#106 実習試験①

「その、おはようございます」

「あ、あぁ…………なんだか、気恥ずかしいものがあるね」


 ロゼさんとギコチナイ挨拶を交わし、とうとう来てしまった実習試験。余ほどの事が無ければ"不合格"にはならないが、それでも生徒にとっては卒業をかけた重要な試験であり、同行する俺も緊張してしまう。


「次! ……命中! 次! ……命中!」


 最初に、生徒たちが基礎体力(一次試験)や基礎魔法(二次試験)の試験を行う。これくらい、普段の様子を見ていれば分かる事だが、そこは試験なので形式を重んじる。


「えっと…………どうも」

「あぁ、お疲れ様」


 的当て試験を終えた男子生徒が、最低限の挨拶を残して立ち去る。


「彼らも、歳の近い相手にココまで"差"を見せられ、ショックだったんだろうね」

「すいません、大人げない真似をして」

「フフフ、ゼロが謝る事は無いよ。むしろ、いい経験になったんじゃないのかな?」


 昨日、最後の訓練が終わった後、試験の班決めをする前に男子生徒3人が、俺に"手合わせ"という名の決闘を挑んできた。彼らは"魔法使い"であり、体育会系のノリで挑まれたのは予想外だったが…………まぁ、男として、色々と思う所があったのだろう。


 結局、3人相手に俺が勝ってしまい、彼らの自尊心を傷つける結果に終わった。だからと言って『負けるのが正しかった』って話でも無いのだが、将来の事もあるので、あの場は穏便な解決を目指すべきだった。


「キョーヤ様、見ていてくださいね! 私が華麗に、的を撃ち抜くところを!!」


 続いて二次試験に臨むのは現金。懐かれて悪い気はしないが、彼女のは打算ありきであり、すでにウチの商品を(親が経営する)商会に卸してくれだの、独占契約だのと話を持ちかけられている。


 すでに鍛冶師ギルドやニラレバ様とのやり取りもあるので既存商品を融通するのは難しいが、仙緑膏や義体の事もあるので、ダンジョン外の小売のツテは欲しかったところ。現金も、学生としてユグドラシルに来ているので本格的な商談などが出来る状態では無いが、改めて、正式に交渉する約束は取り付けてある。


「あ、あぁ、普段通りの力が出せれば余裕だろうから、リラックスしていけ」

「はい!」

「「…………」」


 現金が、全力で愛想を振りまきながら試験に臨む。入れ替わってやってきたのは攻撃魔法を苦手とするメェル。


「大丈夫か? 顔が真っ青だぞ」

「その、緊張してしまって」


 順番待ちのさなか、誰よりも頼りない表情を見せるのはメェル。回復魔法が得意と言っても、戦場に立つなら最低限の自衛能力は必要になる。ゲームだと『回復職は攻撃魔法を取得できない』縛りがあるが…………彼女の適性はあくまで"水魔法"であり、水属性なら普通に攻撃も出来る。逆に、回復以外の支援魔法は殆ど使えないので、専攻を変える訳にもいかないようだ。


「思いつめても今さら良くなるものでもない。本試験では、回復魔法を使うチャンスは多いんだ。実力を発揮している自分をイメージすると良い」

「その、私なんかが……」

「お前の回復魔法を待つ"負傷者"がいる。そこに、行きたくは無いか?」


 あとメェルは、種類は異なるものの弓子と同じで"隠れドS"だ。進路に迷いがあるようだから、ユグドラシルに戻ってくる可能性も充分あるだろう。


「…………。なんだか、気分が上向いてきました。ありがとうございます。私、行けそうです!」

「「………………」」


 現金と入れ替わる形でメェルが試験に臨む。続いてやってきたのは苦学生のセレナだ。


「装備の調子はどうだ? ちょっとした事でもイイから、違和感を感じたら直ぐに言うんだぞ」

「はい。その、今は凄く調子がいいです。ありがとう……ございます」


 セレナは初日にパーティーを組んで以降、食事と装備を融通してきた。試験前に(使い慣れた)装備変更をするのはどうかと思うが、それでも彼女の装備は使い古された入門者向け装備であり、更にそれを手直しして使っている状態だった。そんな装備で実戦に臨むのは、それはそれで危険が危ない。


 そんな訳で、(体形が近い事もあり)余っていた予備の装備を貸し出し、一時的に装備面の大幅な改善をおこなった。付け焼き刃ではあるが、これにより全体的に1段階、能力が向上している。


「ちゃんと、"対価"は貰っているんだ。だから"自分の実力"で、試験をクリアすればいい」

「はい! 頑張ります!!」

「「……………………」」


 装備を貸し出すのも、試し屋の業務の1つ。思いっきり本気仕様の私物装備だが、試し屋自体が俺の私物であり、『訓練中の成果ドロップは全て貰う』と言う対価も、ちゃんと貰っているので何も問題ない。


「ふん!」

「ちょ、何するんですか?」


 ロゼさんに、マジックロッドで脇をツンツンされた。


「あまり、女生徒に親身になり過ぎるのは、良くないよ」

「え? あぁ、すいません。出過ぎたマネをして」


 教師の"領分"は、地球でも繊細な問題だ。俺の立場は、あくまで"ガイド"だが、だからこそ、ガイドが教師や、それ以上の指導をするのは、後々に責任問題になりかねない。


「やはりキミは…………(小さい方が……)」

「はい? 何か言いました??」

「言ってない!」

「「!!!!」」


 軽率な行動をした自分が悪いのはその通りだが、この"叱り方"は勘弁してほしい。まるで"痴話喧嘩"をしているみたいで、周囲の視線が痛い。




 そんなこんなで一・二次試験は終わり、試験はダンジョンでの最終試験に移る。

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