#059 忍者
「それでは、アサシンの派生職、"忍者"のスキルを伝授します」
「はい、師匠!」
今日は、待ちに待ったルリエスさんの指導を受けられる日。因みにイリーナには、ルビーと先生を連れて下層を廻って貰っている。これは魔法学園の生徒を受け入れる準備であり、改めてマップや出現する魔物のオサライを頼んだ。
「あの、キョーヤ様、その師匠というのは……」
「それは技を教えて貰うんですから、師匠では?」
因みに、ルリエスさんのジョブは忍者だった。もちろん日本の忍者とは少し違うが、一番近い言葉に置きかえた結果が忍者であり、どうも海外の一部の地域で習得できる"特殊職"なんだとか。
「そ、そうかもしれませんが、キョーヤ様は勇者ですので、その……」
「俺も師に様付けで呼ばれるのは抵抗があります」
「…………」
「…………」
「「…………」」
「こほん。それではキョーヤさんとお呼びしますので……」
「はい、お願いします。ルリエス=サン」
「えっと、それでですね、私はその、あまり人にモノを教えるのは得意ではないので…………実際に見せるので、勝手に理解してください」
「え、あ、はい!」
ふっ、とルリエスさんの輪郭がぼやける感じがして、反射的に目をこする。
「コレはスカウト系スキルの<気配遮断>です。コレだけだと、ちょっと発見を遅らせるだけですが……」
もうすでに俺の知っている<気配遮断>よりもスキルレベルが違うのだが、それはさて置き、続いて取り出した"マント"を羽織ると……。
「お、おぉ? 透けて見えると言うか、視点が合わせにくくなりました」
「忍者のスキルは、道具や自然にあるものを活用するのが特徴になります」
そう言ってスキルを解除するルリエスさん。手にしたマントは、なんて事の無い緑色のマントだった。一応、場所が草むらなので保護色にはなっているが、だからと言って緑色の布をかぶった相手を肉眼で見逃すことは、本来ならあり得ない。
「なるほど、相乗効果ですか」
「えっと、そんな感じです」
人は様々な情報から、総合的に判断して対象を認識する。忍者スキルは『道具や環境を利用してスキルの効果を高める』事に重きを置いた流派のようだ。
「因みに
「おぉ、いいですね!」
カモフラージュマント。カメレオンの魔物の皮を用いたマント。しかし色が変わるだけで隠蔽効果は低く、本来は立体感ですぐにバレてしまうネタ装備。残念ながらユグドラシルには生息していない。
「これが<隠れ身>と言う、忍者の初歩スキルです。他には……」
・追加スキル
隠れ身:周囲と同化して姿を隠す隠蔽スキル。身を隠すアイテムが別途必要。
畳返し:薄い<ストーンウォール>を瞬時に出現させ、攻撃から身を守る防御スキル。貫通力の低い遠距離攻撃を防ぐほか、姿を隠すのにも使える。
山彦:声や物音を魔力で変化させる特殊スキル。隠密行動だけでなく、魔物の声マネにも応用できる。
仮死:死んだふり。冗談みたいなスキルだが、死体に紛れたり、生者に反応する魔物の回避に使用したりと使いどころは様々。
ほかにも10個ほど見せて貰ったが、これ以上は俺の理解と記憶が追い付かなかった。
「あ、あの~、今日はこのへんにしませんか?」
不本意ながら音を上げてしまう。何と言うか、ルリエスさんの教え方は"怒涛"って感じだ。
「そう言えば、イイ時間ですね。それでは、次回までに教えたことを"全て"習得しておいてください」
「無理です」
「無理ですか?」
「無理です」
普通この手の特訓は、『よく分からない訓練を強制されて、技は教えてもらえない。でも、実はその訓練が……』みたいなノリを想像してしまうが、ルリエスさんの場合は"真逆"。とにかく原理の説明や実演を見せて、あとは『自分で努力して実現してください』って感じの、投げっぱなしスタイルになる。
「そう言えば……」
「そう言えば?」
「何を教えたんでしたっけ?」
「覚えてないんかい!」
思いつくままにスキルを実演しただけなので、それは忘れもする。
「それでは最初から……」
「いや、それは勘弁してください」
「……そうでした」
「何と言うか……」
「??」
「ルリエスさんって、意外にオチャメですよね」
「…………」
無言で頬を赤らめるルリエスさん。最初の印象こそ、冷徹で機械的な人かと思ったが、実際には不器用で結構可愛い人だった。
あと関係ないが、メイド姿で忍者ってのはやっぱり違和感がある。どうせなら、ピッチリとしたボディースーツを着せて、対魔物忍者って感じにコーディネートしたい。
「えっと、可能な限り頑張るので、また、指導をお願いします」
「こほん。そうですね、コチラこそ、よろしくお願いします」
<五輪>だったか? 感情を制御するスキルを発動させたのか、ルリエスさんの表情は普段通りの無表情を取り戻す。
結局その日は『今度はどんな手でルリエスさんの<五輪>を崩すか』で頭がいっぱいになってしまった。
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