#131 エピローグ・帰還の儀

「ついに、この時が、来ちゃったね」

「今さらですけど、残って良かったんですか?」


 あれから、2年の時が過ぎた。


「正直に言うと、"結果"を見届けたい気持ちはあるけど…………そのあとの事を考えると、やっぱりね」


 その2年で、俺たちは帰還費用である10億を用意し、今、希望者を帰還させる儀式が開かれている。


 内訳は、俺が2億、博士たちが1億、デブは2億で、聖光同盟やその他の連中が出し合った分が1億。そして、残りの4億は光彦が支払った。(実際には借金でもう1億払っている)もちろん、パーティーで行動していたので1人で稼いだわけでは無いが…………それでも復帰後の光彦は、別人と思えるほどに必死で働き、持ち前の豪運もあって稼ぎに稼いだ。


 まぁ、途中から精神が本格的に壊れて、無休でダンジョンを徘徊し続ける様になっていたので、稼働時間から考えるとそれほど稼げていないのだが。


「結局、3分の1になっちゃいましたからね」

「流石に、少なすぎるよね」


 あれからも普通にダンジョンで命を落とす者は出たが…………それでも殺人などの事件は起こらなかった。しかし、犬子や鼠使いなど、この世界で新たな"幸せ"を掴んだ者も多く、結局、帰還希望者は10人になってしまった。


 そして、残留を望んだ者は一律に『時空転移の影響で消えた』事にする話で纏まった。まぁ、帰還魔法自体が眉唾だが…………それでも『犯罪者になって御子息を切り落とされました。これが、ご子息の御子息です』とか、遺族も聞きたくは無いだろう。


「10人もいれば、充分でしょ? 異世界に、生身で渡ったんですから」

「それは、そうだけど…………大丈夫かな、皆」


 一応、帰還希望者は、少しでも成功確率を上げるため、一時的にクリスタルに封印する事にした。これは、魔力やギフトが転移に悪影響を及ぼさないための措置であり、時間経過で自動的に解凍される設定になっている。


 帰還後の場所や時間軸がどうなるかは分からないが、まぁ、そこは国の『召喚時と同じ場所・同じ時間に戻る』と言う言葉を信じるしかない。結果を確認する術は無いし、興味も無い。心残りがあるとすれば、『残留を望んだ者が予想よりも多かった』事だ。そのあたり、光彦が壊れてカリスマを失ったのが大きい。


「見せて、貰えなかった」

「だろうな」

「もう、無茶して……」


 帰還の儀式は、当然ながら非公開。それでも術式を確認しようとした博士が、兵士に強制退去させられ、先生に手当てを受ける。


「しかし、それでも結構な肩書の魔法使いが集まって、本格的な事をやっているんだよな……」

「たぶん、実験の意味も大きい」

「それこそ、送り返したフリをして、魂を保管していたりしてな」

「うぅ、怖い事、言わないでよね」


 実際、俺たちは召喚直後に、地球の技術について聞かれても居なければ口止めもされていない。拘束具が無いのは、そもそも出られないからイイとして…………記憶に関しては『魔術的に抜き取られた』あるいは『確認済みであった』と見ている。


 まぁ、この世界では魔力の影響で、電子機器や電波が上手く機能しないので、国もそのあたりの活用は『投資に見合わない』と判断しているのだろう。


「でも、他国ではホムンクルスに人の魂を植え付ける研究があるって」

「それだと、上手くいけば無限の命が手に入るな」

「思いっきり、禁忌っぽいよね」

「実際、国際法で禁じられているらしいですよ?」


 正直なところ、興味はある。流石に命を弄ぶ様な事をするつもりは無いが…………もし、人工的に作られた"美少女"が発売されたら、5億くらいまでなら出してもいい。


「ご主人様、会食の準備が整いました」

「なぁボス! ハラ減ったぞ!!」

「だから…………ご主人様に、登らないでください!!」


 やってきたのはイリーナとルビー。


 今日は、儀式に合わせて"お偉いさん"が集まったので、ついでにウチの活動や研究成果をお披露目する事になっている。しかし、ぶっちゃけて言えば、相手は営利目的で俺たちを召喚した『人権何それ? 勇者召喚は、ただの課金ガチャ』と本気で思っている連中であり、とても仲良くなれるとは思えない。


 しかし! それでもロマンに人生を費やし、恵まれない異世界の美少女たちを救うには、そう言った権力者とも上手く付き合っていかなければならない。だから…………




 俺はこの理不尽な世界に逆らわずに生きていく!

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