#035 悟志
「……報酬は、いつものように全額貯金でよかったですか?」
「はい、お願いします」
冒険者ギルドでドロップを換金する。
以前は1日2回だったが、36Fに通うようになってからは1日4回になってしまった。まぁ、手間は増えても稼ぎは増加しているし、道中でも魔物を狩っているので完全な無駄手間ではないが…………ゲーマーとしては、やはり黙々と長時間籠るスタイルの方が好みだったりする。
「あ、でも……」
「はい?」
「いえ、余計なお世話かもしれないですけど、これだけ魔法素材があるなら"マジックロッド"などを作成するのも良いんじゃないかなって。ほら、キョーヤさん、魔法も使えるわけですし」
「あぁ、そうですよね」
実際問題、ファイヤーポットで遠距離戦を仕掛けるなら、今の近接装備よりも魔法に特化した装備を仕立てた方が都合がいい。
「一応、完全に魔法に特化しなくても、レイピアなどに魔法増幅の術式を組み込む事も出来るので、用意しておくだけでも違いますよ」
もちろん、装備を揃えるのは大歓迎だ。しかし、俺はあくまで器用貧乏であり、魔法を連発できるほどの魔力量は持ち合わせていない。前衛なら中途半端な装備・ステータスでもなんとかなるが、後衛は役割に特化していないと使えない。相変わらず発想がゲーム脳だが、どうしても『使えない型』には拒否反応が出てしまう。
「すいません、もう少し考えさせてください」
「いえ、そこはキョーヤさんの自由なので、気にしないでください」
因みに魔法装備の作成は、魔法使いギルドの管轄となる。もちろんマジックレイピアなら、レイピア部分を作るのは鍛冶師だが、最終加工をするのが魔法使いギルドになり、各種魔術アイテム同様に魔法素材を取り扱うお店で販売される。
そのあたり、逆パターンもあるので紛らわしいが、今のところは試し屋では取り扱っておらず、道具屋でも販売していない。
「あっ、でも! ……試しで初級装備を一式、揃えてもらっていいですか?」
「ふふ、お任せください」
まぁ、ノルンさんに任せれば間違い無いだろう。
「それでは……」
「きょーちゃん!!」
「ふゃ!?」
急に名前を呼ばれて変な声が出た。
「ハァー、ハァー。探したよ。お店に行っても門前払いされるし、居場所も教えて貰えないから」
ベールさんには、アポ無しの訪問、特に召喚勇者は絶対に追い返すように指示してある。見つかってしまった今回は運が悪かったが、今後もウチは『勇者お断り』を継続していく。
「それで、なんの用だ?」
「お金を貸して!」
「帰れ」
本当に
「ち、違うの! そうじゃなくて、
「…………(誰だよ、その鼠の魔物を連れてそうなヤツは)」
「その、悟志君、上のキャンプで、その…………お酒を飲み過ぎちゃって」
「…………(ダメだ、眩暈が)」
「それでお金が払えなくって、お店の人に捕まっちゃって。今日中にお金を持っていかないと……」
「あぁ…………もしかして"癒しの園"の事でしょうか?」
「ノルンさん、知っているんですか?」
「えぇまぁ、一言で言うと、遊郭街にある"お高い"酒場です」
話を聞くとどうやら鼠使いは、中層にあるキャバクラの様な場所で見事にカモられたようだ。うん、死ね。
「それなら払うしかないんじゃないのか? ボッタクられたっていっても、精々数十万だろ??」
「そうですね。そう言ったお店は、確り注文した記録を残しているので、よほど法外な額でなければ払うしかありません」
勇者寮の連中は、もしもの備えで幾らか貯金している。本来は、大怪我や奴隷落ちした時の"保証金"だが、金を払えなかったら奴隷落ちになるので、条件は満たしているだろう。
「それが、その…………払えなくって」
「そんなにか? 法外な値段なら、俺よりも国に言った方がいいぞ」
極端な話、ドリンク1杯で百万なんて請求しようものなら、それは完全な詐欺であり、店舗側を法的に罰するべき案件だ。それが無くてもカモっているのは冒険者であり、ガラの悪い武力集団となる。そんな相手にそこまでの無茶な請求をすれば、その日のうちに店が物理的に潰されてしまう。
「それが、その…………30万なんだけど」
「まさか、20人以上居て、30万も用意できないのか!?」
数名は引きこもっているものの、それでも10で割っても1人3万。俺なら1日で稼げる額だ。
「無かったの。悟志君、クラスの積み立て金でコッソリ飲み歩いていたみたいで。一応、皆の手持ちを合わせて10万は用意したんだけど」
「よし、そのバカの事は諦めよう」
奴隷落ちすれば保釈金に百万が必要になる。しかし、払わず強制労働に従事してもらえば"タダ"だ。なんならそのバカを殺して、面倒なシガラミ全てから解放してやってもいい。
「待って、きょーちゃん! 貸すだけでいいから、お願い!!」
「…………半分冗談だ。払うよ」
とはいえ、ギルドとの約束もあるので保釈金を払わないってのは出来ないし、ましてや鼠使いを殺すのも犯罪になってしまう。
非常に不本意ではあるが、結局この手の問題は"金"で解決するのが一番なのだ。
「うぅ、ごめんね。お金は、必ず返すから」
「その必要は無い」
「えっ……」
俺は足りない20万を美穂に押しつける。この金を払う条件はシンプルだ。
「もう、二度と俺に"話しかけるな"」
「えっ……」
俺はボロボロと大粒の涙を流す美穂の姿から、逃げるようにギルドを後にした。
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