#134 第五階層の異変③
「やはり、キョーヤさんの"推測"は正解だったようですね」
「残念ながら、その様です」
「??」
夜、俺はルリエスさんと共に42Fの樹上から、魔物の動向を観察していた。
「まず間違いなく”ヤツ”が統率種でしょうね。しかし、後ろのも……」
「ボス級の魔物が2体。眷属も多いですから、これは迂闊に手は出せないですね」
俺の睨み通り、異変の核となる魔物は確かに存在していた。しかし予想外だったのは、それが2体も居た事だ。それらは同系の魔物を引き連れ、外周を行進している。
「アイツは43Fに行くようですね。もしかしたら、
「しかし、不思議な現象ですね。まるで、パレー……」
「行進! 行進と表現しましょう!!」
「え? えっと、私はそれで構いませんけど」
魔力が反応し、光を放つ幻想的な行進。その光景は神秘的ではあるが…………本能が、詳しい情景の表現を強く拒むものであった。
「やはり、アイツラがゲートを開けているんでしょうね」
「即座にって事は無いでしょうが、この現象を放置すると、新たなゲートが追加される可能性は、高いですね」
43Fに向かった一団は、見るからに南国風の魔物だった。そして、44Fは砂漠や荒野で構成されている。これでヤツラの目指す場所が『44Fではない』と言うのは無理があるだろう。
「朝になればボスは自然消滅するようですが、あの眷属は……」
「環境が適応すれば、そのまま"残る"可能性が高いですね。そして、先ほどの青い巨大精霊の一団も、やがては……」
ユグドラシルでは、階によって環境が固定されているので、こういった時間限定のボス(現象)は今までなかったが…………他の土地では、起こり得る現象の様だ。しかし、環境が魔力に反応して起こる"自然現象"に近い存在である魔物が、地形を変更しようとするのは極めて珍しい。
今回はあくまで"偵察"と言う事で、わざわざルリエスさんにも協力を頼んだが…………事が重大なだけに、後の事はギルドに一任する形になるだろう。
こういう時物語の主人公なら、人知れず問題を解決したり、先頭に立って活躍するのだろうが…………生憎、俺は主人公補正を持ち合わせていない。たとえソレで犠牲が出たとしても、独自判断で勝手な行動をとるつもりは無い。
「でしょうね。しかし、どうしたものか……」
「??」
「いや、身動きが、取れないなと思って」
「…………」
スッと顔を背けるルリエスさん。
今は、木の上に簡易の見張り台を設置し、2人で肩を寄せ合って隠蔽状態を維持している。もちろん、俺たちなら逃げ切るだけの実力はあるつもりだが…………ボスの特性も判明していない現状で、隠ぺいを解くのは軽率すぎる。
「そう言えばリリーサ様、軍を辞めるんですね」
「気軽に辞められるような仕事でも無いので、今年度は現状のままですが…………無事、引継ぎが済めば、退役となりますね」
俺はリリーサ様に嫌われているので、こういった話を相談される事は無い。しかし、三ツ星商会とのやり取りの中で、大体は知ってしまうのだ。
三ツ星商会の経営も軌道に乗り、ようやくリリーサ様は、自分の夢に専念できる環境が整ったのだ。まぁ、軍との直接的な接点が失われてしまうので…………クッコロたちの様に『奴隷落ちする前に引き取る』みたいな反則技が使えなくなるのは痛いが、それでもリリーサ様が軍の職務から解放されるのは喜ばしい。
それに、言っては何だが『奴隷商の教育』もバカに出来ない。行き場を失い、可哀そうなのは確かだが、それで開き直って我儘を言われても、ウチは"自立施設"であって"オカン"ではない。もちろん、ウチでもそのあたりの教育はしているが、限られた期限の中で初動の出遅れは軽視できるものではない。
「騒がしくなるでしょうが…………楽しみです」
「キョーヤさんは、その、リリーサ様にあれだけ嫌われているのに、その、嫌では無いのですね」
「別に、俺は見ているだけで充分ですから」
そう、俺はユリの花束に割って入るような無粋はしない。置物にでもなって、その様子を見届けられれば満足だ。
「その、このまま行けば、結婚と言う事になるのですが……」
「都合よく、リリーサ様が俺に惚れてくれるなんて、思っちゃいませんよ。でも、俺はソレで良いと思っています」
因みに、政略結婚が当たり前の貴族社会では、その性事情は千差万別らしい。もちろん、妻として子育てや家の事業に関わる場合もあるが、子供が出来たらあとは自由だったり、子作りを禁じられたりする事もあり、そこは本当に家次第だそうだ。
「その、不要だとは思いますが…………もし……」
「「…………」」
「すいません。今の話は、忘れてください」
時々、ルリエスさんが本当に年上なのか分からなくなる時がある。まぁ、そう言う所が『ウブなお姉ちゃん』みたいで可愛いんだけど。
こうして俺は、一晩かけてじっくり、ウブな反応を堪能した。
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