#168 業績改善会議
「はぁ~~~~」
ひとまず状況を整理するためにも三ツ星について整理しよう。
まず、三ツ星は非営利の慈善組織だ。基本的に借金などの理由で奴隷落ちした非犯罪奴隷の中で、特別な才能を持たない安い女奴隷を対象にしている。ようするに私みたいな境遇なのだが、ゆえに剣や学はあまり期待できない。それどころか、心や体に障害を抱える者も少なくない。
購入した奴隷に様々な仕事を割り振りつつ、手に職をつけてもらい、一定期間が経過すると卒業となる。奴隷の購入費用はまとめ買いしているので(実際には差があるのだろうが)同額で、基本的には3年で強制卒業となり、歩合などをあてる事で前倒しで卒業できる。
非営利といったが、収益は非常に重要で、より多くの恵まれない者を救えると同時に、前倒し卒業もしやすくなる。また、現在はある程度収益を維持できるように購入する奴隷の条件を絞っているが、その条件を緩くできる。
「そろそろ、休憩にしませんか」
「あぁ、セレスさん、すいません」
ちなみに今は、中に戻って事務所で改革案を考えている。外の施設は流れ作業専用みたいになっているのと、やはり何か新しいことをするのにお伺いをたてるべき相手がそろっている。
「やっぱり! もっと厳しくしなくちゃダメなのよ!!」
「でも、障害のある方もいますし、人によって差を設けるのも難しいですよ」
「逆に歩合やご褒美になるものを、もっと増やす手もありますね」
さまざま意見が飛び交うが、結局どれも『やってみないと分からない』わけで、班長に権限を与えて好き勝手にやらせるリオンさんのやり方は秀逸だったと思う。あれなら運営の投資は必要ないし、もし問題が起きれてもバッサリ中止・処罰できる。そしてなにより、いちいちアイディアを考えなくてもいい。
リオンさんは仕事を抱え込むタイプだが、任せると決めたら丸投げ。連携や匙加減が下手なところは、何とも他人事に思えない。
「ひとまず基本給を引き下げて、歩合で変動する割合を増やしましょうか。しかし……」
これが冒険者なら頑張りしだいで収入は(死ぬ可能性が高まりつつも)2倍3倍と増えていくものの、加工などの流れ作業だといくら頑張っても変動は数割程度。それだと頑張っても『わりに合わない』と考える者は少なからずでてくるだろう。
「けっきょく限界、なのかしら……」
「「…………」」
リオンさんの対策がハマって一時的に収益は伸びたものの、『作業内容や人員的には、すでに頭打ちしていた』可能性に行きついてしまう。
「ひとまず鞭としては基本給の引き下げ、飴としては1日外出権や豪華な食事などを用意するということで」
「そうですね。そのあたりなら直ぐ実行出来ますし」
「今の班制はどうします?」
「それは…………残しでいいかと」
班長権限を精査する必要はあるだろうが…………正直、作業員が勝手に問題解決してくれる制度を無くすのは惜しい。もちろん、お金と人員が無尽蔵にあったら、真っ先に潰したいところだが。
「そうですね。いまさら変えるのも手間ですし」
「変えるなら、もっとこう、大胆で、ん~~~」
「「…………」」
けっきょく収益をあげたいなら収益そのものを伸ばすのが近道。それこそ水商売をさせるくらいの大胆な作戦を考えなければならない。
しかし水商売や売春はダメだ。作業員は安い女奴隷で、容姿はあまり良くないし、精神的な問題で男性の相手が出来ない者も多い。もちろん大丈夫な者もいるが、一部にのみ許可すると収入の格差が大きくなり、施設内で過剰な上下関係がうまれてしまう。それは冒険者も同じだが、そこは完全に独立させているので接点はない。
やるなら冒険者組のように独立させるしかないが、そもそも身売りしなくてもすむように三ツ星があるわけで、本末転倒だ。……というかこの案、そもそも『外の施設の改善』になっていない。
「ここはやはり、キョーヤ様のお知恵を借りるしか」
「「…………」」
「そうですね。正直、ちょっと"怖い"ですけど」
言われて少し納得してしまった。リオンさんも大概だったが、キョーヤ様もアレでその上をいく極端な思考をもっている。強くなるためとはいえ、魔物がひしめくダンジョン内で野宿するとか、とても正気とは思えないし、実際にやってのける実力を持つ人の感性が『凡人の参考になるのか?』という問題もある。
「ですがご主人様の商売才というか、嗅覚は本物です。じっさい、実績は数えきれませんし」
「ですね」
結局『なんで最初からそうしなかったんだ?』という結論に行きついてしまう。もちろんキョーヤ様では、今回決まった細かい調整は出来ないのだが。
この時の私はまだ知らなかった。キョーヤ様の商才と、発想の恐ろしさを。
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