#034 マジックポット
「も~えろよ、もええろ~よ~、ほのおよも~え~ろ~」
「ご主人様、その呪文はどんな効果があるのですか?」
「あぁうん、これは詠唱ではなくて、たんなる"お約束"だから」
「はぁ……」
やってきたのは36F。このエリアはアリの巣状の洞窟になっており、無数の袋小路が幾つも存在する。出現する魔物は、岩や鉄でできた甲羅をもつ各種タートルがメインになる。
「しかし、なかなか便利だな。
「鉄屑を捨てる用事もありましたし、まさに両得ですね」
タートル系は防御力が高く、トレント以上にタフな魔物だ。足は遅いので遠距離攻撃で一方的に狩る事も可能だが、そこが大きな落とし穴であり、初心者冒険者を数多く屠ってきた危険な魔物だ。
逃げ回るには場所が悪く、一定以上の火力が無いとすぐに囲まれ、袋小路に追いつめられてしまう。幸いなことに魔法攻撃には弱いので、魔法使いを有するパーティーなら狩りは成立するだろう。しかしこの世界では、魔力回復速度がそこまで速くないので、ゲームのように強力な魔法を気軽に連発は出来ない。
「とはいえ、ドロップが軒並み"重い"のは減点だな。とてもじゃないが、籠れる狩場じゃない」
「そうですね。やはり、ここで本格的な狩りが出来るのは、本職の魔法使いの方だけでしょうね」
ここに来た理由は2つ。鍛冶師ギルドから押し付けられた廃材の処分と、ファイヤーポットの試験を兼ねた狩りとなる。
ファイヤーポットを使った狩りは、ドロップが不燃性物質の魔物に限定される。それ以外ではまず赤字になってしまうが、条件さえそろえば可成りの"瞬間効率"が期待できる。しかし、実際にはポットの補充や生産などの問題もあるので、差し引き『そこそこ良い』程度にとどまる。
「あっ、"属性結晶"がドロップしていますよ」
「また"土"か。まぁ、出るだけマシだけど」
各種タートルの基本ドロップは鉄鉱石などの鉱物で、稀に宝石のような石をドロップする。いや、じっさい宝石らしいのだが、これは『魔力の属性を変更する』効果を持っており、高度なマジックアイテムには無くてはならない素材となっている。
残念ながら殆どが土属性の属性結晶であり、買取価格は数千止まり。需要の高いのは火と水で、こちらは1つで十万弱と高値で取引されている。一応、低確率で水属性はドロップするので、それがでれば大当たりって感じだ。
「もうカートが満杯ですね。やはり、もっと大きなカートにしませんか?」
「ん~。あまり欲を出すのも危険だが、確かにココへの往復は、非効率なんだよな」
ゲームなら、都合よくアイテムのサイズや重量は調整されているが、現実では鉱物が"重い"のは事実であり、行きは嵩張る鉄屑、帰りは無駄に重い金属や結晶に悩まされる。まぁ、重さに関してはカートを大きくするのは逆効果だが、せめて今の2輪式では無く、4輪式のものにしたい。
「とりあえず、帰りますか」
「そうだな。それじゃあ交代だ」
「はい、お任せを」
イリーナからカートを受け取り、俺に代わって道中の戦闘を任せる。ついでにカートについて思いを巡らせる。考え事をしながらダンジョンを歩むのは褒められた事では無いが、これも交代制の強み。不測の事態に備え、体力や魔力は極力温存していく。
「ん~、やはり、カートは…………合わせて……。それとも……」
「そう言えば……」
「ん?」
「パーティーの勧誘、また断ったんですよね?」
「あぁ、まぁな」
試し屋を開業してから、中層で活動するパーティーから勧誘を受けるようになった。中層で活動するベテラン冒険者は、基本的に排他的で、召喚勇者を見下している。まぁ、その気持ちは理解できるし、俺だって同じ立場なら間違っても連中を仲間に加えたいとは思わない。
しかし、短期間で鍛冶師ギルドに取り入り、新工房のオーナーになるほどの"商才"があるなら話も変わってくる。つまるところ"金目当て"なのだ。だから上から目線で言いより、何かにつけて恩を着せ、代わりに"儲け"を吸い取ろうとする。
「その、私が言うような事でも無いですが……」
「前から言っているが、俺に気を使う必要は無い。言いたい事があれば言えばいいし、腹がたったら怒ればいい」
「えっと、やはり2人では、この先受けられるクエストが、限られるかと」
実際その通りなのだ。俺たちは交代制で戦っており、実質ソロで攻略しているようなもの。そうなると当然、後衛が必要になる狩りやクエストが受けられない。後衛職をパーティーに加えるなら、最低3人、出来れば4人以上でないと安全性が確保できない。
加えて、護衛系のクエストも少数パーティーは受けられない。今はまだランク的に支障は無いが、シルバーランク以上のクエストは、護衛に限らず受けるのに様々な条件が追加される。
俺の理論がどうあれ、現実問題として最低3人はいないと、この先(シルバーランク以上)は厳しいのだ。
「とりあえず、あとで奴隷商に行ってみるよ」
「また、お…………いえ、何でもないです」
「お、おぉ」
なにか嫌な予感がしたので、今度はあえてイリーナの判断を尊重する。
しかし、実のところ奴隷を増やすのはあまり考えていない。もちろん、イリーナのような"掘り出し者"が居れば買うのだが…………あれから数度行った限りでは掘り出し者には巡り合えなかった。
あと、関係ないが、基本的に若い女性の需要は高く、なかなか手ごろな価格では出回らない。そのあたり、どうやら若い女性を専門で買う貴族がいるらしく、殆どソイツに買われてしまっているようだ。
「…………」
いや、べつに他意は無いけどね? だからイリーナも、俺にジト目を向けるのは止めようね。
こうして俺たちは、"そこそこ"儲けていた。
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