#013 初めてのPT狩り③

「来ましたね。……3体ですか」

「え!? 大丈夫なの??」


 早速ゴブリンがあらわれた。基本的にゴブリンは猪突猛進の脳筋バカだが、それでも多少の知恵はあるらしく、所々で作戦と言うほどでも無いが、小賢しい動きを見せてくる。今で言えば、木の陰に身を隠し、仕掛けるタイミングを伺っている。


 2人には木の上で待機してもらっているが、これなら俺1人で対処できるだろう。


「まぁ、これなら」

「危なくなったら加勢しますので、無理はしないでください」

「善処します」


 ゴブリンは、上位種や統率個体などの派生種族が多く、知能や戦闘力はそれぞれ大きな開きがある。しかし、隠れている3体はノーマル個体であり『気づかれている事にすら、気づいていない』様子だ。


 とりあえず、軽く背中を見せて無警戒アピールをしておく。


『動き出しました!』

『了解です』


 気を利かし、ノルンさんが<念話>で状況を伝えてくれる。足音を聞けば分かる事ではあるが、ここは素直に返しておく。


 ガザガザと、ゴブリンが積もった木の葉を踏みしめながら迫ってくる。俺はその姿を視界端でとらえるが、直視はしない。これは相手を警戒させないため…………ではなく、複数体を相手取って戦うために俺が導き出した"答え"だ。


 "1対多"の戦いにおいて、目の前の1体に集中するのは命取り。真に優先すべきは、倒す事では無く、死なない事。よって『接近してくる相手の位置を把握し続ける』事を最優先に考える。


 1体は、少し出遅れているな。最初の一体は、迷わずコチラに……。


「そこっ!!」


 飛びかかってきた最初の一体に、軽く後ろに跳びながら忍者刀の一閃をお見舞いする。手ごたえは浅いが、出血しているなら上等。これで充分だ。


 僅かに遅れて飛びかかってくる1体は、足狙い。本能なのか、魔物は種族によって狙う場所は大体決まっている。


 飛びついてきた1体を、そのまま踏みつける。グエっとカエルの様な声がするが、骨が折れる感触は無い。しかし、足の下に存在しているなら…………小柄で非力なゴブリンの骨や臓器を潰すのは容易い事。


 捻りを加えながら足に体重を乗せ、足蹴にしていたゴブリンの内臓を破壊する。


「まずは1体。……続いて2体目」


 出遅れていたゴブリンが飛びかかってきたので、そのまま喉を刺し貫いた。


「おいおい、逃げるのか? まぁ、無駄なんだけどね。3た…………っ!!?」


 残った1体に覚えたての魔法<サンダーバレット>を披露しようとした瞬間、突然急接近する気配を察知して、反射的にソチラに速射魔法を放つ。


「あぁ、"ブラッディフライ"か」


 突然飛来してきたのは、赤い羽虫の魔物、ブラッディフライだ。コイツはゴブリン同様、血の匂いに敏感で、負傷した相手を上空から組みつき、そのまま吸血攻撃で体力を奪い尽くしてしまう。基本的には打たれ弱いので、接近を察知できれば容易い相手だが…………突然、上空から襲い掛かる虫の気配は、なかなか気づけるものでは無い。




「お疲れ様です。やはり、キョーヤさんの実力は、すでに……」

「すごいすごい! 恭弥君、やっぱり強かったんじゃない!!」

「いや、そこまでは……」


 戦いが終わり、早速2人から称賛を受ける。しかし自分的には、改善点の多い戦いであり、それを褒められるのは釈然としないものがある。やはり、俺の基礎は、まだまだ"不充分"のようだ。


「それより、おめでとうございます! "魔結晶"ですよ!!」

「あぁ、コレがそうなんですか。初めて見ました」


 それはさて置き、ブラッディフライを解体したところ、見慣れない魔石を見つけた。これは魔結晶と呼ばれる特殊な魔石で、魔石は魔物の魔力が結晶化したものなのに対し、魔結晶は魔物の"能力"が結晶化したものとなる。


 魔結晶は、元の魔物の特性を引き継いでおり、装備の強化素材として組み込めばその魔物に関した能力を付与できる。つまるところ"エンチャント素材"だ。性能こそ本家には劣るものの、基本的にはマジックアイテムの様に決まった特性を半永久的に付与してくれる。よって、希少性もあり高値で取引される。


「えっと、ブラッディフライの魔結晶って、どんな効果なんですか?」

「えっと確か…………血を吸収することで一時的に性能が向上する、だったと思います」


 魔結晶は非常に希少なもので、ドロップするのは1万体に1つと言われている。よって、有用なものは億単位で取引されているそうだ。


「それで、幾らくらいなんですか?」

「魔結晶は基本的にオークションで取引されるので、確実な事は言えませんが……」

「「…………」」

「たしか…………百万くらいだと思います」

「……やったね」

「はい、やりました」


 たっぷり間を置いて喜びを分かち合う。魔物は確かに人を襲う"宿敵"だが、同時に魔力の宿った特別なアイテムを落とす"資源"でもある。だから国やギルドは、決して魔物を駆逐しようとはしない。


「それで恭弥君はどうするの? オークションに出す? それとも、使っちゃう??」

「むしろ、俺の取り分でいいんですか?」

「え? 恭弥君が1人で戦ったんだし、イイんじゃないかな?」

「はい、私も構いません」


 一応、パーティーで行動している時に拾ったものなので俺的には"山分け"が妥当だと思うのだが…………そのあたりのルールはギルドも定めておらず、個々の判断に任せる方針のようだ。


「えっと、現金化するには、それなりに時間がかかるんですよね?」

「そうなりますね。キョーヤさんは何か欲しいものでもあるんですか?」

「えぇ。実は奴隷を買おうと思っています」

「え? えぇぇぇぇぇ~~!??」




 こんな状況で集中できるはずもなく、この後は早々に狩りを切り上げ、キャンプ地でレアアイテムの扱いについて指導を受ける流れとなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る