#105 過酷な現実と熱意ある少女

「……しま!!」

「おっと。また無理をして……。焦る気持ちは分かるが、無理をしても体を壊すだけだぞ」

「あぁ、分かってる。分かっているんだが…………どうにも気持ちがな」


 光彦が友人の胸に顔を埋めながら答える。


 彼は現在、義足の調整と、衰えた筋力を取り戻す為、寮でリハビリに励んでいた。


「借金の事は気にするな。俺たちだってかなり戦える様になった。光彦、俺は嬉しいんだ」

「え?」

「いつも支えられてばかりだったのに、今ならその恩を返すことが出来る。光彦、俺にもう少しだけ、お前を支える時間を、くれないか?」

「"和人かずと"……」


 ゲートキーパー戦では、光彦のパーティーは特殊編成になっていた。それは実力の問題であり、本来は実力や構成を重視しない"お友達チーム"で活動していた。しかしそれが功を奏し、お友達は戦禍を免れ、こうして光彦を支えている。


「はぁ~、男同士で良い雰囲気だしちゃって、ちょっと妬けちゃうわね」

「"未姫みき"、だから俺たちは……」

「はいはい、分かってますよ。それで……」

「ヒッ!」

「まだ、ダメみたいね」


 近づく未姫に、体を強張らせる光彦。彼は、交と肌を重ね合い、望まぬ快楽を強制される中で…………いつしか"女性恐怖症"になっていた。


「まったく、なんで"女性"なのよ」

「仕方ないだろ? 交が、ずっと女に変身したままだったんだから」

「…………」


 青白い顔を見せる光彦。彼は表立って交を批判してはいないが、言葉に出来ない複雑な感情を抱えて苦悩していた。


「その交の事なんだけど…………ダンジョンで倒れていたところを保護されたってさ。命に別状は、無いみたいよ」

「そ、それは良かった……」

「「…………」」


 行方不明になっていた友人の無事を知り、安堵する光彦。しかし2人は、その反応に痛々しい感情を抱かずにはいられない。


「それでね! 寮を出て、パーティーも組み直しになるみたい」

「!!」

「まぁ、アイツは(勇者寮では)浮いていたからな。良かったんじゃないか?」

「そうね。パーティーも、他所から来た凄腕の冒険者と組むことになったらしいし…………これで、良かったのよ」

「そ、そうか。ギルドがそう決めたのなら、仕方ないな」


 本来の光彦なら、能力にかかわらずクラスメイトは"仲間"として近い場所に置きたがる。それは、あれだけ嫌われていた恭弥や信二たちも例外では無かったほどだ。


 しかし、光彦の"友達理論"に、今、確かな亀裂が入った。共に友情を誓い合った交に対し、彼は状況を理由に、自ら遠ざける指示を肯定したのだ。


「あと、何でも交のヤツ、一時的な変身じゃなくて、本格的に女性化してるんだって。変身能力持ちには、稀にある事らしいわよ」

「えっと……」

「「…………」」


 一同が言葉を失う。それまで友達だと思っていた者が、異世界で同性愛に目覚め、性転換までしてしまう。10代の彼らには、それはあまりにも重い現実であった。





「お疲れ様です。講師も大変ですね」

「熱意があるのは好ましい事だが…………彼女は少し、いや、何でもない、忘れてくれ」

「??」


 朝、俺は心労が顔に滲み出たロゼさんを労う。


「しかし案外、行動力があるんですね? もっと、大人しい子だと思っていました」

「いや、基本的にはそうなんだが…………どうにも、好きな事が絡むと、ダメなようだね」


 話題の相手は、回復魔法を得意とするメェル。彼女は、一度決まった『パーティーメンバーの変更』を申し出てきた。別に、ほぼ初対面の相手も多いので、それは仕方ない事であり、当人同士が合意すれば変更は可能だが…………その変更先として指名した相手に問題があった。


 彼女が指名したのは、なんとデブ。当然ながら指名リストには入っていないので、断ればそれで済む話なのだが…………だからこそ、熱心に懇願する彼女の相手に苦労を強いられた訳だ。


「俺に協力できることがあれば、言ってくださいね」

「あぁ、それなら丁度いい。頼もうと思っていた事があったんだ」

「はい?」

「フフフ、夜、私のところに来て欲しいんだ」

「え、それって……」


 この流れは、間違いなくエッチな事…………と、見せかけて、何か魔法絡みの話だろう。博士には現在、義体に関する研究を頼んでいる。ロゼさんもその研究に興味があるようで、何かやり取りをしているところまでは知っている。


「フフフ、ゼロ。キミの体が…………欲しいんだ」

「よ、喜んで」


 悲しいかな、男のサガには抗えない。魔道具の実験台ってオチだってのは分かっているんだが……。




 その日の夜、俺の予想は見事に的中したが…………"性別"が重要になる実験であり、成り行きで、集まった女性陣と一戦交える結果になってしまった。

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