#103 ブーメランとサーラ
「不味いな。ブタが警備隊に保護された」
「暗殺の方も、失敗したみたいだ」
「チッ! いくらつぎ込んだと思ってるんだ!!」
腐ったミカンが、路地裏で悪臭を放つ。
「それで、失敗した訳だけど、お金は返ってこないの?」
「ダメだ、前金は返せないって」
「これ、もしかして詐欺だったんじゃない? 最初から、前金目当ての」
「あり得るな。何せ俺たち、訴えようが無い訳だから」
「クソッ! 何が前金だ! だから俺は犯罪者なんて信じられるかって言ったんだ!!」
「こうなったら、ヤツを締め上げて、前金を取り戻すしかないんじゃないか? どうせアイツも、訴えられない訳だし」
面々は、見つけた殺し屋に少なくない額の報酬を払っていた。それは、聖光同盟に集められた資金を流用する形で賄われており、その喪失は『仕方ない』の一言で流せるものでは無かった。
「落ち着いて。今は事を荒げるべきじゃないわ。それよりも、問題はブタをどうするかよ」
「ダメだ。ブタには、ギルド員や警備隊の護衛がついている。アイツラ、完全にブタを擁護するつもりらしい」
「はぁ!? あり得ないだろ。あんな変態、助けて何の得があるんだよ!?」
「どうせ、金でも握らせたんでしょ? クズの考えそうなことよ」
腐ったミカンは、揃いも揃ってブーメランを投げ合っていた。
*
「それではキョーヤ様、よろしくお願いします」
「えっと、コチラこそ、よろしくお願いします」
俺を"様"付けで呼ぶところに、若干ビッチに近いものを感じてしまうが…………俺を指名したのは火属性魔法が得意なサーラであった。
前衛:俺。回避型の前衛としての採用。魔物のタゲを回避主体で受け持ち、後衛の攻撃機会を作る。
中衛:弓子(ティアナ)。索敵は最小限で、前衛と同じく回避主体で攻撃機会を作る。
後衛:サーラ。殲滅担当の純粋な火力役。
一発型のサーラは、22Fでトレントを狩るプランを選んだ。基本的に複数体に囲まれると対処できないので、(積極的に魔物に挑むのではなく)安全な場所に"ほどほどに強い"魔物を釣りだして倒すプランになる。
「えっと…………よろしくお願いします」
「……。
「…………」
弓子を無視して話を進めるサーラ。彼女の家は、一言で言えば『成金商人』なんだとか。その為、上下関係を強く意識する傾向が強いようだ。一見すると俺に好意を抱いているように見えるが…………心の中は、どうだか分かったものじゃない。
*
「どうですキョーヤ様。キョーヤ様には遠く及びませんが、この程度の相手なら……」
狩場に移動し、さっそくトレントを華麗に屠るサーラ。
しかし、活躍しながらも俺へのヨイショを欠かさない姿は流石だ。ココまで打算的だと(俺を前衛にしてまで)弓子を中衛にした理由にも予想がつく。
「そっちの木は、(擬態した)トレントだ。近づかないように」
「流石はキョーヤ様です! 新人冒険者とは、格が違いますね!!」
「…………」
弓子は、ただの引き立て役。学園でも、引き立て役を連れ歩き、派閥で行動する姿が目に浮かぶ。
「動かないなら好都合です。見ていてください!」
しかし、親の七光りで威張っているだけの無能では無いようだ。プライドを守るために、努力もそれなりに重ねてきたのだろう。体力も含め、魔力の総量以外は高い水準(セレナと比較して)で纏まっている。
何と言うか、『出世しそう』なタイプだ。
「キョーヤさん、私、帰ってもイイですか?」
「奇遇だな。俺も同じことを考えていた」
「「…………」」
しかし、本人は文官志望であり、将来的に魔法戦闘に携わるつもりは無いそうだ。実習訓練に参加するのも、自分の魔法適正と(学園で一番有名な)ロゼさんに取り入る為に過ぎなかったのだろう。
「見てくれましたか、キョーヤ様!」
「あ、あぁ。良かったんじゃないか? もう教える事は無い。帰ろうか」
「え? それはコチラとしても助かりますけど……」
「冒険者家業は、短時間で狩りを切り上げる事も多い。下手に欲を出して籠っても、負傷するリスクを増やすだけだからな」
「なるほど! 一理ありますね」
「…………」
訓練を早々に切り上げてしまうのは問題だが、こんな調子では続けていても気分が悪くなるだけ。実力的も問題ないので、ここは弓子をケアする意味も込めて"打ち切り"を選択する。
「(なぁ、弓子)」
「(何でしょうか?)」
弓子にこっそり話しかける。
「(俺の世界では"現金"に、相手の収入で意見を変える"利己的"って意味もあるんだが、コッチの世界ではどうなんだ?)」
「(その様な意味は無いですが…………なるほど、お金で意見を変えるから現金ですか。面白い言い回しですね)」
やっと弓子の顔に、笑みが戻る。
弓子は、時おり俺をライバル視する様な目で見てくる事がある。しかし、俺的には嫌いなタイプではないし、クッコロの事も秘かに応援している。そんな訳で、(弓子に対して)マウントを取るつもりは無いし、良好な関係を築いていきたいと思っている。
「おい、"現金"」
「え? 現金って、私の事ですか??」
「すぐに帰ると講師に目をつけられる。軽く時間を潰してから行くぞ」
「え? あ、はい。そうですね」
その後は、折角なので弓子に、ちょっと"アレ"な知識を授ける事にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます