#012 初めてのPT狩り②

「おぉ~、これはいいですね。適度な重量感に、手に馴染む感じ。露店で見かけた時はちょっと不安に思っていましたけど、これなら長く使えそうだ」

「それは鍛冶師の手が加えられたものですからね。大切に使ってもらえれば、前の使用者も浮かばれます」


 浮かばれますって、つまりそういう事だよね?


 とは言え、借りたオークソードはグリップなども取り換えられており、確り修繕されているのがよく分かる。キャンプ地ここはダンジョン内だけあって、本格的な武器の修繕ができる"貸工房"なとも存在するので、余裕ができたら、メンテナンスについて本格的に学ぶのもイイかもしれない。


「ねぇねぇ、それでどこに行くの? 先生、頑張っちゃうよ!」


 ノリノリの先生。この人、グロいのは苦手な癖に、狩りに参加する事自体は好きなようだ。





 11Fで軽く肩慣らしをしたあと、ゴブリンを狩りに行く事となり、現在向かっているのは22F。つまり第三階層なわけで、ここからは『フザけていると当然の様に死ぬ』程度の難易度となる。


 因みに、フィールドは何処もそれなりに広いのだが、階を繋ぐゲートはそれなりに近い場所に出現するようで、階の移動はそれほど時間はかからない。ゲームの様に俯瞰でマップを見る事は無いので実感しにくいが、そういう所は螺旋構造故の特徴なのだろう。


「なるほど、クラスの連中はそんな方法で狩りをしてるんですか……。正直に言って"何か違うな"って思いますけど、まぁ、それはそれでアリなの、かな?」

「だよね~、確かに安全なんだけど、剣も杖も使わないって、違うよね~」

「まぁマジックシューターは、元々軍用兵器ですから」


 俺は移動しながら、効率が悪いことで有名なクラスメイトの"狩り方"を聞いていた。どうやら連中は、集団で行動し、マジックシューターの一斉掃射で近づかれる前に倒してしまう戦術をとっているようだ。ハッキリ言って俺の"美学"には反するが、考え方は軍隊的であり、安全確実な作戦と言えよう。


「しかし、そうなってくると指導員を雇ってクラスの足並みを乱す作戦は上手くいかないかもな」

「そうでもありませんよ? キョーヤさんの考えた作戦はギルドマスターも評価していました。確かにマジックシューターは、人数を火力にかえる安全確実な戦術ですが、一定以上の魔法抵抗を持つ魔物に対しては通用しません。ですから、行き詰まってしまうのは目に見えています」

「あぁ、それもそうか」


 雨垂れ岩を穿つ。小さな力でも続ければ固い岩でも貫通できる。それは確かにそうなのかもしれないが、それは相手が再生能力を持たない無機物に限った話だ。実際には、一定以下のダメージは防御力と自然回復に阻まれ"無効"になってしまう。


 たとえマジックシューターを百丁集めようが、千丁集めようが、上層の魔物には通用しない。そして何より、百丁集めたなら百倍の、千丁集めたなら千倍の"成果"が求められる。もちろん、そんな事は連中も理解しているだろう。そこは1番死にやすい序盤を安全に乗り越えるために、割り切って今のスタイルを選んでいるようだ。


 しかし何の皮肉か、ゲーマーの俺が地道に鍛練を続けているのに対し、一般人の連中の方が発想がゲーム的とは……。


「2人とも注意してください。そろそろゴブリンが出現するエリアです」


 そして到着したのは22F。ここは深い森のフィールドで、雑草は少なく歩きやすいかわりに、薄暗く見通しの悪いエリアとなる。


「あ、そういえば作戦を相談していませんでしたが、どうします?」

「あぁ、そのことですか。難しく考えなくても大丈夫ですよ。ゴブリンは"血の臭い"に敏感なので…………最初に1体倒したら、あとは木の上に陣取って、集まってきたゴブリンを魔法で倒すだけです」

「「……………………」」

「あれ? どうかしました??」

「その……」

「なんて言うか……」

「「思ってたのと違う」」

「え? えぇ??」


 思わず声がハモってしまった。


 言われてみれば確かに、ノルンさんの作戦は合理的であり、極めて現実的だ。むしろ、真面目に1体ずつ倒すつもりでいた俺がバカみたいに思えてしまう。


 しかしそれは、後衛職的には"アリ"なのだろうが、前衛の戦士としては承服出来ない。もちろん、最終的にはアリだが…………そんなズルを育成段階から続けていては、そのツケを後々に払う事になる。


「とりあえず、ゴブリン数体なら俺1人でなんとかなるので、2人は木の上で待機していてください。俺も、適当なところで登りますから」

「えぇ~、ズルい! 私も普通に戦いたいよ~」

「戦えるんですか?」

「そこはほら、3人で力を合わせてってことで」

「「…………………」」




 そんなこんなで、とりあえず様子見で"普通に"戦ってみる事になった。

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