#029 試し屋①
「うぅぅ、ついに完成しましたね。ちょっと、ホロっとくるものがあります」
「そうだな。あっと言う間に完成したし、特に何か手伝った訳でもないけど、やっぱり自分の家が出来るってのは感慨深いものがあるな」
住居部分の内装がまだ未完成ではあるものの、ひとまず新工房が完成した。ここからは用途に合わせて機材を搬入したり、部屋の間取りを調整したりする作業になる。
何と言うか、日本の建設速度も異常だと思うが、錬金術を用いた異世界の建設方法も負けず劣らずミラクルだった。
「ふふふ、これで捗る」
「肯定。直ぐに機材を搬入する」
「「…………」」
微妙に違う所に興奮している2人をスルーして、とりあえず私物を搬入していく。
新工房はちょうど幼稚園くらいの建物で、こじんまりとしたグラウンドを望む形でL字型に石造りの大部屋が幾つも連なっている。そして1番の特徴が、部屋数や部屋の広さが調整できる点だろう。流石に柱は移動できないものの、錬金術を用いて壁を一時的に分解・結合することで後からでも自由に間取りを調整できるようになっている。
地球にも似たようなシステムはあった気がするが、こっちは強固な石(実物はモルタルのような作りものの軽量の石材)の壁がそのまま動くのだ。その光景は、映画に出てくるピラミッドのトラップであり、見ていて非常にワクワクする。
「やはり、工房として使う事を前提に作られているだけあって、床が確りしていますね。これなら、床が抜ける心配をしなくても済みそうです」
「そうですね。でも、入れるのは1階端の部屋にしてくださいね」
「はい、もちろんです!」
そしてノルンさんが、一部屋占拠して私物の蔵書を運び込む。一応、俺たちも自由に読ませて貰えるので文句は無いが…………何と言うか、思った以上に"ちゃっかり"している一面があって、日に日に親しみやすくなっていく。
「そうだ、イリーナは何か活用したい事とかあるのか? あるなら、早めに言わないと、みんな好き勝手に部屋を占拠していくぞ」
「え、そうですね…………少しでも家賃の足しになるような何かがいいのでしょうが…………。あぁ、でもでも」
考え込むイリーナ。基本的に冒険者以外の事には優柔不断であるものの、商人の血が流れているのも事実であり、引退後の事も考え、そっち方面のスキルを伸ばしておくのも悪くない。
「そう言えば、キョーヤさんは何か考えていないんですか?」
「もちろん考えていますよ。後で、グスタフさんのところに相談しに行く予定です」
「
「えぇ、許可と言うよりは、協力の要請ですね」
「??」
俺のアイディアは、すでに鍛冶師ギルドには通してある。特に問題になるような"サービス"では無いが、冒険者ギルドの協力が有ると無いとでは商売として雲泥の差が出てしまう。
*
「なるほど、相変わらず面白い事を考えるな」
「一応、既存の商店とも競合しないので、問題は起きにくいと思うんですが……」
早速、冒険者ギルドのギルドマスターであるグスタフさんに計画書を見せる。
「ひとまずコノ内容なら問題は無いだろう。ギルドとして正式に協力関係を結ぶかは会議を通す必要があるが…………鍛冶師ギルドが認可しているなら、まず通ると思ってもらって構わない」
「ありがとうございます!」
俺が提案したアイディアは『試し屋』だ。
①、ダンジョンの外にある鍛冶師ギルドで、新人鍛冶師が作った試作武器を引き取り、新工房に展示して"試し振り"してもらう。
②、冒険者ギルドにも協力してもらい、武器を新調する際の"欠かせない場所"としてダンジョン内外の冒険者にアピールする。
③、施設内では装備の販売は行わない。これは既存の商人に疎まれない為でもあるが、販売目的になると如何しても販売用の在庫や売れ筋にスペースが取られてしまう。試し屋はあくまでニッチな需要と"俺の趣味"の為の展示施設と割り切って運営する。
④、施設の運営費は、関連ギルド・商会の出資と注文を受ける際の紹介料で賄う。出資を受けると展示装備に"取扱店舗"として店名などが記載されるので、賢い商人は出資してくれるだろう。
⑤、最終的には、鍛冶師がネタで作った珍装備や、同じ武器でも刃渡りなどに変化を持たせた装備を並べ、細かなニーズに応える形でオーダーメイド装備を仕立てる際の検証の場として活用してもらう。
「あと、話はそれるがノルン君の蔵書を引き取ってくれたそうじゃないか。感謝させてくれ」
「いや、まぁ、お互い利害が一致しているので」
因みに、店頭で取り扱う装備は全て、鍛冶師が試作で使う"粗鉄"製や質の悪い革製品で統一する。これは割れやすく実戦では使えない代物だが、サイズ感やバランスは分かるので問題ない。加えて鍛冶師ギルドも、精錬の過程で出るロス素材と練習で作った装備を提供しているだけなので負担も少ない。
正直に言って利益が出るかはサッパリ分からない。しかし、あくまで廃材を用いた仲介なのでローリスク。新工房の運営資金の足しになれば御の字なので、分の悪い賭けではないと見ている。ただし、最低1人は店員を常駐させる必要があるので、利益次第では営業日や開店時間を制限する必要がでてくるだろう。
「ここだけの話だが、近々増員を予定していてね、部屋が空いて助かったよ」
「プッ、ノルンさんって、何と言ったらいいか…………"上手い"ですよね」
「まったくだ」
そんなこんなで、新工房を利用した副業の計画も着々と進んでいた。
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