#025 立花②
「なんでじゃーー!!」
俺はハートフルな気分で
「イリーナを預けておいて正解だったな」
価値のあるものは置いていないので、損害は干し草や物干しが破壊された程度。これならすぐに直せるし、わざわざこの光景をイリーナに見せて"悪い気分"を共有する必要もない。
「朝のやり取りを知られたってところか」
犯人はほぼ間違いなくクラスメイトの誰かだ。基本的には『美穂の事が好きな男子』の可能性が高いが、光彦が中途半端なフォローをしたせいでってパターンもあるので、一概に結論付けるのは難しい。
「あぁ、こっちは無事だったか…………しかし、どうするかな」
木のウロに隠しておいたチョッとした家財道具は無事だったが、普段なら仮眠をとっている時間。できれば生活リズムは崩したくないのだが、今からこの場を整えなおすのもダルすぎる。
「とりあえず、シャワーを浴びてから考えるか」
*
「悪いな、待たせちゃって」
「お構いなく」
シャワーを浴びていると、博士がやってきた。
「それで今日はどうしたんだ? 生憎、イリーナは留守だが」
「問題ない。"コレ"を持ってきた」
そういって紙束を差し出す博士。
紙束を拝見すると、それは回路魔術や触媒魔術の考察や応用法、はては"活用法"のアイディアが書かれていた。いたのだが……。
「もしかして、もうこの世界の言葉、読み書きできるようになったの?」
「必要なものだけ」
「そっすか」
やはり博士は天才だ。紙には、日本語と異世界語、そして複雑な計算式や見たことの無い術式が書かれている。俺もギルドで色々と勉強させてもらっているが、その知識をもってしても、このアイディアを完全に理解するには足りない。
「使えそう?」
「そもそも解読できない。あと、少し仮眠をとりたいのだが」
今日は試験を受けたのもあり、思った以上に疲れている。つか、最後の精神攻撃が一番キタ。
「ここで?」
「まぁ、そうなるな」
干し草は水浸し。寝るのに丁度良かった木の枝も折られているが、無いなら無いで何とかするのがサバイバルだ。
「丁度いい場所がある」
「??」
そういって歩き出す博士。つまり『ついて来い』って事なんだろう。
*
「ここって、入っていい場所なのか?」
「問題ない」
やってきたのは冒険者ギルドの裏手にあるアパート。博士は、そのうちの1つに、鍵をあけ、我が物顔で入っていく。
「書斎?」
「そう」
「そう、じゃ! ありません!!」
華麗なツッコミと共に駆けて来たのはノルンさん。やはり、入ってはいけない場所だったようだ。
「もしかしてココ、"女性寮"でした?」
「はい。ギルドで警報が、思いっきり鳴っています」
「結界魔法ですか? そういうのもあるんですね」
「はい、あるんです」
*
結局、冒険者ギルドの会議室に移され、お説教を受ける事となった。
「もう、リッカさん。部屋の事は内緒だって言ったじゃないですか」
「問題ない」
「あそこは女子寮なんですけど?」
「…………」
因みに、案内されたのはノルンさんが"こっそり"蔵書置き場として使っている空き部屋で、博士はソコに入りびたる事で、異世界語や魔法の知識を仕入れていたようだ。
「本当に申し訳ありません。知らなかった事とは言え、軽率でした」
「まぁ、キョーヤさんも大変だったようですから追及はしませんけど……」
別に罰せられるほどの事でも無いが、ノルンさんからしても、職権乱用で空き部屋を私物化しているので大事には出来ない事情があったりする。
「えっと、それじゃあ俺は、この辺で……」
「あ、そうだ。折角なので」
「はい?」
「いえ、
ノルンさんの提案を要約すると、
①、商人ギルドへの加入。商売をするつもりが無かったので考えていなかったが、俺は武器の購入頻度が高く、今後冒険者ギルドが直接買い取れないレアなアイテムを取り扱う事も予想される。それに備え、早めに商人ギルドに所属して、商人ランクを稼いでおくと何かと利益に繋がるそうだ。
②、貸工房の長期契約。商人ギルドに加入していれば貸工房を割引価格で長期契約できる。工房には鍵をかけられるらしく、素材や装備を保管しておく事も可能。趣味で装備を集めている俺には有用性が高い。
③、博士が考えたアイディアを実現するための場所と素材を提供する。ノルンさんから見ても博士のアイディアは"実になる"可能性が高いそうだ。
「なるほど、確かに工房を借りるのはイイですね。使用料の問題もあるので即答は出来ませんけど」
「そうですね。キョーヤさんには少なくない負担を課す事になります。じっくり考えてください」
「がんばれ」
「他人事みたいに言うなし」
当然のように、俺が借りる工房に居座る気満々の博士。ともあれ博士に、工房を借りる資金は無く、魔法素材を集める戦闘力も持ち合わせていないのも事実。そして俺が出資者になれば、その利益や研究内容に口出しする権利が得られる。
博士は生産系に限定すれば、間違いなくクラスでトップクラスの適性を持っている。そこに関与できる利益は、決して少なくないだろう。
「しかし、イイのか? クラスの方は」
「……? 泥船に乗る趣味は無い」
「ですよね~」
「あぁ…………私からはノーコメントでお願いします」
博士も、博士なりに考えて行動している。そしてその行動を評価したからこそ、ノルンさんも部屋を貸したのだ。
そんなこんなで、俺は商人ギルドに加入(予定)する事になった。
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