#033 プレイヤーズA&B

「はぁ、やっと見つけた」

「きょ~やく~ん、ちーっす! 最近調子良いみたいじゃん? ゴハン、おごってよ~」


 狩りを終え、屋台通りで食事をとっていると、ガラの悪い女2人に絡まれた。


「あの、召喚勇者様の方々ですよね。おはつ……」

「あ~、奴隷ちゃんは呼んでないから空気読んで下がっててくれるかな?」

「そうそう、ワタシラ、大事な話があるから」

「え、あの……」

「イリーナ」

「はい、失礼します」


 この、話を聞いているだけで殺意が込み上げてくる人の形をした生ゴミは、召喚勇者であり、俺がプレイヤーズと呼ぶグループのメンバーだ。


「それで、なんの用だ? 聞きたいことがあるなら単刀直入に聞いてくれれば、直ぐに答えるぞ」

「そんな警戒しなくてもいぃ~じゃん、アタシラ友達だろ?」

「…………(んなわけねぇだろ、鼻折るぞ豚!)」

「まぁいいじゃん。予定とは違うけど、答えてくれるってんなら、ソレで」

「だな。んじゃ聞くんだけどさ~、どっちだった?」

「なんの話だ? 単刀直入っていうのは、主語を省けって意味じゃないぞ」


 一応、学園はそこそこ偏差値が高かったはずなのだが、どうしてこんなバカが入学してしまったのか? 学力もそうだが、目の前の男が今まさに『鼻をへし折りたい気持ちを必死で我慢している』事も察せられないのは考え物だ。


「そんなの決まってんじゃん。なぁお前、鏡花ちゃんとヤったんだろ? せっかくお膳立てしてやったんだから、それくらい教えろよな」

「そうそう、鏡花ちゃんの背中を押してあげたの、じつはワタシラなんだよ。よかったね、ドーテー捨てられて」

「ぷっ、言ってやるなよ。折角こっそり卒業できたってのに」

「…………(とりあえず、前歯"も"折ってもいいですか?)」

「ねぇ~、き~てる~? アタシラさ、これでも鏡花ちゃんの事、マジで心配してたんだよ。そりゃ、ちょっとウザい所はあるけど、いい人だし、出来れば吹っ切れてほしいじゃん?」

「そうそう。別に、鏡花ちゃんが悪いわけでもないのに、全部に責任感じちゃってさ。見てられないっての」


 プレイヤーズのAとBの根底には、『口うるさいお目付け役を厄介払いしたい』って思いがあった。しかし、これほどまでに度し難いバカでも…………実のところ2人に"悪意"は無い。単純に2人は、頭と股がユルく、何より違う価値観を持っているだけなのだ。


「知っていると思うが、先生は俺のところで暮らす事になった。まだ完全に吹っ切れてはいないが、面倒を見てくれる人もつけているので、後は時間が解決してくれるだろう」


 実際、教師の立場や責任から解放されるのに、2人のとった作戦は見事に目的を成し遂げている。まぁ、倫理的には限りなくアウトに近いアウトだが、それでも2人が、俺に出来なかった事をやってのけたのは事実なのだ。


「そっか。それなら、まぁいいけど」

「だな。でも、恭弥おまえは感謝しろよ。媚薬代、高かったんだからな」

「まったく、世話が焼けるんだよな~。これだから拗らせ処女は」


 以前何処かで『新入社員を吹っ切れさせるために先輩が後輩を風俗に連れていく』って話を聞いたことがある。2人からしてみれば、その程度のノリだったのだろうか? AとBの倫理観は全く理解できないが、とりあえず、鼻を折るのは無しにしてやってもいいだろう。


 俺は、テーブルに小袋を置いて席を立つ。


「ん? なにコレ。なんかのアイテム??」

「奢れって言ったのはソッチだろ? 10万(分の魔石が)入っているから好きにしろ」

「マジかよ!? ホントに羽振りがよかったんだな」


 流石に10万は俺としても痛いが、それでも財布の中身を数えるような女々しい真似は見せられない。


「先生の事は俺も思う所があったからな。しかしこれ以上、問題を俺に投げるのは"無し"だ」

「ふぅ~ん。まぁ、貰えるものは貰うけどさ」

「ところでさ、男どもに女冒険者おんなをアテがったの、恭弥なんだろ?」

「いや~、参考になったよ。あんがとね!」

「ぐっ……」


 全くもって返す言葉が無い。AとBに言いくるめられるとか、最悪すぎる。


「そうだ、忘れるところだった」

「ん?」

「アンタはアタシラの事が嫌いで、アタシラもアンタの事が嫌いだって思っているんだろうけど……」

「別に、ワタシラそう言うの気にしてないから。クラスが、なんかそう言う雰囲気だから合わせているだけ」

「金払いがいいなら、相手は誰でもいいって話か?」

「ハハッ! 流石に病気持ちと、避妊ができない人は、NGだけどね」

「そうか。……まぁ、なにか"情報"があれば買う。それ以外は受け付けないから、覚えておいてくれ」

「「…………」」


 それだけ言って、俺は席から離れる。AとBも俺の背を黙って見送る。


 正直に言って関わり合いになりたくない相手であり、こんな事を言うつもりは最後の最後までなかった。しかし、何か"大きな問題"が起きる時、いち早く察知するのはこの2人だろう。周囲の人から見れば、俺と連中は同じ"召喚勇者"と一絡げに見られてしまう。だから、もし何かあった場合に備えて、情報源は確保しておきたい。


 俺の目標は、あくまで『後腐れなくクラスメイトを地球に送り返す』なのだから。




 こうして俺は、バカの鼻を折り損ねた。

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