#058 時給計算
「因みに恭弥君から見て、私ってどんなスタイルがイイと思う?」
「そうですね、先生の場合だったら…………まずは基礎体力を鍛えながら、治療魔法を習得して、そこから盾持ちのタンクヒーラーを目指すのがイイんじゃないですか?」
先生を連れて、やってきたのは27F。ここはワームや、モグラの魔物"モール"が出現する洞窟エリアとなっている。
「でも私、魔法の適性は……」
「別に適性が無くても、数をこなせば一応は覚えられます。もちろん効果はあまり期待できませんが、それでも回復魔法なら軽傷の回復に使えますから。普段は盾で自分やカートを守って……。……」
小説やアニメの集団転移だと、都合よく前衛と後衛にバランスよく適性者が分かれるところだが、残念ながら現実では『召喚者の思想が優先される』ようで、科学の発展した地球から来た俺たちの中に"高い魔法適正"を持つ者はいなかった。
「なるほどね。今度ジックリ考えてみるわ」
毎回では無いが、あれから先生もダンジョン攻略に参加するようになった。先生本人は戦闘向きでは無いが、ギフトはサポートに特化しており、中々便利なので…………自分の身は自分で守れる難易度までなら、連れていくことはプラスになる。
「ご主人様、足元がヌカるんでいるので注意してください」
「あぁ。しかし、すごい湿気だな」
27Fは、所々に地底湖のような場所が点在しており、上の階層に行くほど水の量が増していく。
「そう言えばココのボスって、"モールキング"だっよね? 大丈夫かな、こんな狭い場所で」
「まぁ、木製装備なら何とかなりますよ。最悪、皆で池に飛び込めば死にはしません」
「うぅ、ここの水、滅茶苦茶冷たいんですけど?」
「"即死"は、しませんよ」
「不安になるから、言い換えないでくれる」
モールの爪には"無機物特攻"が付与されており、石や金属を簡単に切り裂いてくる危険な魔物だ。しかし危険な部分はそこだけで、木製防具や先手必勝を決めている限りは倒しやすい魔物でもある。
また、水を苦手としており、最悪『池に突き落とす』方法でも倒せてしまう。モールはお隣の26Fにも出現するが、あっちは水場が無いので安全第一で今回は27Fを選んだ。
「来ました! ルビー!!」
「おう!」
慣れたもので、早速出現したモールをイリーナとルビーが仕留めていく。
先手必勝のルビーは相性が良く、イリーナとしても防具の消耗を気にしなければ倒しやすい相手だ。そのため、今回は普段装備している金属製の盾では無く、消耗に合わせて取り換えが出来る木製盾を用意してきた。
「不思議よね。鉄の盾は切り裂けるのに、木の盾は無理なんて」
「属性と言うか、"概念"として魔力が作用しているんでしょうね」
因みに、先生はカート担当。俺は解体担当となる。スキルの<解体>は魔力を消費するのだが、先生のギフトの効果で魔力供給が受けられるので、カートが満タンになるまで狩りを続けられる。
まぁ、効率はイイのだが、正直に言って戦闘を見ているだけも詰まらないので、毎回このスタイルは遠慮したいところだ。
「へ~、これがモールの爪なんだ。何と言うか、見た目は普通だよね」
「結局、"爪"ですからね」
金属を切り裂く爪。言葉だけ見れば高く売れそうだが、実のところ取引価格はあまり高くない。その理由は簡単で、武器に加工するには小さく、金属と違って溶かして整形しなおすことも出来ないからだ。
よって用途は、金属を加工する職人向けの工具などに限定されるため、供給過多になり安価での買取になってしまう。
「やっぱり、ここはキングに出てきてもらわないとね~」
「そういうフラグチックな事、言わないでもらえます?」
「いや~、言っていたら、出てくれるんじゃないかなっと」
相変わらず、戦闘は苦手なくせに怖いもの知らずな先生。
モールのボスであるモールキングは、"モールの大爪"をドロップする。これは短剣として使えるサイズであり、高価で取引されている。まぁそれでも爪なので、金属の短剣と違って消耗が激しい事から実戦向きでは無く、要人の護身用装備として扱われているそうだ。
「恭弥君って、そういうとこ、ホント安全第一だよね。もう、何体もボスを倒しているんだよね?」
「まぁ、低い階層なら」
流石に毎日通っていたので、放置されていた下層のボスは何度か倒している。基本的にボスは、他の魔物とは比べ物にならないくらいには強いのだが、平均レベルが低い下層ならたかが知れている。体感では『体力マシマシの三階層上のザコと同等』程度だろうか。よって、モールキングは57F相当の強さとなる。
「でも、倒せたら100万くらいにはなるんでしょ?」
「売価だけ見れば、ですけどね」
MMORPGでボス狩りを経験すると分かるのだが、半端なボスの金銭効率は驚くほど悪い。もちろん、ドロップの取引価格だけ見れば"なかなか"だが…………戦うための準備や、消耗品、レアアイテムをさばく際の時間的ロス。それらを総合して考えると、効率よくザコを狩っていた方が儲かるのだ。
俺はなまじその手の計算が出来るせいで、どうにも相手を"時給"で判断する癖が出来てしまった。
「ご主人様、目標数になりましたけど……」
「ボス~。ハラ減ったぞ!」
「それじゃあ、そこの池でちょっと休憩するか」
あと、時給とは別に、資源の乱獲はしない。魔物はダンジョンがくれた"恵"であり、余剰分のみを収穫していく。今回で言えば、鍛冶師ギルドからの依頼分と、自分用に無機物特攻のナックルを作ってもらう分だけに止める。
それと、逆に増えすぎた魔物は稼ぎに繋がらなくても倒しておく。その辺は冒険者ギルドが追加報酬を出してくれるのだが…………俺は冒険者の生活が気に入ってるので、極力、環境を意識して狩りをしていきたいと思っている。
そんなこんなで今日も、俺たちは普通に狩りをして、普通にソコソコの儲けをあげた。
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