#056 ローゼンルシア①
「あ、キョーヤさん、丁度良かった。"魔法学園"の方が来ていて」
先生とのやり取りを終えてギルドに顔をだすと、そこにはとんがり帽子に…………胸元を大胆に開いた漆黒のドレスローブを身にまとう妖艶な魔法使いの姿。どこからどう見ても、高位の魔術師って感じだ。
余談だが、冒険者は生傷が絶えない職業であり、肉弾戦が出来ない純粋な魔法使いは殆ど居ない。大抵はノルンさんのように近接戦も出来る装備を選ぶ。なにせ、ゲームと違って死んだら、マジで終わりなのだから。
「お初にお目にかかります。ご存知かとは思いますが、自分は召喚勇者の一人、恭弥です。以後、お見知りおきを」
相手が貴族かどうかは知らないが、こう言うのはとりあえずヘリ下っておくのが最適解だ。日本人的な考えに、少しだけ嫌になるが…………高圧的な態度をとって気に入られるのは『主人公だけに許された特権』なのだから。
「あぁ、確かに爵位はあるけど、一般人みたいなものだから……。私の名前は"ローゼンルシア"。長いからロゼでお願い。魔法学園のナンチャッテ講師をしている」
脳に直接響くようなウィスパーボイス。何と言うか、ベールさんがアニメ系の魔王様なら、こっちはゲームに出てくる魔女のラスボス感がある。
それはさて置き、貴族と言ってもピンキリだが、口ぶりから察するに『一般人だったのが功績が認められて限定的な特権を得た』感じのパターンだろう。家名も名乗っていない事から、敬称は"さん"で問題ないはずだ。
「それでは、ロゼさん、本日はどのようなご用向きで」
「別に呼び捨てでも構わないのだが…………今度、
話を聞けば、どうやらロゼさんは魔法使いギルドの所属ながら、魔法学園の講師も務めているそうだ。
そして『対魔物戦闘』を受講した生徒に対し、実習訓練として数日間、冒険者の生活を体験させる。そして数ある実習場に、ユグドラシルも含まれているそうだ。
「なるほど、魔法学園ですか。出来る事なら、自分も講義に参加してみたいですね」
「フフ、そんなイイものではないさ」
「はぁ……」
「魔法学園と言っても、授業のほとんどは魔法と関係のない、歴史や理論の証明ばかり、文官でも目指して居ない限り、講義を受ける意味は感じないね」
「それ、講師が言っていいセリフですか?」
「フフッ、私はあくまで、実戦担当だから」
つまり、戦闘魔法が専門って事だ。それこそ、人を殺した経験だって……。
「なるほど、それで、具体的には……」
「おっといけない、用件は2つあってね。……。……」
①、
「ん~、不可能ではないですが、流石に即答は出来ないですね」
「もちろんそれなりの報酬は払わせてもらうが…………そこまで心配する事は無いから、安心してくれ」
「そうなんですか?」
「フフ、なにせ彼らは、
話を聞けば、どうやら教員や医療関係の"教育実習"に近い内容のようだ。冒険者にならなくとも、魔物と戦えると言う"認定書"が貰えるそうで、それが就職に必要なんだとか。
あと、人数は片手で数えられる人数のようだ。実際にはもっと居るのだが、候補地に分散して生徒を配置していく形になる。
「わかりました。それでは1度ウチに下見に来てもらうって事で」
「あぁ、助かるよ。あともう1つ。当日、……。……」
②、当日のガイド。生徒は魔法使いであり、素人だ。ダンジョンを案内できる前衛が必要であり、主に"案内"目的での雇用となる。
希望者次第で変化するが、3~6人の生徒が来るそうで、学園側も護衛を用意する形で、生徒・護衛・案内の3人でパーティーを組んで行動する。1つ面白いのは、リーダーは素人である生徒が担当する所だろう。
「それは構いませんが、自分はまだ…………あ、そうか。下層なら」
ぶっちゃけ、下層に関しては誰よりも詳しい自負がある。なにせ既存のベテラン冒険者は、ほぼ全員が中層で活動しているからだ。
「フフ、そういうこと。それと…………すまないけど"ハンドレットマスター"の実力を、確認させてもらいたい」
「なんですか、そのハンドレットマスターって」
「ん? 知らないのかい? ギルドでの、キミの"通り名"だよ」
「えぇ……」
思わぬところで二つ名がついていた。どうも、魔法使いは中二病的な俗称で呼び合う風習があるようだ。
俺もそういうノリは嫌いじゃないが…………上級スキルが使えない俺につけるには、ちょっと詐欺みたいで申し訳ない。
そんなこんなで俺は、ロゼさんに下層を案内する事となった。
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