険者と冒険者ギルドの関係に近いようだ。
つまり、イリーナの一件や殺し屋の仕事は、どちらかと言えば個人の"小銭稼ぎ"であり、奴隷商やカースマルツは無関係。しかしクッコロ(の)村の件は、まず間違いなく奴隷商の依頼であり、カースマルツのシノギだろう。あまりにも奴隷の売れゆきがいいから、奴隷商が『商品の補充』を依頼したのだ。
「その、私は……」
そんなこんなで俺たちは、一向に終わりの合図が貰えず死にかけている新入りをよそ目に、一連の事件の"落し所"について話し合った。
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