#024 シルキー

「よし、これなら充分"剣士"を名乗れるだろう」

「ありがとうございます!」


 俺は冒険者ギルドで、グスタフさんと手合わせして"剣士"の称号を得た。これは冒険者として『一定以上の剣技を習得している事を証明する』ものであり、一部のクエストの受注条件となっている。


 本来、剣術は戦士ギルドの管轄であるものの、残念ながらダンジョン内に支店は無く、召喚勇者はダンジョン外へ出る事を許されていない。よって、自力で剣技を習得して、資格を持つグスタフさんに認定だけしてもらった形だ。


「そうだ、折角なので1つアドバイスをしておこう。スキルは発動の前後に僅かな"隙"が生まれる。キミはスキルを過剰に多用する傾向があるから、その隙には注意するように」

「はい、ありがとうございます!」


 関係ないが、試験は小説のように『試験官を倒せたら合格』みたいな力任せな内容では無い。剣士の試験なら、剣技を問われるので、たとえ幾ら強くても剣"技"が出来ていなければ不合格となる。


 また、イキって"力"をひけらかすのも減点対象だ。可もなく不可も無く、粛々と技能を示し、信頼と実力を証明する事が何よりも重要なのだ。そうでなければ、実力を保証しているギルドの顔に泥を塗ってしまう。





「ご主人様、お疲れ様です。ちょうど今、鍛冶師ギルドの方が来ていて……」


 試験を終え、ギルドのロビーに戻ると、イリーナの隣に銀髪の少女が"白い包"を抱えて佇んでいた。


「あぁ、注文していた装備ですか? すいません、わざわざ」

「丁度用事があったので、お構いなく」


・追加装備

武器:ウォーハンマー(改)。戦闘用の槌。ヘッドは比較的軽量で、警棒の先にハンマーヘッドを取り付けたような形状になっている。携帯性に優れ、攻撃力が低下しにくい。


 あと、この子は先ほどからイリーナばかりを見ている。体格も似ており、何より耳が尖っている。これは精霊種を象徴する特徴であり、僅かにドワーフの血が入っているイリーナに何か感じるものがあるのだろう。


「おぉ、流石はベルンドさん。適度な重量感とバランス、それにグリップも手に馴染む」

「それで、この方がベルンド様の娘の"シルキー"様で……」

「シルキーでいい」


 ベルンドさんとは、俺が装備を注文している鍛冶師の名だ。それなりに名の通った鍛冶師らしく、娘もギルド員として働いている事は聞いていた。シルキーさんは、見た目こそ"少女"だが年齢は多分年上なのだろう。


「ですが私は奴隷ですので」

「シルキーでいい」

「流石に呼び捨ては……」

「シルキーでいい」


 圧倒的、同調圧。見た目に反してグイグイくる。いや、それだけイリーナに"感じるもの"があるのだろう。ここはご主人様として、助け舟を出さなくては。


「それじゃあ、間を取って"お姉ちゃん"と呼ぶのはどうだろう?」

「どこの"間"をとったら、そうなるのですか!」

「問題ない。それで」

「ですが……」

「それで」


 まぁシルキーさんは幼く見えるので、お姉さん風を吹かせたいだけかもしれないが。


「ご主人様……」

「いいんじゃないか? 何となく同じ気配を感じるし"同胞のよしみ"って事で、親しくしておけ」


 これでは美穂の事をとやかく言えないが、俺が知る限り(エルフ系はそこそこ見かけるが)ドワーフ系種族はユグドラシルここでは他に見ない。精霊系種族は魔物ほどではないにせよ環境の影響を受けやすい種族らしく、もしもの時の為にも親しくしておいて損は無いだろう。


 あと、鍛冶師のコネも、あって損は無い。


「それでは、その…………お姉様で、お願いします」

「最高」


 俺的には"尊い"って感じなので、ここは空気を読んで極力間に割って入らないようにする。俺は、そっちの作法も心得ている男だ。


「それで、シルキー様は……」

「お姉ちゃん」

「シルキーお姉様は、新しく出来る"道具屋アイテムショップ"のオーナーとなるそうです」

「あぁ、貸工房の隣の」


 話を聞けば、どうやら店頭に立つのは他のギルド員らしく、シルキーさんは『ベルンドさんの代理』であり、オーナー兼エリアマネージャーみたいな役職のようだ。


「今までは、冒険者ギルド経由で注文していましたが、今度からは道具屋そこでお願いできるそうです」


 貸工房は、鍛冶師ギルドの管轄施設ではあるが、貸しと言うだけあって鍛冶師不在のレンタルスペースだ。そこに正規の職人が在中するようになるのは、俺としても得るものがある。


「特殊なマジックアイテムも取り扱うので、ご贔屓に」

「それは助かります。あ、そうだ!」

「「??」」

「引っ越しなどで何かと大変でしょう。なぁ、イリーナ!」


 ポンと、イリーナの肩に手をそえる。


「……はい?」

「そう、大変」


 ポンと、シルキーさんがイリーナの空いた肩に手をそえる。


「えっと…………お手伝いしましょう、か?」

「大歓迎」

「それでは、イリーナをお任せします」

「え? 私だけですか??」

「私だけです。大丈夫、俺は理解のある男だから!」

「大丈夫。お姉ちゃんに全て任せて」

「え? えぇ??」




 こうして俺は、華やかな気持ちでイリーナをみおくった。

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