#104 少女の夢
「……で、キョーヤさんにチキューでは、様々な"愛の形"があり、それを補助する"道具"の開発も盛んだったと聞きました」
「…………」
「それで、リッカさんのお力で、ソレラを再現できないかと……」
夜、私は早速キョーヤさんに聞いた道具を再現できないか、リッカさんを訪ねた。
「……なるほど。話を、聞こう」
思わせぶりな態度で答えるリッカさん。この人は独特の雰囲気があり、正直に言って何を考えているのか分からない。しかし、そんな彼女だからこそ、私の秘密を明かすのには都合がいい。
「待たせてしまったね。研究は…………おっと、失礼。先客が居たようだ」
「あ、すいません。お邪魔しています」
そこに現れたのはローゼンルシアさん。口ぶりからして、事前に何かやり取りがあったようだ。
「丁度いい。今、"実験台"の調達ができた」
「フフフ、それは、助かるね」
不味い。何やら不穏当な話をする2人。私の本能が『逃げろ』と叫んでいる。
「それでは、私はここで……」
「まぁ待ちたまえ。ちょうど、面白いものが出来たところなんだ」
「そう、見てからでも、遅くない」
そう言って、なぞの"瓶"を取り出すリッカさん。その中は…………怪しげな液体で満たされており、中には半透明の"棒状"のものが入っている。
「えっと、これは……」
気がつけば私の視線は、その棒状のものにクギ付けになっていた。ソレは、長めのソーセージの様な形状をしており、僅かに反り返っている。
「これは義体の一種でね。内部に魔術神経が通っている。つまるところ、"柔らかい義体"だね」
「え? それって……」
あまり詳しくは無いが、私の知る限り『柔らかい義体』は聞いたことが無い。基本的に義足などの義体は…………単純に体の部位を模した義体と、魔術回路を組み込んだ"魔術義体"の2つに分類できる。魔術義体は、乱暴な言い方をすれば『高機能のマジックロッド』だ。魔力を用いる事で、手足のように動かしたり、更に他のマジックアイテムに魔術的な信号を伝える、などの普通の義体では出来ない高度な操作が可能となる。もちろん、それに見合うお値段なので、平民には縁のない代物だが。
そんな訳で、魔術義体はマジックロッドと同じように、木製か金属製(一部例外あり)に限られる。それと同じ効果を持つものを"軟性素材"で作ったとなると、これは可成り画期的な発明…………それこそ世界が動くような発明なのではないだろうか?
「まぁ、変に期待されてもいけないので補足しておくと…………これは完全な義体ではない。あくまで、魔術神経を軟性素材に定着させただけの代物だ」
「えっと、なるほど……」
ダメだ。何が違うのかサッパリ分からない。
「口を開けて」
「え? こ、こほれすか……」
「舌」
「はい…………むご!?」
突き出した舌に、先ほどの棒状の義体が押し付けられる。するとソレは、舌に密着し…………やがて魔術的に接続した、不思議な感覚を覚える。
なんと表現したらいいか…………『舌が、伸びた』感じだ。
「今、キミの舌に義体が接続された。これで、義体に与えられた刺激を、キミも認識できるようになったはずだ」
「え? そうひえば……」
上手く喋れないが、言われてみればそんな気がする。と言うか、何で"舌"なんだろう? これじゃあ、口から"触手"を生やしているみたいだ。
「これ、舐めて」
「はひ」
それから、次々に用意されたモノを義体越しに舐めさせられ、それを資料に纏めていく作業が続いた。
そんな中で、分かった事が幾つかある。どうもこの義体は『自由に動かせない』ようだ。あくまで『神経を延長している』だけで、舌に接続すれば『舌で感じられる感覚』を延長するだけであり、音や匂いは感じられない。だから、相手を触手で絡めとるとか、そこから体液を吐きかけると言った使い方は出来ない。
既存の魔術義体も神経接続は出来たはずなので、コレは本当に"柔らかい"だけの代物のようだ。
*
「よし、試験はとりあえず、これで終了だね」
「うぅ、この"触手"、耳には太すぎです」
耳から義体を引き抜き、耳に異物が入る何とも言えない不快感から解放される。柔らかいとは言え、流石にこれはキツかった。
「これでも、画期的なほどに細いのだが…………まぁいい。なかなか興味深い結果だったよ」
「それは、まぁ……」
確かに、感覚器官を延長する体験は、ちょっと面白かった。聴覚の延長は失敗に終わったのも含めて、『魔法科学の面白さの一端に触れた』気分が味わえた。
「そう言えば、キミは用事があってリッカ君を訪ねていたようだけど、良かったかな?」
「あっ! そうでした!!」
すっかり忘れていた。あまりに情報量の多い体験に、思いつめていた気持ちが薄らいでしまったが…………リッカさんが、これだけ凄い物が作れる人だと分かったのは収穫だ。これなら、キョーヤさんが言っていた"大人の道具"も再現して貰えるかもしれない。
「それでは、私は席を外して……」
「いえ! この際なので、ローゼンルシアさんにも聞いて欲しいです!!」
「「??」」
あまり他人に言える内容では無いが、それでもこれだけ凄い物を見せられると、意見を聞かずにはいられない。少なくとも、この"触手型義体"を貸してもらえれば、私の
その日から、私は暇さえあれば工房に入り浸り…………豊胸義体と、触手義体の開発に尽力する日々を送る事となった。
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