#135 異世界の距離

「……それで、何か用か?」

「「…………」」


 特訓後のシャワーが終わるのを待つ女性陣。一時期は壁を設置した事もあり減っていたが…………最近また復活した。推測するに、博士が設置した魔道具の効果なのだろう。俺が特訓を切り上げたのを感知して、それを知らせる仕組みのようだ。


「えっと…………なんだっけ?」

「のぞk……」

「わぁー! そうじゃなくて、ホラ! 第五階層の異変! どうなったのかなって」

「あぁ、その話か。ギルドは、しばらく観察のみで、介入はしない方針みたいだな」


 当然ではあるが、転移勇者は皆、第五階層の異変に複雑な思いを抱えている。


「やっぱり、地球の"アレ"って(この世界からの)帰還者が作ったのかな?」

「いや、それは……」

「でも! 実際、ブラックマウスとか、それっぽい魔物ばかりが出現するダンジョンはあるんでしょ?」

「私はやはり、"予兆"だと思う」


 博士の考えでは『この世界と地球は、遠いながらも"繋がった"世界である』そうだ。


 過去の記録を確認すると、勇者召喚で『召喚元として選ばれる世界は少ない選択肢からのランダム』のようだ。国は、そのあたりルールを秘密にしているようだが…………どうにも日本人が召喚されたのは1度や2度では無いようだ。


 加えて(正確な年数は不明だが)500年周期で起きる魔王大戦が近いのも大きな要因と見られている。本来の転移勇者は、自然現象として自然に生まれるものであり…………つまり、地球が(時空単位で)繋がりやすい位置に来ているのだ。第五階層の変異は、その接近が原因であり、魔王大戦が近づいている"予兆"って事になる。


「でも、魔王とか勇者って、必ずしも異世界から来るんじゃないんだよね?」

「そうらしいが、周期って概念があるんだ。時空レベルの同調が条件に入っているのは確かだと思うぞ」


 一般人の強化バージョンに過ぎない俺たちからして見ると雲の上の存在だが、本物の勇者・魔王は、1人で大陸を制するほどの能力を持っており、たとえば『殺しても異空間に保存した情報から蘇生できる』とか『見ただけで何でも塵にかえす(多分、原子結合を解除する魔眼)』とか、『空間を自由に切断できる』などのブっ飛んだ能力者ばかりだそうな。


「でも不思議。魔王の武勇伝は、むしろ昔の方が凄いのよね?」

「尾ヒレがついている部分も、あると思うけどな」

「そうなの?」


 何せ勇者・魔王の行動には一貫性が無い。人知れず生まれ、ただの天才として余生を全うする事もあれば、文明がリセットされる程に荒れる事もあるので…………勇者・魔王の能力に関しては眉唾な部分が多い。


「地球の神話も、そんな感じだろ?」

「あぁ~。確かに」

「……!! あぁ、間に合わなかった……」

「「…………」」


 そこに飛び込んできたのはクッコロ。クッコロは最近、本当に頑張っているのだが…………どうにもオーバーワークになっているようで心配だ。


「クエスト帰りか? 悪いが俺は、ちょうど上がりだ」

「うぅ、それじゃあ、失礼して……」

「ちょっと待った!!」

「油断できない」

「…………」


 自然な流れで服を脱ぎ、汗を流そうとするクッコロを2人が制止する。


「お構いなく。私は戦士ですから、裸を見られる程度は……」

「ダメだよ! ミネルバはまだ嫁入り前なんだから」

「既成事実を作るつもり」

「ぐっ……」


 クッコロは父親が兵士なのもあって、そのあたりの感性は軍人よりというか『羞恥心を捨てるのも冒険者には必要』と考えているようだ。もちろん、冒険者にそんなルールは無いのだが、水袋での行水の方が手早くすむこともあって、昼間は中庭を利用しているようだ。おかげで、何度か裸のクッコロに鉢合わせしてしまったが…………そこは忍者スキルの<五輪>を駆使して平静を装っている。


「そういえばクッコロ、お前、かなり痩せたな」

「そ、そうですか!?」


 クッコロはビキニアーマーなので、痩せてきているのは気づいていた。だが……。


「痩せすぎだ。食事と睡眠が足りていないから、筋肉まで落ちている。それじゃあ逆効果。強くはなれないぞ」

「いや、それは……」

「「…………」」

「はぁ~、これだから恭弥君は……」

「助手は、ダメダメ」

「えぇ……」


 突然、敵に回る2人。女性としてダイエットが重要なのは理解できるが、矛先の変化が俺の理解を超えている。


「その、キョーヤさんだって、最近、特訓に力を入れているじゃないですか? それに、身長はどうにもならないし……」

「うぅ、健気なミネルバちゃん」

「ほんと、ダメダメ」


 いや、俺は男で、女心が分からないのは否定しないが…………そこまで叩かれるほどか? むしろ、男心を理解してほしいくらいだ。


「あっ! そう言えば、ちょうど……」

「あっ、話を変えようとしてる!」

「煩い! 新しい技が、やっと完成したんだ」

「「おぉ~~」」


 俺の<バースト>は、射程を犠牲にする事で、速さ・威力・燃費の3つを高めた"必殺技"と呼べる代物だが…………新たにもう1つ削って、更に尖ったスキルを開発していた。こっちは(珍しいだけで)既存の魔法だった<バースト>と違い、オリジナル魔法になるので習得に時間をかけてしまったが、今日、なんとか形になった。まだ改良点はあるが、魔法としてはこれで完成だ。


「よし、それじゃあ見せてやろう」


 穴のあいた台に木の棒を刺し、そこに藁で作った玉を突き刺す。


 続いて、手を組み、人差し指だけを伸ばして…………そこに魔力を集中させる。イメージは『小さな刃』、ちょうど指を"メス"に変える感じだ。


「「…………」」


 そのまま指を藁に突き立て、藁の中で圧縮した魔力を解放する。


「よし、成功だ」


 指を抜き、突き出た枝を引き抜くと…………枝は丁度半分のところで切断されていた。


「凄いです! 指が吸い込まれて行って、何より無駄が無い!!」

「でも…………相変わらず地味だよね」

「そもそも、指の形がカンチョ……」

「煩いぞ! 2人とも。人が必死に編み出した新技を……」


 俺が編み出した新必殺技は<点穴破壊ピンホールバースト>と名付けた。指先に圧縮した魔力を刃にして相手を貫き、最後にその魔力を解放して小規模の爆発を起こす。基本的には、頭や首筋に打ち込み、神経破壊による即死を狙う技だ。


 発動には"タメ"を必要とするが…………それでも動物系の魔物なら、僅かな外傷だけで即死させられる上に、魔力消費も非常に少ない。そのまま<解体>に持ち込むことも可能なので、特訓を重ねて練度を上げていけば、<バースト>以上に実戦で活用できる技になってくれるだろう。


「カンチョー? えっ!? 浣腸ですか!!? まさか! それをお尻に……」

「クッコロに、変な知識を植え付けるなよな」

「あぁ…………よりにもよってミネルバちゃんに」

「しまった」

「??」


 よく分からないが、この場は有耶無耶のまま解散となった。




 その後、<点穴破壊>はオリジナル魔法として魔法使いギルドに登録された。まぁ、ハイリスクすぎて俺以外に実戦で使えるヤツが出てくるとは思えないが。

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