#057 ローゼンルシア②

「えぇ、まぁ。毎回ってわけじゃないですけど、素材を傷めないよう、素手で狩る事は多いですね」


 ロゼさんをパーティーに加え、下層を見て回る。


 試験と言うほどでも無いが、今回は実習の下見だけでなく、ガイドとしての適正も問われる。別に、親切丁寧に生徒に教える訳では無いが、もし生徒がやらかしそうになった時『ギリギリのところで止める』必要がある。


「なるほどね、私も、今度やってみようかな?」

「え? いや、冗談ですよね??」

「フフフ、どうだろうね」

「「…………」」


 嫌いじゃないけど、本当にロゼさんは掴みどころがない。


「そう言えば、キョーヤ君は全ての初級魔法が使えるんだってね?」

「全てって言っていいのか、一般的なものは全て習得しましたけど、威力は……」


 聞けば、ロゼさんは火精霊サラマンダーの血が流れており、火属性魔法のエキスパートなんだとか。先ほどトレント相手に魔法を見せて貰ったのだが…………『今のは〇ラゾーマではない。〇ラだ』って感じのフザけた威力だった。代わりに水絡みの魔法は全く使えないそうだが、ココまでいけば、そんな欠点は些細なものだ。


「卑下する事は無いよ。実戦で威力はそこまで重要ではない。それよりも求められるのは、対応力や継戦能力だ。それにキミは分かっていない様だが、初級魔法だって本来は簡単に覚えられるものでは無い。充分、誇れる事なんだよ」


 実際そうらしい。俺は器用貧乏型ではあるが、それでも転移特典として全体的にステータスにボーナスが乗っている。魔法は本来、先天的な適性が重要なので、ルビーのように使えないのが当たり前なのだとか。


「そう言ってもらえると、助かります」

「フフ、不満そうだね。勇者としての補正に頼らず、自力で習得したかったって顔を、しているよ」

「それは、そうかもしれませんね。でもまぁ、便利なんで今更手放せませんけど」


 俺のギフトは、直接戦闘には役立たないハズレスキルだ。しかし、ギフトはその人に起因する能力が覚醒するもので、俺の"生き様"に合っているので捨てられないし、嫌いにもなれない。


「そういう考え方、嫌いじゃないよ」


 ロゼさんも、言ってしまえばチートじみた"火属性適性"を持っている。もしかしたら、魔法使い以外の道や、属性の相性から断念した魔法や実験があるのかもしれない。それでも結局、適性や"性分"は変えられない。


「まぁ、俺は今の生活が気に入っているので、スキルの事も含めて、今の調子でやっていくつもりです」

「それがいい。……そうだ、折角だから、"軍用魔法"を教えてあげよう」

「え? 是非!!」


 一般に普及していないスキルを学ぶ機会は限られる。特に軍用ともなれば、危険なスメルが男心を刺激してやまない。



・追加スキル

グローライト:光魔法<ライティング>の軍用アレンジ。周囲を弱い明かりで照らし出す。眩しくないので戦闘の邪魔にならず、魔力消費も少ない。


ショックウェーブ:風魔法<ウインドボール>の軍用アレンジ。火力は非常に低いが、少ない魔力消費で広範囲を攻撃できる。相手を挑発する際や、精神攻撃を受けた味方に"気付け"目的で使用できる。



「このように、軍用魔法は魔力消費を抑えて、効果範囲を広げたり、発動時間を短縮したりするものが多い」

「勉強になります。俺はてっきり、殺傷力に特化しているものだと思っていました」


 アニメの見過ぎだろう。魔物と命のやり取りをする術が、軍用になったからと言って簡単に威力があがったら世話はない。実際には逆。魔物相手なら単純な"威力"が重要で、対人なら汎用性や奇襲性が重要になる。


「フフッ、期待させてしまったかな?」

「そういう訳では」

「まぁ、物理攻撃スキルアーツに関しては、軍用はそんな感じだけどね」

「あぁ、そうでしょうね」

「まぁなんだ。対人アーツを学びたいならニーラレイバを頼るといい」

「え? ニラレバ様が??」


 何となくだが、ニラレバ丼の呼び方に"親しみ"を感じる。ゴルドフさんもそうだったが、多分何かしらの繋がりがあるのだろう。


「フフッ。アイツはそんなに動けないよ。そっちじゃなくて、アイツには家から貸し与えられた凄腕の"メイド"がいるんだ。対価として何を要求されるかは分からないけど、本格的な戦闘術を学びたいなら、彼女が1番だと思うよ」

「それってもしかして、ルリエスさんの事ですか?」

「名前までは知らないけど…………キミが"絶対に勝てない"と思うなら、その人で正解だ」

「あぁ、じゃあ、正解ですね」


 完全に納得してしまった。多分ルリエスさんの正式なジョブは暗殺者アサシンだ。アサシンは、名前からして人殺しを生業にしているように思えるが、実際には諜報や要人警護がメインで、一般人は関わる事のない特殊なジョブとなる。


「でも、それって俺に話しちゃってよかったんですか?」

「フフ、もし殺されそうになったら、私の名前は、出さないでくれよ」

「いや、絶対に、出させてもらいますからね」

「フフフフ」


 ほんと、ニラレバ丼といい、ゴルドフさんといい、3人は掴みどころが無い。因みに…………こんな事を言っているが、ロゼさんは口添えをしてくれたようで、今後は、ルリエスさんの指導も受けられるようになった。




 そんなこんなで、なんと言ったらいいのか分からないが…………とりあえず実習の件は、前向きに協議する事となった。

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