#014 イリーナ①
「それじゃあ、これからヨロシク頼むよ」
「……はい」
イリーナと2人で奴隷ギルドを後にする。
あれからブラッディフライの魔結晶は、オークションを通さず鍛冶ギルドに60万で売却した。つまり40万も損をしている訳だ。しかし、オークションを通しても100万で売れる保証はないし、手数料だってとられる。そして何より、現金化できるまでそれなりに待たされる事になる。それなら、即金で60万を貰い、残りを今後何かと付き合いが増える鍛冶ギルドに"貸"としてプールしておく事にした。
因みに、ノルンさんと先生には取り分として10万ずつ渡した。正直なところ、後腐れなく山分けで済ませたかったが、流石にそれだとイリーナの購入が先送りになってしまう。散々迷ったが、やはり俺は"ロマン"の誘惑には逆らえない様だ。
「取りあえず冒険者ギルドで"サポーター"登録をして貰うが、その前に露店に寄って行こう」
本来、冒険者のパーティーとして登録できるのは冒険者のみとなる。しかしイリーナは奴隷であり、奴隷は冒険者にはなれないそうだ。そのあたりは難しい大人の事情が絡んでくるので説明を割愛させて貰うが…………そんな訳で、イリーナは臨時の協力者の枠で雇用する事にした。
「私はご主人様の奴隷なので、その都度確認をとる必要はありません」
「ストイックだな。しかし、いつまでも"そんな"格好は嫌だろう?」
イリーナの服装は、小汚いワンピースと首輪のみ。着替えや生活用品など、揃えるものは山ほどあるが…………まずは靴と上着だろう。
「首輪は、奴隷の義務であり、身を守る盾でもあります」
「奴隷商に、教えるよう言われたか?」
「はい」
俺が言いたいのは
「忠告は感謝するが、俺が言いたいのは服装の方だ」
「荷物持ちと聞いていましたが……剣を支給してもらえるのでしょうか?」
「なんでやねん!」
「はい??」
思わずツッコミを入れてしまった。どうにもイリーナは、自分に劣等感を抱くどころか、奴隷として意識が高すぎる。どっかのバカと違って化粧だの余暇だの言わないのは有難いが、流石の俺もガチっぷりが心配になるレベルだ。
「いや、なんだ…………これでも俺は勇者でな、いくら奴隷と言っても、隣に立つのに相応しい身なりをしてもらわないと困る。って事で! 今後は、身なりや衛生管理には気を遣うように!!」
「なるほど、善処します」
とっさにイリーナが納得してくれそうな言い回しを選んでしまった。俺的には、普通にパートナーとして"対等の関係"でありたいのだが…………正直に言って説得するのが面倒くさくなった。
*
「その、申し訳ありません。本来ならば、ご主人様のお下がりや中古品で済ませるべきところを」
「性別も体格も違うんだ。それに、新品と言っても大したモノでもないから、いちいち畏まる必要は無い」
早速、露店で安価な装備一式を揃えていく。
「でしたらその、私は小柄ですが"力"には自信があります。ですので、バックパックなどは構わず大型のものでお願いします」
「あぁ、イリーナもやっぱりソッチ系の考えなんだな」
「はい?」
・追加装備(イリーナ)
武器:オークソード(中型重片刃剣)
防具:旅人の服・革の胸当て・革のグローブ・革のブーツ・旅人の外装
付属:伝心の指輪・奴隷の首輪・バックパック(小)・折り畳みカート
折り畳みカート:小型の台車。積載量は少ないが背負う事も可能。
あとは下着や生理用品なども買わなければいけないのだろうが…………そっちはハードルが高いので、あとで先生にでも頼む予定だ。
「武器は合う合わないがあるから、とりあえず今は俺のを貸しておく。
「その、武器は良いのですが、
身軽さ重視の装備が気に入らないのか、イリーナは腑に落ちない様子。まぁそれも"常識"から考えれば仕方の無い事だろう。本来、雇われサポーターは荷物持ちや肉壁の二択。この装備では、どちらの仕事も充分に果たせないだろう。
「まだ言っているのか? いくら積載量があっても、移動の邪魔になると儲けは伸びない」
「それはそうなのですが…………その為の奴隷なのですから」
「まぁなんだ。安物の装備は後からでも変更できる。とりあえず今は、その装備で"検証"するって事で頼む」
「分かりました。それでしたら、私も働きで証明してみせます」
言っていいものなのか悩んでいたが、折角なので1つだけ聞いておく。ハグらかされるかもしれないが、まぁ、それならそれでいい。
「イリーナ」
「はい?」
「お前は何で冒険者を志したんだ? お前の"主人"として聞く」
「それは…………その、魔物に、恨みがあるからです」
「そうか。まぁ、それならそれでいいや」
豪快にイリーナの頭を撫でてやる。親と左腕を食いちぎった魔物を恨み、冒険者を目指すのは一見スジが通っている様に思える。しかし、そこには矛盾が存在する。それが無自覚なのか、それとも言えないのかは知らないが…………残念ながら俺は、他人のプライベートに首を突っ込むほどお人好しでも無ければ、無粋な性格でもない。
「ちょ、なんですか?」
「よし! 次はギルドだ。登録したら直ぐにダンジョンに潜るぞ! ウチは最凶にブラックだからな。どちらが先に音を上げるか、勝負だ!!」
「え? あ、はい! お供します!!」
こうして、意識高い系奴隷のイリーナとの共同生活が始まった。
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