#107 実習試験②
「えっと、よろしくお願いします」
「はい! 頑張りましょう!!」
「え? あれ??」
一応は挨拶したものの…………返事が返ってくるとは思っていなかった弓子が唖然とする。
最終試験で、俺と合わせて弓子を指名したのは現金であった。しかし今回は、弓子を単なる引き立て役とは思っていない様だ。実は『真正のドMでレズ』であり弓子に惹かれて…………て事は無いはずなので(個人的には大歓迎だが)多分、この前の弓子にアレコレ教えた時だろう。その時の話を聞き、現金は何かしらの"価値"を嗅ぎ取った…………の、かもしれない。
「それでは、時間も惜しいので第一チェックポイントに向かいます」
「はい!」
「了解」
最終試験は、一言で言えばオリエンテーリングだ。3つのチェックポイントを回りながら、そこで指令を達成していく。指令は、メインとサブで2種類あり、最終的に達成した指令"など"を加味した得点が基準値を超えていれば"合格"となる。
*
「最初の指令は…………水晶の捜索ですね」
「水晶ですか?」
「水晶です」
第一チェックポイントは"林"であり、そんな場所で水晶を探すのは、本来ならありえない状況だ。しかし、これはあくまで魔法使いの試験であり、学生向けなので深く考えてはいけない。
「サブミッションは、講師に見つからずに水晶を入手せよ…………だそうです」
「探索魔法と隠密魔法ですか。意外と言っては何ですけど、結構難しそうですね」
「別に、すべて魔法で解決する必要は無いだろう? 指令には"魔法を使って"とは書いていない訳だし」
この世界には、アニメと違って『都合よく姿を消す魔法』は存在しない。学生レベルだと、せいぜい『足音を消す』程度であり…………教えはしないが、『見つからずに』とあるので、霧を発生させて視覚的に"見られない"ようにするのは(詳しい採点基準は知らないが)合格判定である可能性は高い。
「そう言う事です。それでは、まずは魔力の流れを探り、水晶を探します。多分ですが、それぞれの属性を籠めた水晶が、どこかに配置されているはずですから」
瞳を閉じ、杖に魔力を注ぐサーラ。
直接的に対象を探すのは、精霊魔法の領分であり、それは使えない。そうなると相性のいい火属性の気配を探るか、足で探すしかない。当然ではあるが、足で探すとなると、講師に見つかる可能性は高くなるだろう。
「「…………」」
黙って現金の様子を見守る。これはあくまで現金の試験であり、助力は必要最低限に止める。
もちろん、パーティーメンバーを頼るのも『冒険者としては正しい行動』なので、手伝ったからと知って失格になる事は無い。単純に、生徒個人の評価点が、稼げないだけで。
「多分、向こうだと思うのですが……」
現金が、不安気に目星を指さす。残念ながら俺は、独学で称号だけ獲得したナンチャッテ魔法使いなので、属性の気配を探る事は出来ないが…………人が向かった痕跡はあるので、多分アタリだろう。
「それで、向かいましょうか」
「待ってください。こんな事もあるかと……」
現金が取り出したのは"手鏡"。それを杖の先に括り付けて、それで物陰から周囲を確認する作戦のようだ。林なので、隠れるところが無い訳でも無いが…………まぁ、用意周到なのは良い事だ。
*
軍事訓練をしているような感覚で、木陰に隠れながら林を進んだところで…………程なくして講師を発見した。
『あそこです』
『居ましたね。ところで、今、魔物に襲われたらどうなるんでしょう?』
『そんなの、(サブ)失格だろ?』
『そうですね。そうなので、お願いしますね』
『あぁ、そっちは任せておけ』
俺は前衛の枠で参加しているので、近づいてきた魔物を音もなく瞬殺しても、なんら減点にはならないはずだ。もちろん、パーティーメンバーの実力に応じて、初期得点が増減していたらお手上げだが。
『それで、どうしましょう? 水晶って、多分アレですよね??』
講師の近くの木の枝に、これ見よがしに怪しい袋がぶら下げてある。普通に行ったら、当然見つかる位置であり、何かしらの方法で、講師を遠ざけるか必要がある。
『でしょうね。まずは、情報が欲しいです。弓子さん』
『ティアナです。キョーヤさんに合わせなくてもイイです』
『では、鞭子さん』
『ティアナです!』
『少し離れたところから弓で、(講師の)気をひいて貰っていいですか? あの方の、反応が見たいです』
『えっと、やってみます』
いい判断だと思う。まずは講師が『持ち場を離れるのはアリなのか?』を探るのは重要だ。今回の試験、相手は講師だが、冒険者の試験なら『講師=魔物役』と考える事も出来る。そうなると、相手の『行動パターンを看破する』のは冒険者として基本中の基本であり、試験の内容としては相応しいだろう。
ほどなくして、回り込んだ鞭子が、講師の近くの木に矢を突き立てる。
『矢には気づいたようですが…………持ち場を離れる気配は無いようですね』
『流石に、そこまで簡単では無かったな』
流石に、これだけでクリア出来たら、魔法とは関係なさすぎる。
『鞭子さん』
『ティアナです』
『今度は鞭を鳴らしてみてください』
『スルーですか? まぁ、やりますけど』
どうやら、気づいたようだ。
鳴り響く鞭の音のほうへ、"体"を向ける講師。そう、弓を警戒するなら、視線を向けるべきは"矢"ではなく、"弓師"が居るであろう方向だ。仕事とはいえ、近くに矢を射られ、その相手に背を向ける嫌悪感は察するにあまりあるが…………だからこそ、機械的に決められた行動をとっているように見える。
『そのまま、鞭を鳴らし続けてください。私が、行きます』
『分かりました』
『おぉ、がんばれよ、現金』
『サーラです』
それだけ言って、風魔法の<サイレント>を発動させる現金。風は、得意な属性ではないものの学生レベルでも使える魔法であり…………講師なら気がつくであろうが、気がつかない事にして『魔法を駆使してクリアした』事実は確認できる。
そのまま講師のもとへ近づき、視線を背け続ける講師の隣で大胆に袋を取って見せる現金。
『正解です。やはり水晶でした』
『おぉ、おめでとう』
『ありがとうございます。キョーヤ様、しょく…………鞭子さん』
『ちょっと、あとでお話、しましょうね』
『『…………』』
こうして俺たちは、第一チェックポイントを無事クリアし、第二チェックポイントへと向かう。
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