#011 初めてのPT狩り①

「今日はよろしくお願いします」

「こちらこそ、皆さんとパーティーが組めて、光栄です」

「…………」


 場所は第二階層キャンプ地。そして今日は、待ちに待ったノルンさんの非番の日。冒険者ギルド員は冒険者でもあるらしく、非番の日などを利用して実際に狩りに出かける事もあるそうだ。


 そんなわけで、俺は兼ねてより約束していたペア狩りに出かける事となった。なったのだが…………何故かこの場には先生にそっくりの女性が立っている。


「私のポジションは後衛寄りの中衛なので、安定するまではキョウカさんのフォローに回りますね」

「はい! お願いします!!」


 どうやら、先生のそっくりさんは本物だったようだ。


 それはさて置き、正直ちょっとホッとしている自分がいる。ノルンさんとは、ギルドでは何度も指導してもらっているが、非番の日に会うのは始めて。それなのに、いきなり異世界の美女と2人っきりでは、とても上手く立ち回る自信は無い。最悪、色々と硬直して命を落す可能性すらある。


「それじゃあ、お願いします。俺もある程度魔法は使えますが、今のところ近接剣技を先行させているので」

「では、とりあえず第二階層の安全なところで様子を見ましょう」

「そうですね。先生は、無理しないで背後に控えて……」

「ふふ~ん、恭弥君。もしかして先生が、何も出来ない"お荷物"だと思っていませんか?」


 先生のドヤ顔がウザい。しかし俺の記憶では、先生の適性は"サポーター"であり、戦闘には直接貢献できないはずだ。


「あぁ、そうだ! 俺、武器を新調したから"カタナ"を交換したいんです」

「え? はい、それでは、先にギルドによって行きましょうか」


 俺たち召喚勇者は、ギルドから基本装備が支給されている。その中には当然武器も含まれており、ギルドに保管されている基本武器を2つまで借り、それを後からでも自由に交換できるのだ。


「あれ、もしかして私の見せ場、スルーされちゃった? もしも~し、恭弥く~ん、聞こえてますか~」


 今、俺は忍者刀を購入したので、腰には忍者刀を"差し"、カタナも"佩く"、なんとも中途半端な状態だ。知らない人にはどうでもいい問題だろうが、この世界には刀と太刀を区別して考える文化が無い。よって、カタナは"刀"ではなく、"太刀"の特徴も持っている。もちろん、厳密に言えばどちらも別物なのだが…………それはともかく、俺的にはこの世界のカタナは何ともムズ痒い存在で、忍者刀がある今、カタナを使い続ける意味は無い。


「こっちのナイフをもう少し小ぶりの解体用のやつに変更して、あと1つは、少し長めの重片刃短剣にしてもらえますか? できれば"オークソード"みたいなやつで」


 オークソードは、その名の通り魔物のオークが装備している分厚い鉄の片刃剣で、剣として重心が先端寄りで、斧としても使える構造になっている。日本人に馴染みのある名で言うなら"なた"だろう。


「それならオークソードをご用意します。貸出リストにはありませんが、確か倉庫に保管されていたはずです」

「それじゃあ、それでお願いします」


 オークソードは露店でもたまに見かけるが、ドロップ品は未加工状態であり、非常に質が悪い。よって、そのままでは使えないので、鍛冶師に頼んで仕立て直して貰う工程が必要となる。


「あの~、恭弥君、そろそろ私、泣いちゃうよ? これでもイイトコ見せられるって、張り切ってたんだよ?」

「あぁ先生、いたんですか。全然気づきませんでした」

「が~ん! いやいや、さっきまで普通にお話ししてたよね? イジメなの? クラスにイジメは無いと思っていたら、まさかイジメられていたのは私だった!?」

「いや、むしろ俺が…………いえ、何でもありません」


 イジメと言っていいのか微妙なラインだが、俺はクラスで無視されていたし、ちょっとした嫌がらせも受けていた。しかし、俺はそんな状況に不満は無かった。なぜなら俺にとっての"拷問"は、連中と仲良くする事だからだ。


 もちろん、連中の事は嫌いだが、だからと言って恨んではいない。これは紛れもない本心であり、今の様に距離さえ離れていれば、連中を『そういう人たちもいるよね』と割り切って見られる。結局、俺にとって連中は、どこまでも"他人"なのだ。


「うぅ~、恭弥君、今日はいつも以上にツレないね~。でも! 今日は恭弥君が先生に興味を持ってくれる、秘密道具があります!!」

「はぁ……」


 誇らしげに胸をはる先生。俺だって、先生が良い人で、先生の立場を抜きにしても、明るく振る舞い皆を支えようとしている事は理解できる。だからこそ、俺もあまり無下には出来ないし、嫌いにもなれない。


 あと、胸元を強調するのは、刺激が強いので止めてほしい。


「じゃじゃ~ん!」

「はぁ!? マジか!!」


 先生がバックパックから出した装備は"マスケット銃"の様な装備だった。この世界に銃は存在しないと思っていたので、これは流石に驚かされたし、先生が自慢げになるのも頷ける。


「フフ、これ、実は銃じゃないんだよ?」

「え? 違うんですか??」

「"マジックシューター"って言って、特定の魔法を射出するマジックアイテムなんだよ~」


 マジックアイテムとは、魔力を流すだけで特定の魔法が発動するアイテムだ。伝心の指輪などもこの分類に属する。


 言われてみれば確かに『マジックアイテムに攻撃魔法を組み込んではいけない』なんて道理は無いので、攻撃魔法に特化したマジックアイテムが存在するのも頷ける。まぁ、それだと微調整が出来ないデメリットが出てくるだろうが…………とりあえず『全種類購入したい』と思えるくらいには、興味深い代物だ。




 そんなこんなで、ひとまずギルドに寄り、装備を変更する運びとなった。

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