#132 第五階層の異変①

「確かに、出現する魔物が変わっているな」

「第七階層解放の余波でしょうか? それとも、何か他の要因か……」

「でも、不謹慎ですが、ワクワクしますね!」

「にしし、確かに!」


 今日はクッコロも加えた4人で、42Fの森の調査に来ていた。その内容は『第五階層の魔物の分布が一部変化した』事による調査だ。


「本来は、オークがメインで、後はトレント、僅かに虫系の三すくみでしたので、ここまで"ブラックマウス"が出現するのは異例ですね」

「そうなると、オークの皮が、値上がりするのかな……」


 本来、ユグドラシルの魔物は階で出現する魔物が決まっている。それは魔物が環境依存の生物なので当然なのだが…………主要な魔物が入れ替わる現象は非常に珍しい。


 因みにブラックマウスは、黒い半二足歩行(二足と四足を使い分ける)のネズミの魔物で、一言で言えば『ゴブリンのネズミ版』だ。本来の生息域は31~32Fの森なので、格上であるオークを下克上した形になる。


「もともとオークの皮は、それほど需要が無いから問題にはならないだろうけど…………分布の変化は思わぬ事故死につながる。外周まで、詳しく調べてみよう」

「「はい!!」」


 ウチの冒険者組もそうだが、ユグドラシルの冒険者は、特定階の攻略に特化した装備で挑むので、分布の変化は軽視できない問題となる。


「ッ! やはり、数が、多いようですね」

「コイツ、剣が傷つくから、嫌いだ!」

「こんな事なら、私もメイスを持ってくるべきでした」


 ブラックマウスは、第四階層相当の魔物なので、単体での強さはそれほどでもない。しかし、モールのように若干の無機物(金属装備)特攻を持っており、戦っていると装備の消耗が激しくなる。


 一応、艶やかな黒い皮なので、売価はそれなりに高いが…………経費を考えると、微妙なところだ。結論としては、装備を必ず最適なものにするか、ノーダメージで狩れるだけの実力が必要な狩場になってしまった。


「「…………」」

「気配が、変わりましたね」


 断続的に繰り返されていたブラックマウスの攻撃が、とつぜん止む。


「そこだ!!」

「お見事です!」


 俺は背後からの奇襲を察知し、振り返り様に弾き飛ばす。


「"レッドパンツ"、それもアサシンタイプですね」


 ゴブリンの上位種にレッドキャップが挙げられるが、ブラックマウスにも同様にレッドパンツと呼ばれる上位種が存在する。体格はそれほど変わりないが、完全に二足歩行となり、腰を赤い布で覆っている。そしてなにより、1番の特徴は手にした武器に順応している点だ。今回は短剣装備と言う事で、奇襲と機動力を重視したタイプのようだ。


「しかし、てっきり統率種ロードが出てくるものだと」

「それ、フラグって言うんだぞ?」

「え? あ、あぁ、その、すいません」


 意味も分からず取り合えず謝るクッコロ。


 クッコロは、対抗意識もあって昔は結構噛みついてきたが…………鞭子と別れ、新人を指導する中で、だいぶ角が削れて丸くなった。しかし本音を言うと、アダ名の通り反抗的なままでいて欲しかった。


 もちろん今の方が仕事はやり易いが、仕事的と言うか、ロマンの割合が減ってしまっているのは何とも寂しいものがある。


「ロードではありませんが、イエローハウンドも来ました!」

「ボス! 木の上に、なんか青いのが居るぞ!!」

「外周の方が、入れ替わりが激しいようだな」


 次々と、言及しにくい魔物が出現する。難易度自体は第五階層相当なので決壊する事は無いだろうが…………これは、思った以上に入念な調査が必要なようだ。




 そんなこんなで俺たちは、第五階層の分布を調査する事となった。

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