#133 第五階層の異変②
「 ……で、上位種には警戒が必要ですが、直ちに問題が出る事は無いと思われます」
「なるほど。これほど変化していたとは……」
「…………」
場所は冒険者ギルドの会議室。今日は、無理を言って第五階層の調査報告にお邪魔させてもらった。
いや、報告にパーティーメンバーが同席するのは珍しくないのだが…………キョーヤさんの報告は少し変わっていて、結果的にいつも1人で行っている。今回は、後学の為に見学させてもらう事にしたわけだ。
「しかし、新たな"ゲート"が関係しているのは間違いない様だが、解せないのはロード種らしきボスがいない点だ」
「そうですね。新たに出現した魔物は、既存の魔物とは異なる亜種個体です。……。……」
お互い資料を見ながら、目も合わせず会話を進める。キョーヤさんの報告書は、冒険者としては異例の"文章量"であり、担当ギルド員に任せず、自身で本格的な調査資料を作成する。当然ながら報告は『早くても翌日以降』になってしまうのだが、ギルドも『時間をかけるだけの価値がある』と判断して、報告の遅さは容認されている。
因みに、第五階層の異変の重要な鍵となるであろうものは、前回の調査で無事発見された。それが、新たなるゲートだ。別に、未開の新エリアが発見されたとかでは無いが…………内周にある既存の(各階を繋ぐ)ゲートの他にも、外周に新たなゲートが出来ていたのだ。
「この異変は、とうてい人為的に起こせるものでは無い。そうなると気になるのは、ユグドラシルの"ルール"として、最初からあったものなのか…………それともイレギュラーなのかと言う点だ」
「現状では"変化"しただけで、機能不全に陥るまででは無いようですね。しかし、将来的にゲートが増え続けるのは、シナリオ通りでも問題になる可能性があります」
当初はイリーナさんも同伴していたらしいのだが、彼女ですら敬遠する理由が理解できた。2人の話は、難解で、尚且つ長い。何より、話に割って入る隙が無いので…………正直、眠い。
昔から剣術を嗜んでいたおかげで、今では何とかキョーヤさんのパーティーに(臨時ではあるが)加えて貰えるようになったが…………やはり、冒険者としての格の違いを実感してしまう。それは、単純な技能や身体能力の問題ではなく『冒険者という職業に向き合う姿勢』だ。
戦力的についていけるようになって…………これでキョーヤさんの役に立てる! たまに失敗してお仕置き(ご褒美)を貰えたり!? なんて、安易に考えていた自分のバカさ加減が嫌になる。
「そのゲートが、キャンプ地に繋がれば……」
「はい。特に、亜種個体は異種族でも殆ど敵対しません。状況によっては、クエストを発行して亜種個体を能動的に狩ってもらう枠作りも必要かと」
「そうだな。そちらも検討しておこう」
「えっと!」
「「??」」
「その、亜種個体って、言いにくくないですか? 何か、呼び名とかがあると、便利かなって」
勇気を振り絞って、話に絡んでみた。我ながらズレた提案をした自覚はあるが…………空気のように扱われるのは悲しすぎる。それならいっそ、バカな事を言って、叱られたい!!
「あぁ、まぁ、そうかもな」
「ですよね! えっと、前足の部分が白くて…………そうだ! 指の数がよ……」
「まった! 外見は言及しなくてもいいから!!」
「え、あ、はい。すいません」
驚くほど、傷ついている自分がいる。せっかく叱られたはずなのに、全然嬉しくない。私、どうしちゃったんだろう……。
「いや、その、外見の特徴は資料に書いてあるから、それを見ながら話せばいいだろ?」
「あ、はい。そうですよね」
キョーヤさんが、いつになく焦っている気がする。私、そんなに不味い事を言ってしまったのだろうか? ダメだ、頭の中がグチャグチャで、感情の整理が追いつかない。
「ひとまず、名前の件は後回しでもいいんじゃないか? そう言うものはコチラで決めても、結局、世間に塗り替えられるものだ」
「そ、そうですね! そうしましょう!!」
「すいません。余計な事を言って」
「いや、クッコロが悪いわけじゃ……」
「ミネルバです」
やはり、私には頭を使う仕事は向いていない。逃げるようで情けないが、こういう仕事は素直に出来る人に任せるべきなんだろう。
そう! 私には"剣"がある。
また体を鍛え直し、余計な思考や脂肪を燃やして…………少しでも! 胸が小さくなるよう、努力する!!
こうして私は、決意を新たに、武の道を進む。
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